報告
更新日:2000.10.05
アンマン・レポート 2 本会議スタート(2000.10.05)
昨日夜の開会式に続いて、今日から本格的な「第2回世界自然保護会議」が、ヨルダンの首都アンマンの国立競技場で始まった。ホテルから会場に向うバスの中から見る中近東の代表的都市は、まるで砂漠にカラーコーディネートしたかのように、砂色のビルで埋め尽くされている。その中で唯一、国立競技場は、マツやイトスギなどの緑に囲まれていた。
8時に会場に着き、レセプションに向う。途中、英国田園委員会のフィリップス氏、IUCN保護部長のマクニーリー氏、国際アフリカゾウ保護基金のオリンド氏、モンゴル自然保護協会のツェツェドルジ氏、台湾国立公園協会の張会長など、たくさんの知人に会い、なかなか受付にたどりつけない。
受付では、事前登録の領収証を見せ、名札とたくさんの書類を受けとると、今度は発言カードの列に並び、本会議で発言するときのカードを受けとる。これまでは、ただの白い紙だったが、今回からはICチップが埋め込まれたクレジットカードサイズのカードに変わった。発言するときにマイクのついた機器に差し込むと、団体名がスクリーンに映し出される趣向のようだが、国際会議も年々やりかたが変わり、少しブランクがあると着いてゆけなくなる。最後に投票カードの受け付けに並び、日本自然保護協会の公印を押した会員資格証明書を見せる。IUCNの投票権は、この会員資格証明書を持参するか、参加できない場合には8月までに投票代理人を記入してファックスする。国内の10団体が出席できないため、代理人に私を指名して資格証明書をファックスしたので、私は11枚の投票カードを手にすることになった。"You are the busiest manという係の人の言葉とともに。
9時からは、インタラクティブセッションと題して、10月5日、7日にわたって、今回の会議のメインテーマである「エコスペース」をめぐって12の分科会が開かれる。しかし同じ9時から、沖縄のジュゴン、ヤンバルクイナ、ノグチゲラの勧告案に関する日米関係者の討論が行われることになったので、勧告案の提案団体であるWWF-Jの花輪さんとNACS-Jの私は、分科会はやめて勧告案の討論に参加することになった。討論会場には、沖縄の自然保護団体の方たちも10人近くつめかけていた。

まず、IUCNのSSC(種の保存委員会)から、今回の討論の趣旨が説明される。日本の自然保護6団体(WWF-J、NACS-J、日本野鳥の会、エルザ自然保護の会、日本雁を守る会、野生動物救護獣医師協会)から、沖縄のジュゴン、沖縄のヤンバルクイナ、ノグチゲラの2つの勧告案が出されていたが、近い場所のことでもあり、また勧告の対象も日米両政府なので、2つの勧告案を1つにまとめてほしい。また、本会議でディベートをする前に、日米両政府とNGO が話し合って採択できる案にしてほしい、という趣旨である。これに対して、WWF-Jの花輪さんから、すでに1つにまとめた案を用意してあるので、これをもとに話したいと提案があった。日本政府側(外務省地球規模問題課高橋課長、環境庁計画課小野寺課長)もこれに同意。米国政府側は、この時点ではまだ到着していなかった。
まず前文から一つひとつ検討をすすめる。
沖縄のジュゴンに関して、「(辺野古地区における)空港計画が現計画のとおりすすめられれば」という文に、日本政府から「まだ具体的な計画はできていない」という物言いがついた。私が離日する10月4日の朝日新聞に、2000mの滑走路を持った軍民共用の飛行場の計画が発表されていたので、その記事の切抜きを示して反論すると、「それはあくまでも県の要望であって、国としてはまだ決めていない」とのこと。最終的には、「もしこの地域に空港が建設されれば、・・ジュゴンの生息地として重要な辺野古沿岸のサンゴ礁と藻場を破壊することになる」という表現に落ち着いた。

沖縄の勧告案に関する日米両政府との討論のようす
ここで米国政府側が到着。米国海洋保護庁の海洋保護センターのエイミー・ブラティナムさんが、「きちんとした環境アセスメントを実施してほしい。また米国としても、ジュゴンは米国の『絶滅のおそれのある種の保存法』の指定種なので、日本政府と共同して調査をすることが必要だと考えている」と発言。急遽、環境アセスメントに関する前文が付け加えられたり、日本政府に要望する項目と米国政府に要望する項目とに整理しようという提案が行われたりして、本文には大幅な変更が加えられた。そのため日米両政府とも本国に問い合わせをする必要が生じ、明日の昼、討論が続行されることになった。
勧告案は、10月7日午後6時から8時(日本時間10月8日午前1時から3時)に行われる全体会議に諮られる予定。海上の森の勧告案は、修正案の要求がどこからもでていないため、この時間に採択されることはほぼ確実。沖縄の勧告案も、米国政府がジュゴンの保護に積極的なので、この時間に採択される可能性が強いが、もつれこんだ場合には、10日の午後6時から8時の時間帯になる。
昼は、本会議場で、次期3年間の理事立候補者の立会演説会があったため、昼食も食べずに聞きに行った。何しろ11団体の票を預かっているので、責任重大だ。アフリカ、中南米、北米カリブ、南・東アジア、西アジア、オセアニア、東ヨーロッパ・北・中央アジア、西ヨーロッパというブロックごとに、3名ずつの理事を選ぶわけだが、3人しか立候補していない地域もあれば、11人も立候補している西ヨーロッパのような激戦区もある。日本を含む南・東アジアブロックからは、インドから2人、バングラデシュから1人、フィリピンから1人、中国から1人、そして日本から赤尾大使(元地球環境担当大使)が立候補している。
午後は、インタラクティブセッションの第1分科会「大きな視点から~山岳、河川、流域の生態系管理」を聞きに行った。「大きな視点(BigPicture)」とは何のことかというと、要するに、狭い保護地域のことだけ守ればよいというのではなく、山から川から海まで、流域全体の保全という広い視点にたって、21世紀の自然保護をすすめようとするものである。午後の発表者は、中米の保護地域をつなぐコリドー、南部アフリカ諸国の国境をまたぐアフリカゾウのためのコリドー、オーストラリア東海岸の森林保護区をつなぐコリドー、北極をとりまくコリドーなど、コリドー(回廊)の話題であふれていた。
最後にWCPA(世界保護地域委員会)の委員長のフリップス氏が、「本日の分科会で私たちは共通の合意に達した。それは21世紀は厳正に守る保護区だけではなく、保護区をとりまくバッファーゾーン、トランジッションエリア、農村景観など、外側に目を向けてゆかなければならない。それにはエコロジカルな視点、環境保護の視点に、社会的な視点、経済的な視点、文化的な視点、環境安全保障の視点を加え、また関係者のパートナーシップが必要になる。そのためには、言葉の定義の混乱、コミュニケーションギャップ、組織の壁を越えなくてはならない。解決のキーとなるのは、政治的なリーダーシップ、ビジョンの共有、パートナーシップの形成、資金調達、フレキシブルでアダプティブな戦略である。厳正に保護する聖域から、景観全体へ視点を広げよう」としめくくった。これはまさに白神山地の入山規制問題から、瀬戸市の海上の森の保全利用の問題まで、私たちが直面している問題に対する方向性を指し示すものである。
明日は全体会議における、3年間の予算決算、事業報告事業計画の審議があるが、午前中は近くのホテルで、世界遺産条約に関する非公式な会議があると聞いたので、午前はそちらに出て、昼は沖縄の勧告案の討論会に出る予定。午後は全体会議に戻るが、終了は午後9時というハードスケジュールの会議である。