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保護地域が広がる中、 顕著となってきた制度上の課題

2010.09.01
活動総括

会報『自然保護』No.517(2010年9・10月号)より転載


 

オキナワウラジロガシin奄美.jpg日本を代表する自然、特殊な要素を持つ自然地域を保護地域化していく取り組みが実を結び、現在各地で進行中です。私もNACS-Jの役員として、北海道の大雪山系と日高山脈、沖縄県西表島、鹿児島県奄美大島と徳之島で、森林生態系保護地域の拡大と設定のための検討委員会に参加し続けています。

大雪山系と日高山脈の森林生態系保護地域と緑の回廊の区域案に対しては、北海道森林管理局のウェブサイトで社会からの意見聴取も8月に行われ、今年10月にはそれらの意見を反映させた上で設定の手続きに入ります。

昨年は、尾瀬の国立公園地域と小笠原諸島全域への森林生態系保護地域の拡大に取り組み、実現してきました。これらは現在、尾瀬は至仏山の高山植生・雪田植生・傾斜湿原の保護修復のための登山道の一部迂回計画、小笠原諸島は世界自然遺産への登録や外来種排除への道筋づくり、NACS-J会員による組織と行政との保全活動の協定事業化など、保護の次の段階に移っています。このような長期の取り組みに応援をいただいている会員の皆さまに、改めて感謝します。
(右写真:奄美の保護林にしたい森の中のオキナワウラジロガシの大木)

国以外が森林の所有者だったときの課題

しかし、保護地域の質を考えたときの課題は、なかなかなくなりません。ひとつには、森林生態系保護地域は林野庁が国有林に設定する保護地域なので、国以外が所有する森林が接している場合には生態系保護地域の設定の際に協議を行い、保全管理の方針をそろえてもらわないと効果が下がります。

例えば、北海道の日高山脈の南西部には広く北海道有林がありますが、7月29日の設定委員会では北海道の林務局長から保全管理の方針をそろえる意向が述べられ、保護地域としての完全性を高める(守るべき範囲が収まる、保護地域の形が整うなど)ことが約束されました。

一方で、西表島の森林生態系保護地域拡大案の中には、西側に東京の大手製紙会社と林野庁が分収育林の契約をしている約1500haの森林があります。大きな部分を占めるのですが、会社として契約の放棄はできないとのことから、現在の生態系保護地域拡大案からは落とさざるを得なくなっています。

複数の保護制度が重なるときの課題

より大きなそもそもの課題もあります。国立公園(環境省所管)は、たくさんの土地所有者のさまざまな土地に対して指定し、利用を前提としています。一方、保護林(林野庁所管)は、自前の所有地である国有林に対して設定し、保護が前提です。それらが、重なったりどちらか一方である場合、保全管理と利用に適切さをもたらすことは、難しい課題なのです。

環境省には、保存が前提の保護地域としては自然環境保全地域(自然環境保全法)があり、利用が前提の国立公園(自然公園法)とどのように区別していくか。また林野庁には、保護が前提の保護林に対して、利用が前提の「レクリエーションの森」制度があります。この2つの役所が持つ4つの制度をどう体系化し、現実のフィールドでどう重ね合わせるのが最適か、が今後の大きなテーマです。南西諸島の奄美もやんばるも西表も、国立公園の指定や拡大の計画があり、いわゆる木材生産との調整だけで決めてきた過去の保護地域の区分とは決定的に異なる協議が、政府機関の間で必要です。社会からも、保護地域の保護と利用のあり方からみた改良案の提案が求められています。

(横山隆一・常勤理事)

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