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愛知教育大学・森山昭雄教授による意見書(その他全般の項目に関して)

1999.04.07
要望・声明

■愛知教育大学・森山昭雄教授による意見書
(森山教授の許可をいただき、全文を掲載します。なお、ぜひご注目いただきたい点を、NACS-J編集広報部の森本が着色し、レイアウトを変更させていただいています。)


 

1999年4月5日

愛知県知事 神田真秋 様
(財)2005年日本国際博覧会協会会長 豊田章一郎 様

愛知教育大学地球環境科学領域
教授  森山 昭雄

 

万博・新住・道路事業の環境影響評価準備書に対する
意見書の提出について

わたしは、環境影響評価法第18条および都市計画法第17条第2項により、以下のように意見書を提出します。わたしは地形地質および水文調査に関する意見書を同時に提出していますが、本意見書は、それとは別に準備書の全体にわたるわたしの意見です。都市計画案に対する意見と環境影響に対する意見とは明確に分けられませんので,両者が混在していることをご了解ください。


 

意 見 書

1)環境影響評価に関する再調査の要求事項

この度縦覧に供されております「環境影響評価準備書」については、以下に述べる調査が欠落しています。それぞれ本地域の環境にとって極めて重要な調査ですので、「事後調査」としてではなく、再調査を要求いたします。

1. 昆虫類確認種調査をやり直してください。
万博協会並びに道路・新住事業の「資料編」に掲載されている平成10年度の昆虫類確認種リストは、2301種中、210種しか確認ができていません。これでは、調査をしたと見做すことはできません。再調査をしてください。

2. コケ・菌類の調査を行ってください。
国際博覧会の準備書では、通産大臣のからの助言を得て、コケ・菌類の調査を外しました。その調査を求める意見書が実施計画書に対して出されていたにもかかわらず、それが取り上げられないことが公表されたのは、準備書の中ででした。理由とされた「蘚苔類・菌類は種の同定が確実にできる研究者が極めて少なく云々」は、どのような努力をした上での見解か知りませんが、まったく理由になりません。コケは、個々の種がごく限られた環境にのみ生育されると言われていますが、海上の森では、水辺に樹木にそして尾根にまで、広く分布していて、興味深い存在です。ミズゴケは遺体が腐らないで堆積して泥炭層をつくります。生態系を考えるとき、無視してはならない生物です。

新しい環境影響評価法の適用を受けて、今回の準備書で初めて調査の対象とされた地形・地質において行われた調査は、その結論への読み取りについては問題があるものの、海上の森という地域についての地形・地質・水文環境の解明には大きく寄与しました。そのように、今回の国際的な博覧会を前提とした環境影響調査ですから、コケ・菌類について日本に依頼するに足る専門家がいないとするならば、世界的な見識者に依頼してもいいはずです。きちんと説明ができるように、可能な限りの努力をして調査すべきです。コケ・菌類に関する調査を実施してその環境影響評価準備書を作成してください。

3. 国際博覧会の24時間営業の実施計画に対する環境影響評価の調査を実施してください。   
万博協会の準備書p.7[管理・運営に係わる計画」の「1)開催時間」によれば、「閉鎖時間を設けず24時間連続して開催する期間を設けることも含めて、今後、検討を進めていく。」との記述があります。

これは、何を意図しているのでしょう。2500万人を収容するためでしょうか。星の観察会でもするのでしょうか。星については、ヒアリング調査に応じた天文観察を趣味とする対象者が、「自宅周辺は、名古屋方面や周辺団地等の発する光により、決して良好な観察環境ではない。会場候補地内であれば幾分観察条件はよいとは思うが、大差はないと思う。現状において会場候補地内で星空観測が行われている例は聞いたことがない。」と述べています。現状よりも開発を進めて観察条件を悪化させておいて後の、「星の観察会」もないでしょう。

この万博は環境万博を標榜しています。森にとって、そこで生活する地元住民にとって、動植物にとって、夜や夜明け前や早朝がどんなに大切な環境か、まったく配慮も理解もしていない起案です。一晩中明かりを点け、人間が群れをなして動き回り、生活する事態についての環境影響評価をやる必要があります。

「24時間営業」をやりたいならば、会場計画ごと名古屋市のような大都会に持っていって、不夜城のような万博をすべきではないですか。

4. 「自然とのふれあい」について、触覚、味覚、聴覚、嗅覚の影響調査を実施して下さい。    
万博協会は、通産省の助言を求めて「自然とのふれあい」の内容を「景観」だけに限定しています。しかし、開発によって道路は広げられ、舗装され、土に触れて歩く感触が損なわれます。また、現在、海上の里を流れる河川は、飲用に耐えうるほど清らかでおいしい水です。この集落に、井戸がないのも当然です。しかし、3事業によって開発が行われれば、河川水の水質は現在と比べて極度に悪化することは明らかです。口にすることもできなくなります。触覚、味覚も大事な環境要素であって、それに触れることが海上の森の肌で感じる魅力です。その調査が必要です。

聴覚、嗅覚は、説明するまでもありませんが、海上の森や集落を訪れる人々は、その静けさの中で小鳥の声を聴きほれ、美味しい空気に心身を癒されています。とくに真夏時などでは、街中の空気とはまったく違い、海上の森に入ったとたんに汗は引きます。その空気は、ひんやりとしたさわやかな肌触りです。万博会場が作られ、たくさんの人が密集して住むことによって換気扇やエアコンも必要になるでしょう。そこでは、汚された大気や都市の排熱によるヒートアイランド現象などが起こります。それらの調査は、一切されていません。
これらの調査を実施して下さい。

5. 博覧会会場候補地一帯の史跡・埋蔵文化財・古窯跡等への影響・保護・保全等に関する調査を実施してください。
資料編のヒアリング調査を読むと、会場候補地の歴史と文化の重みがよく分かります。しかし、それを保存・保全・回避する記述がありません。p.5の「会場候補地の位置」に該当する町名に存する遺跡(瀬戸市教育委員会1997年報告による)だけでも、海上町22、広久手町33、塩草町 7、西山路町15、若宮町21、屋戸町 8、吉野町 7、を数えます。それに加えて、ヒアリングからも明らかなように、会場候補地には数々の寺社・共同墓地・史跡・埋蔵文化財等があります。それらのうちのどれが現況のまま保護され、どれが移転を余儀なくされ、どれが消滅するのかなどの記述がありません。これらの環境について調査をしたのなら、その影響の予測と評価を求めます。


2)2005年愛知万博事業の環境影響評価準備書に関する意見

2005年の日本国際博覧会が、愛知県の地域整備事業の造成地を利用するために、直接改変が少なく環境への悪影響が軽微であるといくら言い募っても、あの南東部丘陵地を会場とするかぎり、万博協会が環境破壊の責任を免れ得ないのは当然です。新住計画と道路計画が、競い合って2005年の万博のための整備に邁進していることは、事実を見れば明らかです。従って、新住と道路への意見書も添付します。

「準備書」によって、この地域の環境破壊がどれほど凄まじいものか、そしてそれらは事業者によって回避・低減に努めなければならない重大な事柄であるにもかかわらず,いかに不可能であるかが明らかになりました。現況をまったく残さないほど開発されてしまって、自然も生活も歴史も根こそぎの影響を受ける面積が150haもあります。

一方、それら環境への影響の回避・低減に努めなければならなかったために、万博計画が綻びを来していることも明確になりました。そのことを合わせて述べます。

1. 保安林を解除しないでください。
会場候補地の多くが土砂流出防備保安林であり、ここを会場とすることは保安林を解除することになります。保安林解除、すなわち森林の消失は、当該地域の自然環境のベースを破壊することを意味します。代償措置で安全は確保されても、環境の回復にはなりません。

また、保安林を壊し、造成し、また代償措置をとるという、二重三重にこの地域にお金を注ぎ込んでまで,この地で万博をしなければいけない理由は何なのか、納得のいく説明がありません。県の見解では、環境影響評価の対象とはしていないとのことですが(p.118)、代替地を用意していない環境評価ならば、たった半年のイベントのために、このような場所を選出すべきではないでしょう。この不況の中で、市民県民の合意を得る万博をしたいならば、せめて代償措置の必要のない地域を会場候補地にすべきです。

2. 2500万人が集中して来場する環境への負荷の問題    
「185日間に、2500万人の人が一つの会場に集まり、入場し、5、6時間以上は滞在して帰る」という出来事は、集中するが故の負担を生み出します。これは、道路や新住には有り得ない負荷です。来場者の平準化の方法は? アクセスの方法と実現性は? たった半年間の関係者の宿泊施設は?などなど、何も説明がありません。

それに先んじて、工事中にも人が集中し、延べ人員約112万人と計算されています。これらのし尿、生活排水等廃棄物は、一時貯留しておいて後、搬出処理するとされていますが、その影響は記述がありません。工事によって出る廃棄物は合計で10200トンになり、適正に処理すると書いてあるだけですが、どこでどう処理するのですか。

会期中にも、11250t/日の下水量、100t/日の廃棄物の計算がされています。会場造りのために270万トンの樹木を伐採しておいて、会期中には大量の温室ガスを発生させても植林をするから影響への負荷は低減が図れるという類の、言葉だけの辻褄合わせは説得力がありません。また、低減・防音に努めなければならない会期中の騒音について、「影響を受けることとなる住居施設に対し、事業者の責任と負担において個別の防音対策を行うこと等により」とあるのは、まさか、当該住居を防音シ-トで、覆うといったような人権と生活権を無視した対策ではないと思いますが、今までの県の対応を見ると誠に不安を感じます。

また、森での音は地形の状態に響き合って、思いもかけないところで騒音数値が高くなることがあります。ですから、人の声でも、物音でも、騒音についての上記の影響評価は不十分です.そして、6カ月間も、こんなに大勢の人間が居続け、移動を繰り返すことそのもので、動物はみんなどこかにいなくなってしまいす。そういった調査・評価・予測が一切されていません。

3. 奇妙な形の会場計画案の安全性について   
現在の会場計画案は実に奇妙な形です。新住の造成地の先行事業という制約の中でやむを得なかったのでしょうか。でも、新住との関係がなくても、ここでやろうとすれば、同様の制約を受けて、大同小異、同じようなものになったでしょう。新住にしても最善の計画案を考慮したのでしょうから。

先ず、540haもの広大な候補地をあてがわれながら、なんという不自由な形なのでしょう。美しい形ともいえません。

主要施設地区だけでも、南北2km、東西1km、高低差40mだといいいます。円滑な動線の確保が重要な検討課題になるとは、素人のわたしでも思います。会場内を、バス、動く歩道、電動カ-ト、電動車椅子でぞろぞろと動き回るのでしょう。水平回路がバリアフリ-からヒントを得たというのも、つまり移動しなければ成り立たないような会場構造が、基本にあるということです。40mの高低差、これはどうやって移動するのでしょう。エレベ-タ-やエスカレ-タ-にしても、また、エネルギ-が要ります。緊急時を想定すると不安です。

ともかく「面」に出るためには、決められた「線」を、何万人という入場者が移動しなければならないようにできています。電動カ-トがあっても、歩道が動いても、これは来場者には大きな制約です。計画そのものに無理があります。

そして、「トポスへのアプロ-チ」として、ポッカリと穴が開いて、はしごみたいな階段が付いているようです(万博協会発行の「EXPO2005だより」臨時増刊号)。トポスの中で何かあったら、狭い出入り口から、どうやって老若男女・・、大勢の人が外に出るのでしょう。

「準備書」にはなぜか出ていませんが、配布している「あらまし」の表紙の会場イメ-ジ図を見ますと、樹木よりも高い滑走路みたいなところを人が歩いています。あそこで事故があったら救急車はどこに着くのでしょう。まさかと思いますが、あの、人が歩いているところを走ってくるのでしょうか。周囲は森で道はありませんし、ヘリコプタ-を用いるにしても危険です。この会場計画案には、「安全だ」という安心感が欠如しています。

4. 住民の人権と生活権について  
更に、この会場内には、土地を離れたくないという住民が生活しています。何の説明もなく会場案を次々と発表していますが、このように、住民が生活している状態を無視して6カ月間の国際博覧会を開催する積もりでしょうか。日本の、また万博協会の人権侵害を、国際的に宣伝する結果となります。恥ずかしいことです。住民も、どんなにか居心地の悪い185日を過ごすことになります。この項は、会場候補地内に居住することを希望する住民を、強制的に排除しないことを前提として書きました。万博協会は知らぬ顔をして、新住事業という都市計画に拠って強制収容をかけるようなことを考えているとするならば、問題はまったく違うことを念のため申し添えておきます。

始にも書きましたが、ここを候補地にするかぎり、環境保全という壁があって、自由な計画は立てられません。これだけ貴重な自然環境と文化に配慮しなければならない地域を、国際博覧会という、一大イベントの会場にするべきではありません。ここでは、安全と人権を最優先した会場作りはできません。ある万博委員の、制約が大きければ大きいほどやりがいを感じるという意見を読みました。参加者や住民の人権と安全性を犠牲にしたチャレンジは固く戒めてください。

5. 事業目的と候補地の齟齬  
「環境プログラム」(P.38~P.41)を読みました。この国際博覧会で何をしようとしているのか具体的に書いてありましたが、読めば読むほど、なぜこれらのことを、この海上の森を壊して、ここでやるのかますます分からなくなりました。そのことを述べます。

1)自然環境について

■自然と人間の関わりについて

●「災害を防止するために治山・砂防事業が施され、時間とともに植生が回復して今日のような姿になりました。」なぜ今、その回復してきた植生、すなわち砂防流出保安林を破壊して、この万博をこの地域で行なうのですか。保安林を壊す許可が出されてそれに代わる代償措置がとられるのでしょうが、自然にとっても、経済的にも、まったく無駄な事業です。

 

● 「薪炭林や農用林地としての利用がされなくなった丘陵地の森林は、一方で大規模な都市開発の危機にさらされ、他方で放置がすすんで、自然が荒廃しています。この二極分化の方向性を是正し、都市開発においては自然の尊重を強く求め、残された里山については適正な管理を求めることが、これからの里山利用のあるべき姿であると考えます。本博覧会は、まさにその答えを出そうとする試みです。」

 

この部分について述べます。「残された里山の一例である海上の森」の「適正な管理」が、今回のこの海上の里での博覧会の開催であると言いたいのでしょうか。「残された」のは開発を待っていて取り残されたと見做しているのでしょうか。それは間違いです。わたしは、「残された」というのは「幸いにも残された」という意味だと思っています。これ以上開発の対象を広げてはいけないという意味です。

森が、薪炭林や農用林として利用されなくなった背景は、一朝一夕で解決できるような問題ではありません。もちろん、だから開発してしまえばいいとは、新住事業は別として、少なくとも万博協会は考えておられないでしょう。

人と自然との関わりの希薄さは、経済性と利便性を善と考えたり感じたりする人間の当然の欲と、それにブレ-キをかけることに気づかなかった人間の奢りと愚かさ、またそれに便乗した経済至上主義、林業への適正な保護や指導を怠った行政の責任など、ありとあらゆる数え切れないほどの、軌道修正すべき人間の過ちが考えられます。

失礼ながら、この場所を開発して新住事業を行なおうとする人々の考え方は、その過ちの一例であり、それにのって環境万博をやろうとする万博協会の姿勢は、世界を相手にした”大うそつき”だとわたしは思います。思い上がりも含めて、自分たちがやろうとしていることの矛盾にどうして気がつかないのでしょう。

 

●「この博覧会では、市民や企業が参加して会場となる森の環境を整備するという、これまでの博覧会では見られなかった光景を目にすることになるでしょう」

万博に来る来場者や企業に、汗を流して「草刈り十字軍」や「下枝打ち体験」でもさせて、森の整備に参加させるのでしょうか。そんなことなら、わざわざこの森を壊してする必要はまったくありません。一体何をさせるのですか。移動に、バスやコミュ-タ-や動く歩道などを使わないで、現在市民は十分に汗を流して林道を歩いて森に参加し、借用田圃と手作り工作で、刈った草も拾った小枝も楽しんでいます。

 

● 「一方、この森には希少種と呼ばれる動植物が生息していることを忘れてはなりません。(中略)里山に息づく希少種を保護するには、どのような場所でどのような関与を行えばよいのかを慎重に判断する必要があります。それを科学的に行うために設けられるのが、生物多様性研究センタ-です。以下略」

生物多様性研究センタ-が設けられる前に、調査と工事による環境破壊と、2500万人の来訪者の影響で、多様な動植物はここには住めなくなり、あるいは移動させられて、希少種だけでなく今まで当たり前に生存していた生物が、この森からなくなってしまいます。自分たちが環境に影響を与える事業をすることを忘れて、現在のままで何かを始めるような記述は錯覚です。

ゲンジボタル、キツネ、テンなど、「準備書」には具体的な種まで記載されていますから、私が言わずもがなのことですが、それらの頁も結び合わせて、候補地とされてしまっている「海上の森」の「現在」と「開発後」を認識してください。生物多様性研究センターの設立は、まったく矛盾していますし、滑稽ですらあります。

「自然とのふれあい」については、もう引用はしませんが、一例に上げられている「環境モニタリングシステム」も、説明が正確であるとしたら目新しいものとは思えません。そして、人間の感性を、心電図のように視覚で示さないと体感できないと考えるのは、人間の感性を堕落させる以外の何物でもありません。

次の段落に書いてあることにしても、現在海上の森を訪れる人々の楽しみ方を見ていると、専門家からハイカ-初心者まで、一度に14万人が集中することもなく、それぞれが環境に負荷を与えることのないよう、自然に集まり散じて、思い思いにふれあい、つきることのない海上の森の魅力に引かれて、繰り返し訪れています。人が管理を重ねて、「森を一つの野外博物館に」とは、まさに、よけいなお世話です。万博協会の方も海上の森を訪れて、今の有り様を自分の目で見て感じてみていただきたいと思います。

2) エネルギ-システムについて  
「『50%省エネルギ-型コミュニティ』『50%新エネルギ-活用型コミュニティ』『75%CO2削減およびCO2循環型コミュニティ』を実現します。」

こんないい方法があるならば、名古屋市のような市街地でやるのがいいと思います。消費中心の社会で、消費と汚染がセットになってしか回って行かなくなった、行き詰まっている都市社会の不幸が緩和されれば、それは大変意味のあることで、未来への貢献度も大きいものとなります。万博会場を名古屋市にもっていって、自然の叡智に気づき、自然との共生を目指す都市へと転換する実験をするならば、少なくとも失うもののない万博になるでしょう。

3) ゼロエミッション    
これも、名古屋市が喉から手が出るほどやってほしい実験ではないでしょうか。「来場者の出したゴミが、おみやげにトイレットペ-パ-に、肥料に変わる」とは・・・、夢のようです。名古屋市を中心にしてならば、「会場外の資源化の仕組みも」手近にありましょう。「地域連携や市民参加、環境に配慮する企業とのネットワ-クづくり」も、豊富な企業との連携も、そのままでかなりの種類が揃っています。「製品や施設の製造段階から廃棄までを考慮した」スケ-ルの大きな実験には必要なものが揃っていて、うまくいくのではないでしょうか。

名古屋市でこのテ-マならふさわしいし、世界各国からも注目されましょうし、地域整備も整っていますから、好都合です。2)も 3)も、2005年の半年間だけ実現すれば後はどうなってもいいという事柄ではありません。日常的に永続的に持続することが大切な「21 世紀の新しいまちづくり」ですから、長期展望でP.21の 3)の文字通り「来たるべき時代の実験場」として、2005年に訪れる世界の人々には、成功した「新しいまちづくり」を見て貰えれば、次項目に言うところの「博覧会開催の成果の恒久的な継承」、「21世紀型の地域・まちづくり」の趣旨も達成されるところであり、一石二鳥です。名古屋市での万博に切り替えてご成功をお祈りいたしますと、言いたくなります。

以上、現在検討されている案は、海上の森にふさわしくありません。目的と会場候補地に齟齬を来しています。海上の森の万博を中止して、他の会場候補地の検討を始めてください。

 


3)瀬戸市南東部地区新住宅市街地開発事業の環境影響評価準備書に対する意見

新住事業に関する「準備書」を読みました。ここに住宅を造ってはいけないことが良く分かりました。いくら、影響の回避・低減・回復に努めて、いくらとも天井の知れない経費を注ぎ込んでも、環境の保全や回復は無理ですし、そうやって無理をして造った造成地は使い物にならないだろうという予測もつきました。自然破壊を侵さないためにも、人権を侵害しないためにも、また、県民の財産と自然亨有権を守るためにも、この段階でこの計画を中止することが一番の賢い、自然から学ぶ叡智だということが良く分かりました。そのことを述べます。

1. 売れない・住めない・ゴ-ストタウン・・・”新住タウン”    
新住計画は,当初の予定からずいぶん変化し、縮小したことが記録されていました。

全体の面積が、740haが650haに、さらに540haに変わり、それを自由に活用する予定だった事業面積も、250haから直接改変は150haへ、さらに138.8haへと縮小されました。その理由は環境保護でした。お金ほしさに万博協会に先行貸与するために、環境保全というカセが予想以上に強く掛けられました。

愛知県が抵抗できないで、環境保全が優先されればされるほど、市街地としての人間の生活環境は劣化しました。開発面積は縮小され、中学校の建設が取り止められて、子育て環境も不備となりました。環境の保全と回復に配慮した土地造成はお金がかかり、それが販売価格に跳ね返り、一戸当たり9000万円とも1億円とも計算される超高価格になりました。その上、高層化を余儀なくされ、15階建てになるといいいます。直下には活断層が走っています。

売れないでしょう。研究施設が揃っても、研究者は名古屋に住んで、通勤するだろう、というのが巷での大方の予想です。今や新住計画は、「あいち学術研究開発ゾ-ン」「未来交流都市」の名にふさわしいものとは言えないものになってしまったのです。95年に通産省の指導と閣議了解で万博候補地の造成面積が大幅に縮小されたとき、多くの県民はこれで新住事業はできなくなったと思いました。ところが愛知県は中止しませんでした。愛知県のこの強引な、この地への新住事業の推進はなぜなのでしょう。

未来交流都市からこの一点がなくなっても何ら問題はありません。準備書p.4の2-2-1の図を見ても、やたらに当該地域のみ大きく描かれていますが、実体はもっと小規模なものであり、ここだけが、いかにも用途が違うような説明が書いてありまが、簡単に言えば「街」になっていると言うだけの話で、しかも実体は前述のような無理に無理を重ねた「ゴ-ストタウン」かもしれないのです。この計画は破綻しています。この機会に取り止めるべきです。

2. 住民の合意のないままでの都市計画・新住事業    
新住の完成は2015年とのことです。新住法の適用の条件は、先ず、住宅困窮者の救済です。現在は住宅が余っていて、新住計画はまったく必要のない事業です。それでもどうしてもやりたいと思うならば、せめて、万博に貸すことを止めて、もっとゆっくりと時間をかけて、時代状況を見て、住民の、特に瀬戸市民や地元住民の合意を得てからやるべきです。

「準備書」によれば、新住計画の中には現在住んでいる海上町住民を無視して計画図が描かれています。ずいぶん失礼な話です。また、上水の供給と下水処理は瀬戸市の担当ですが、その話し合いはついていないと言います(住宅企画課職員の話し)。瀬戸市は財源が無く、愛知環状線の負担金も借金をしています。

万博に貸すことがなければ、こんなに急いで計画案を決定しなくて良いし、もっと都市計画課、住宅企画課が主体的に県民の合意を得つつ、計画を進めていけるはずです。このままでいけば、海上の森に先頭を切って環境破壊のブルド-ザ-を入れるのは、住宅企画課の役割になります。この役割は、県民の恨みと抵抗をかいます。ついでに,住宅企画課が、強制収容もやりますか。その責任はすべて住宅企画課にあり、愛知県知事にあります。急ぎすぎるからです。新住法適用ならば補助金が取れるからと言うだけでもたれあい、必要も無い住宅街を作り、県民に負担と負荷を与えるだけの都市計画は、あさましいです。

中止あるいは時期を待つ決断が必要です。

 


4)名古屋瀬戸道路に関する環境影響評価についての意見書

名古屋瀬戸道路の「準備書」を読みました。まったく住民無視の道路計画だということがよく分かりました。

1. “無理無駄コ-ス・浪費コ-ス”の道路です。
正式には「日進瀬戸道路」と言うのだそうですが、八草から無理に北上させて瀬戸東インタ-につなげるコ-スは、道路の常識としてはまったく無駄で意味のないコ-スで、まさに、”万博道路”であることがはっきり分かりました。ところがその万博道路も、東海環状線は2005年開通の見込みだというのに(道路課職員の説明)、この道路が東海環状線までつながるのは、2020年の予定だという、まったく何のための都市計画かと思います。

東海環状線につなぐならば、もっと最短距離があります。東と西を結ぶ線を、曲線の斜線で繋ぐ道路は無駄が多いことは明白です。その上、6.3kmのうち、1/3(約2km)はトンネルにするというのは、浪費型の道路計画と言わざるを得ません。猿投グリ-ンロ-ドを活用して、なだらかに猿投山の裾を地形に沿って東に進んで東海環状線につなげば、環境破壊も少なく、無理がなく、合理的です。それも、どうしても4車線道路が必要ならばと言うことですが。また、赤津地区のトンネル予定地の一部分には、断層破砕帯があることが明らかにされています。ここにトンネルを通すことは、その周辺の湿地群落を破壊することになります。また、工事も難工事になり、一層の経費を要します。

若宮八草線は、予定地で万博と新住事業が行われてこそ少しは役に立つ道路でしかありません。八草と若宮を結ぶのなら、そのまま北上して155線に重ねて走れば,バイパスとしても環境への負荷が増すことはありません。

今回、環境影響評価準備書が出て、名古屋瀬戸道路や万博や新住事業が環境に及ぼす負荷の影響が明確になりました。その大きさを思うと、今までのように愛知県の無理押しがこのまま通じるか、大変難しい状況だと思います。このままごり押しを進めるならば、何らかの混乱を招かざるを得ないでしょう。道路計画の実施は、慎重に状況を見ながら進めないと,まったくの無駄骨に終わる可能性もあります。それよりも、道路行政として、もっと主体的に、合理的な、県民合意の得られる都市計画を勘案していただきたいと思います。

2. 人権無視の道路です。  
「資料集」のp.430に、埋蔵文化財包蔵地分布状況図というのがあります。この中に、上之山町3丁目がすっぽりと入っているのに気づかれたでしょうか。

この地域の道路交通による環境は、現在でも基準値を超えているのに、それだから工事の影響は軽微だ、とする環境評価は、本当に酷いものだと思います。計画道路のために、日照時間も減少しますが、それも軽微だと言います。さすがに太陽が相手では、回避・低減する方法がなかったから、頬かむりしようと言うのでしょうか。こういうときは、謙虚に人間側が譲歩して計画を変えるべきなのです。人への、生活への配慮の無い影響評価判断、これが愛知県の体質なのでしょうか。

前述のごとく、これは無理無駄計画道路です。万博や新市街地に住む新住民のために、すでに住んでいる人たちの人権と生活権を侵害することは、絶対にしてはなりません。保障や代償措置が不可能なら計画を改めるべきです。この都市計画の中止を求めます。


5)三事業への意見の結論と提言

現在の計画では、県有地540haのうち、開発されない手付かずの面積が約400haということになります。理由は貴重な自然保護のためです。この選択は正しいです。愛知県知事は不本意かも知れませんが、この結果は時代の要請に合った譲歩であり、県民の一人として支持します。自然保護の恩恵は、人間に返される価値です。この度、中間の環境影響評価を出してみて、三事業が環境に及ぼす影響の大きさも明らかになりました。不確実な低減・回避・回復は説得力がなく、信頼できません。忍びがたい環境破壊です。この際、三事業の計画を止めて、この540haはそのままにしておくという選択を希望します。

紆余曲折があって手に入れた広大な県有地です。お金に代えることはもう考えないで、県財政の逼迫しているこの時、無駄な支出も取り止めて、海上の森の自然の価値に目を向けて、このまま県民の財産として残し、自然愛好者に開放しておいてほしいと思います。そして、地元住民たちが現在の生活を持続できるようにすべきです。

新愛知県知事の英断を求めます。

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