日本自然保護協会は、生物多様性を守る自然保護NGOです。

森林生態系を守る

国有林や民有林に森林生態系の機能を甦らせるしくみをつくる。

1987年、知床半島や白神山地の国有林伐採が大きな社会問題となった結果、林野庁はこれまでの「自然林を切り尽くして人工林に変える」という拡大造林の方針を転換。1989年に保護林制度を見直し、国有林を国民共有の財産であるとし、原生的な森林を大面積のまま守る「森林生態系保護地域」を設定しました。この新制度は、NACS-Jが主張していた、人間と生物圏の構造を考慮しながらその生態系を保護する「生物圏保護区」の考え方を取り入れたもので、森林生態系からなる自然環境の維持、動植物の保護、遺伝資源の保存、森林施業・管理技術の発展、学術研究などに役立てることを目的としています。 さらに2011年の森林法改正にともない、国有林だけでなく民有林においても、生物多様性保全への対応を求める制度へと変革が進められています。

 


全国で合計40万haの国有林が保護される。

全国各地で起きた森林保護の動きは、林野庁に国有林そのものの考え方を根本から見直させることとなり、担当者とNACS-Jとの協議も頻繁に行われるようになりました。林野庁は1987年「林業と自然保護に関する検討委員会」の人選を始め、当時のNACS-Jの会長、沼田眞(参加肩書きは淑徳大学教授)も参加することになりました。
そこでは国有林を「国民共通の財産である国有林」と初めて明確に位置づけ、「それぞれの森林の保護・管理目的を原生的自然等の保存、国土の保全、森林レクリエーション、自然観察、木材生産などのように国民にわかりやすい形で明らかにする」ことが答申としてまとめられました。
こうして森林生態系保護地域が誕生することになった1989年の保護林制度の見直しでは、そのほかに目的・設定基準が異なる6つの保護林が策定されました(表)。
知床半島(一部)と白神山地は1990年に森林生態系保護地域と指定され、白神山地で当時計画されていた青秋林道の中止が決定。2006年4月現在では全国で27カ所、合計約40万haの国有林が森林生態系保護地域に指定されています。

国有林保護林制度
 種類 目的 設定の基準 箇所数

面積

(千ha)

1.森林生態系保護地域 原生的な天然林を保存することにより、森林生態系からなる自然環境の維持、動植物の保護、遺伝資源の保存、森林施業・管理技術の発展、学術研究等に資する。 次の各号のいずれかに該当するもののうち、特に保護を必要とする地域。
(1) 我が国の主要な森林帯を代表する 原生的な天然林の区域であって,原則として 1,000ha以上の規模を有するもの
(2) その地域でしか見られない特徴を 持つ希少な原生的な天然林の区域であって,原則として 500ha以上の規模を有するもの
27 400
.2.森林生物遺伝資源保存林 森林と一体となって自然生態系を構成する生物の遺伝資源を森林生態系内に保存し将来の利用可能性に資する。 我が国の自然生態系の類型を代表し、かつ自然状態が十分保存された天然林を主体とした森林で、原則として 1,000ha程度以上の規模を目安とするもののうち、特に保護を必要とする地域。 12 36
3.林木遺伝資源保存林 主要林業樹種及び稀少樹種等に係る林木遺伝資源を森林生態系内に保存し、将来の利用可能性に資する。 保存対象樹種の天然分布地の天然林(特に必要がある場合は人工林)で、原則として保存対象樹種ごとに繁殖力の旺盛な個体を集団的に100本程度以上含み、5ha程度以上の面積を有するもののうち、特に保護を必要とする地域。 326 9
4.植物群落保護林 我が国または地域の自然を代表するものとして保護を必要とする植物群落及び歴史的、学術的価値等を有する個体の維持を図り、併せて森林施業・管理技術の発展、学術研究等に資する。 1~3の保護林の区域以外の地域であって、次に掲げる基準を満たすもののうち、特に保護を必要とする区域。
(1) 希少化している植物群落が存する地域
(2) 全国的には比較的一般的な植物群落であるが、分布限界等に位置する植物群落が存する地域
(3) 湿地、高山帯等、特殊な立地条件の下に成立している植物群落が存する地域
(4) 歴史的,学術的に価値の高いものとして伝承されてきた巨木等が存する地域
(5) その他保護が必要と認められる植物群落及び個体が存する地域
380 183
5.特定動物生息地保護林 特定の動物の繁殖地、生息地等の保護を図り、併せて学術研究等に資する。 1~4の保護林の区域以外の地域であって、次の基準を満たすもののうち、特定の動物の繁殖又は生息のために、特にその保護を必要とする区域。
(1) 希少化している動物の繁殖地又は生息地
(2) 他に見られない集団的な動物の繁殖地又は生息地
(3) その他保護が必要と認められる動物の繁殖地又は生息地
36 21
6.特定地理等保護林 我が国における特異な地形、地質等の保護を図り、併せて学術研究等に資する。 1~5の保護林の区域以外の地域であって、特異な地形、地質等を有するもののうち、特にその保護を必要とする区域。
35 30
7.郷土の森 地域における象徴としての意義を有する等により、森林の現状の維持について地元市町村の強い要請のある森林を保護し、併せて地域の振興に資する。 地域の象徴としての意義を有し、地元市町村から保全の要請のある森林で、次の条件を満たすと認められる場合。
(1) 木材産業,農林業等地域の産業との調整が図られていること
(2) 郷土の森保存協定が締結され,国有林野の管理経営上支障がないこと
34 3
合計 850 683
資料:林野庁業務資料
平成18年4月1日現在。計の不一致は四捨五入による。

拡大造林から森林を”面”で守る新制度を提案。

全国の自然林を切って人工林を植え、木材搬出のための林道を次々建設する拡大造林政策に対し、70年代に入り全国各地で反対運動が起こり始めました。NACS-Jも総力をあげてブナ林保護の一大キャンペーンを行い、中でも白神山地の保護活動では、1985年には「全国一斉ブナ林観察会」を開始し、「ブナシンポジウム」を開催しました。シンポジウムでは全国の自然保護団体、研究者、環境庁のパネリストのほかに、NACS-Jの呼びかけに応じ、林野庁の経営企画課長が出席。これまで対立的な立場を守り、対話を拒んできた林野庁が、公開の話し合いの場に初めて臨んだことは画期的なこととなりました。
この頃からNACS-Jは林野庁に対して、国有林保護林制度に中核部はプリザベーションによる保護地区として人による改変を一切加えないコアエリア、その外側は緩衝帯の役割をもち、自然性を損なわない形で教育やレクリエーションにも利用するバッファーゾーン、さらにそこに外接する部分にはバッファーの機能の維持に留意した資源利用をはかるカルチュラルゾーンの3層に区分して、人間と生物圏の構造を考慮しながらその生態系を保護する「生物圏保護区」の考え方を盛り込むように繰り返し要請していました。

保護すべき地域の新たな設定を働きかけていく。

NACS-Jでは、林野庁に対して生物多様性が高く保護すべき各地の国有林を森林生態系保護地域に設定する働きかけを続けています。

2008年には、米軍北部訓練場となっている国有林の沖縄県北部・山原(やんばる)の返還後の扱いを決める検討委員会の委員となり、返還地の約半分にあたる特に自然性が高い範囲を返還後に森林生態系保護地域にすることを決定しました。また、2009年現在は、生態系、種、遺伝子のいずれの多様性も高い鹿児島県・奄美群島の国有林を森林生態系保護地域に設定するよう働きかけています。

ただし、森林生態系保護地域に設定できるのは国有林のみで、その周囲にも生物多様性の高く保護を必要とする地域が広がっていますが、県有林・市町村林や私有地となっているため、森林生態系保護地域の制度はこれらの地域に及ばない、などといった問題が各地にあります。国有林のみでなく、こうした地域の森林まで保護するしくみづくりを今後考えていきます。

 

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