日本自然保護協会は、生物多様性を守る自然保護NGOです。

小笠原プロジェクト

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海洋島が織り成す唯一無二の生物多様性を守り活かす。

小笠原諸島は、数千万年の歴史の中で、大陸と一度も地続きになったことがない海洋島で、この島々にしか見られない動植物種が多数存在しています。また、それらの固有種を育む植生や地形・地質も地球の歴史を知ることのできる数少ない場所のひとつです。 NACS-Jでは、この貴重な小笠原諸島の自然環境保全に関して諸島の日本返還前後から着目し、その重要性を主張してきました(『自然保護』1968年7月号)。 1972年に小笠原諸島は国立公園の指定を受けました。自然公園における自然保護施策の推進はNACS-Jにとって主要な目標のひとつであり、国立公園の地種区分の見直しや、森林生態系保護地域の設定などを軸にこれまで様々な活動を展開してきました。

 


空港計画で揺れ続けた小笠原。

小笠原諸島では、本土復帰直後から空港計画があり、1989年には東京都が、兄島に中型旅客機が発着できる1800mの滑走路を建設する空港整備構想を発表しました。兄島は、有史以来一度も集落ができたことがなく、世界的に見ても例の少ない乾性低木林に覆われており、固有動植物が多数生息している場所です。NACS-Jは、独自の現地視察や、委員会での検討を実施した上で、科学的根拠のもとに1991年、1996年と、意見書を提出し、空港計画の撤回と生態系、生物多様性の保全を訴えました。その結果、東京都は候補地の再選定作業を行い、1998年に父島の時雨山周辺域を予定地として再決定した上で、検討委員会を設置しました。NACS-Jはこの委員会に参画し、自然保護の立場から主張を行いました。委員会の東京都への答申は計画に対して否定的な内容の意見書となり、東京都は空港計画の撤回を発表しました。

空港計画が白紙に戻ったことで、小笠原諸島の自然環境保全は、新たな段階に入ったといえます。自然を損なうことなく、ゆたかに暮らしていくにはどのような利用ならば賢明と言えるのか。これは、世界中で模索が続いている重要な課題ですが、さらに小笠原の場合、自然の質が非常に特異で、たいへん脆弱であるという難題を含んでいます。この脆弱さゆえに今、外来種問題が顕在化しています。例えば、アカギ(常緑樹)は旺盛な繁殖力で生育地を拡大し、固有植物を駆逐しています。また、グリーンアノール(トカゲ)は昆虫類を活発に捕食し、オガサワラシジミ(チョウ)など固有動物を絶滅に追いやっています。

こうした状況を打開するために、NACS-Jでは新たな取り組みを開始しています。1994年と1997年には自然観察指導員講習会を開催し、人と自然とのかかわりを強く意識する人の輪を広げることに努めてきました。また、島内・島外の研究者(専門家)や島内関係者が役割分担の上で、国有林内で起きている様々な自然保護問題に対して、科学的根拠に裏打ちされた対応の解(答え)を同時に討議して出していく場を作ることを目的に、活動を開始しています。NACS-Jは、この活動を小笠原プロジェクトと名づけ実行しています。実際、今年(2007年)4月から、小笠原諸島の国有林の99%を、森林生態系保護地域に設定し、生態系管理の場としての常設の保全管理委員会の立ち上げに成功し、委員として参画しています。また、1996年からは、保護と利用のありかたを検討するモデルとして、父島の属島である南島を対象に自然環境モニタリング調査行っています。島の方々に関心をもっていただけるようになったと感じているところです。

小笠原は、世界中が模索している人と自然とが共生できる持続的な社会を実現できる可能性を秘めています。NACS-Jは、これからも小笠原の自然保護のために協力していくつもりです。

小笠原プロジェクトとは

NACS-Jは、小笠原諸島で起きている様々な問題の根本に、国立公園制度の地種区分や、森林性体系保護地域の設定と、実際の自然環境の重要性との間に大きなギャップがある事が問題であると認識していました。このため、従前より地種区分の変更と森林生態系保護地域の再設定を主張してきました。そして、これまでの、関係行政機関が個別に企画しある種の錯綜を続ける保護事業群を、体系的なものに組み上げ、実効性のある保護施策を打ち立てることを目的に、小笠原プロジェクトを立ち上げました。

プロジェクトでは、小笠原諸島の国有林を森林生態系保護地域とし、諸島全体で保護施策を実行する仕組みとして常設の保全管理委員会を立ち上げることを目指し、林野庁関東森林管理局と協働し、2007年4月より、小笠原諸島の国有林のほとんどを森林生態系保護地域として設定することに成功しました(設定エリアは関東森林管理局のHPで見ることができます)。

そして現在は、常設の保全管理委員会が立ち上がり、生態系の保全と修復をどのように進めていくべきかを討議しているところです。委員会は、地元関係者、研究者、関係行政機関で構成され、科学的なアドバイスを行うアドバイザー会議も併設されました。NACS-Jはこのアドバイザー委員として参画しています。

NACS-Jとしては、

(1)保全管理の原則が生態系としての場の管理であること、
(2)場当たり的な対処ではなく、自然保護上緊急性の高い場所を先行して、保全のためのアクションプランを立て効率的に施策を実施していくこと、
(3)これまで無尽蔵に使われてきた踏み分け道を整理し、生態系への影響を第1に考慮した、使える歩道を「定めていく」こと
の3つの柱を考え、施策に反映されるよう活動を続けています。そして、地元の関係者の方々と協働しながら、小笠原の自然環境の保全を実現していきたいと考えています。

小笠原南島の自然環境モニタリング調査と保全

NACS-Jは、平成8(1996)年~平成18(2006)年度(継続中)まで小笠原の脆弱な自然環境と適正な利用とのバランスを科学的なデータに基づいて検討するためのモニタリング調査と検討体制の構築を目的として、観光利用が以前から行われてきた父島の小さな属島である南島で小笠原村や東京都の支援を受けて自然環境についてのモニタリング調査を実施し、保全策へのフィードバックについて検討してきました。この調査は、

(1)南島における人為による植生変化、裸地化および土壌侵食の状況をモニタリングし、適正な利用と自然環境保護のための情報を収集すること、

(2)南島で実施された保全整備事業など保全策の効果を把握すること、
(3)南島の自然環境の広域的な変化の情報を収集すること、
(4)上記の調査結果をフィードバックし、より有効な保全策を検討すること
を目的としています。

具体的には南島全島を対象とした広域調査として

(1)気象観測、
(2)植生調査(植物相、植生、外来種分布、フェノロジー)、
(3)動物調査(海鳥・昆虫・クマネズミ、陸産貝類)、利用が行われている重点地域調査として、
(4)利用状況、
(5)微地形調査、
(6)自然観察路周辺の植生調査

を実施しました。また、調査にあたってはプロジェクト終了後も引き続き現地の研究機関で実施できるようにNPO法人野生生物研究会、NPO法人小笠原自然文化研究所、小笠原ホエールウォッチング協会に調査を担当していただきました。また、検討会にも参加してもらい調査データに基づいて自然観察路の整備方法、利用方法、外来種駆除事業が計画され、実施されるようにしました。

この結果、属島の気象環境、希少植物や外来植物の分布、海鳥の繁殖状況、陸産貝類の分布、クマネズミの分布など保全上重要な自然環境情報が得られただけでなく、利用方法や駆除事業について提案を行うことができました。全島の自然環境情報は、利用が行われているエリアだけでなく南島生態系全体に与える影響を評価することを可能にし、適正な利用や保全策を検討するための重要な情報となりました。小笠原の中でもこれだけの情報が得られている属島は他にありません。

属島の利用方法については小笠原の中でも課題として残っており、南島はそのモデルケースともいえます。今後は南島を利用している業者の方々を含めた利用者側の方々との南島の利用ルールに関する合意形成の仕組みをつくりたいと考えています。

これまでの南島関連の報告書類

日本自然保護協会(1997)平成8年度南島観光対策調査報告書.小笠原村.

日本自然保護協会(2001)平成12年度小笠原村南島自然環境調査報告書.東京都.

日本自然保護協会(2002)平成13年度小笠原村南島自然環境モニタリング調査報告書.東京都環境局.

日本自然保護協会(2003)平成14年度小笠原村南島自然環境モニタリング調査報告書.東京都環境局.

日本自然保護協会(2004)平成15年度小笠原南島モニタリング調査報告書.関東森林管理局東京分局・東京都環境局.

日本自然保護協会(2005)平成16年度小笠原村南島モニタリング調査報告書.関東森林管理局東京分局・東京都環境局.

日本自然保護協会(2006)平成17年度小笠原村南島自然環境モニタリング調査報告書.関東森林管理局東京分局・東京都環境局.

日本自然保護協会(2007)平成18年度小笠原国立公園南島自然環境モニタリング調査報告書.東京都小笠原支庁.

日本自然保護協会(2007)平成18年度小笠原国立公園南島植生回復調査報告書.東京都小笠原支庁.

朱宮丈晴(2005)小笠原南島の植生.大澤雅彦監修「植物群落モニタリングのすすめ-自然保護に活かす植物群落レッドデータ・ブック」文一総合出版.p152-156.

朱宮丈晴・安井隆弥・一木重夫・堀越和夫・鈴木創(2005)小笠原諸島南島における地形傾度に沿った植生タイプと多様性構造.小笠原研究年報28: 15-31.

(2007年11月9日/朱宮丈晴 保全研究部・辻村千尋 保護プロジェクト部)

 


小笠原の生物多様性を守っていくために。

これまでNACS-Jでは小笠原諸島の父島の林生態系保護地域で、独自の環境区分を行なう取り組みを進めてきました。調査によって今、最も希少種が集中し、重要と考えられている東平と同じ環境を含むと考えられる区域が新たに3カ所見つかっています。その結果を元に積極的に自然再生を進めるべき地域を提案しています。

また南島では生物多様性の維持に適正な利用と保護のために、いかに利用集中を軽減していくかが重要であることが関係者の間で共有されました。また外来種と固有種の依存関係に配慮しながら復元事業を進めていくことになり、調査が進められています。

 

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