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2018.06.13

【要望書】奄美大島、徳之島、沖縄島北部及び西表島世界自然遺産候補地の登録延期および取り下げを受けて

奄美大島、徳之島、沖縄島北部及び西表島世界自然遺産候補地の登録延期および取り下げを受けての要望を鹿児島県および奄美群島の各市町村に出しました。
要望書の内容は以下の5点です。

  1. 奄美・琉球諸島の環境収容力を考慮する必要性
  2. 推薦地の外も含めた島全体の侵略的外来種の管理体制の構築を
  3. 市民・コミュニティの参画を重視し、地域に則した管理体制の構築を
  4. 奄美大島、徳之島それぞれに個別の管理計画の策定を
  5. 世界遺産管理地域の範囲を広げることによる完全性の確保

20180613_奄美大島、徳之島、沖縄島北部及び西表島世界自然遺産候補地の登録延期および取り下げを受けての要望書(168KB)


2018年6月13日

鹿児島県知事 三反園訓様
奄美市長   朝山毅様
徳之島町長  高岡 秀規様
宇検村長   元田 信有様
大和村長   伊集院 幼様
伊仙町長   大久保 明様
天城町長   大久幸助様
瀬戸内町長  鎌田 愛人様

 

奄美大島、徳之島、沖縄島北部及び西表島世界自然遺産候補地の登録延期および取り下げを受けての要望

                          自然と文化を守る奄美会議
代表 大津 幸夫

                          海の生き物を守る会
代表 向井 宏

                         公益財団法人 日本自然保護協会
理事長 亀山 章

 

日本政府が世界遺産一覧表への記載を推薦した「奄美大島、徳之島、沖縄島北部及び西表島(以下、「奄美・琉球諸島」とする)に関して、登録延期と判断したIUCN(国際自然保護連合)の評価書が公表されました。それを受けて日本政府は6月1日に推薦を取り下げました。このことについて、私たち、奄美・琉球諸島の自然保護に関わる環境団体は、以下のことを要望いたします。

 

1.奄美・琉球諸島の環境収容力を考慮する必要性

IUCN評価書では推薦された4島全てに対する課題として、観光利用の増大への懸念など環境収容力の問題に触れられています。奄美大島も徳之島も小さな島であり、自然資源が限られており、無限に使える訳ではありません。世界自然遺産登録を目指すならば、将来にわたり持続可能な形で資源を利用し続けることができるようにすることが必須です。

IUCN評価書では「奄美大島へのクルーズ船計画は中止された」と記されています。これは2016年に龍郷町にて浮上した計画のことを指していると思われます。その後、2017年8月に国土交通省から公表された島嶼部における大型クルーズ船の寄港地開発に関する調査結果は、南西諸島のうち奄美大島・徳之島をモデルケースとして行われたもので、西古見など瀬戸内町を巻き込む大きな計画へと展開しました。その後、この計画は瀬戸内町により取り下げられたものの、計画がなくなった訳ではありません。2020年以降の世界自然遺産登録を目指すと報じられていますが、クルーズ船計画がこのまま進めばIUCNの再度の評価にも影響すると考えられます。

また名瀬港に寄港するクルーズ船や航空機等にて来訪する観光客の影響も併せて考慮する必要があります。2.で述べる外来種問題への対策も含め、島全体の環境収容力についての考慮が必要です。

 

2.推薦地の外も含めた島全体の侵略的外来種の管理体制の構築を

IUCN評価書では、ノネコやノイヌなど島の外から持ち込まれた生物、ロードキル、植物や昆虫などの違法採取、観光による影響などが生物多様性への脅威として指摘されています。

また推薦地のみならず、沖縄の埋め立て全般にも言及されています。辺野古の埋め立て計画は今回の推薦地から距離があるので直接の関係はないとあるものの、同計画に用いる埋め立て土砂に伴い起こる外来種問題については懸念しています。

外来種問題の原因となるのは埋め立て土砂だけではなく、人と物の移動が関連します。推薦地の外も含めた侵略的外来種の管理が求められています。外来種の侵入予防と初期段階での対応及び地域全体での防除体制が管理計画に適切に位置付けられているかが、世界自然遺産にふさわしい対応として求められています。

 

3.市民・コミュニティの参画を重視し、地域に則した管理体制の構築を

世界遺産条約では遺産の管理における市民・コミュニティの役割を重視しています。IUCN評価書でも、政府の限られたリソースを補う形で、懸念されているイリオモテヤマネコなどの絶滅危惧種のロードキルの抑止にNPO等が活躍していることが評価されています。市民・コミュニティの十分な参画が得られる努力が必要です。

IUCN評価書ではこの他に、絶滅危惧種の現状や、人為または気候変動の影響などの総合的なモニタリングシステムの体制構築と実行も求めています。実効性の高いモニタリング体制の構築にも、市民・コミュニティの参画が必須となります。海の生き物を守る会や日本自然保護協会などの取り組み事例を見ても明らかなように、長期の広い面積にわたるモニタリング体制を行政と専門家だけで構築することは不可能です。

遺産の登録推薦に関連する情報・プロセスは市民に広く公開すべきです。奄美・琉球諸島の推薦後のIUCNとのやり取りについては、近年登録された知床・小笠原諸島とは異なり、まったく公表されていませんでした。評価書の公表によって、これまで公には知られていなかったIUCNとのやりとりの経緯や、重要な文書の存在が明らかになるなど、登録プロセスの拙速さが市民・NGOからの不信感を招く結果にもなっています。適切な情報公開は、再申請に向けた合意形成や十分な管理体制の構築に欠かせません。

 

4.奄美大島、徳之島それぞれに個別の管理計画の策定を

IUCNは日本政府が提出した奄美・琉球諸島の管理計画を評価していますが、奄美大島・徳之島・沖縄島北部・西表島の4島は、島ごとに自然環境の状態も人々の生活も大幅に異なるため、それぞれの島の事情に即した、島ごとの世界遺産管理計画を市民とともに作り実行することが望ましいと考えます。

最近になり南西諸島固有の両生類・爬虫類が国内・海外において違法に取引されていることが判明しました(WWFジャパン2018)。IUCN評価書でも観光客の増加に伴い増えるであろうと指摘されています。夜間の山道の道路閉鎖などの対策から、観光ガイドの養成などを含んだ包括的な計画の策定が求められています。IUCN評価書の指摘にもあるように、上記3.とも関連しますが、計画立案から遂行、管理までを含めて、市民・コミュニティの参画こそが長期的な保全にとって欠かせない重要なものです。

 

5.世界遺産管理地域の範囲を広げることによる完全性の確保

IUCN評価書では全4島に関して、現在の法律や規制の区分に単純に従ったために推薦地やバッファーゾーンの設定が断片化し、長期の生物多様性の保全を担保する連続性やまとまりをもった世界遺産地域となっていないことが課題として指摘されました。

完全性の確保の方法として、IUCNは「断片化された推薦地の除外」も勧告していますが、日本自然保護協会は、現在、孤立している推薦地を安易に除外するのではなく、将来にわたって世界自然遺産地域の連続性を高めていくことをめざす、世界遺産管理地域(World Heritage Management Area)の考え方を活用した世界遺産範囲の検討を提案します。

例えば、徳之島の推薦地は大きく2つに分断されていますが、南北をつなぐ範囲を世界遺産管理地域として、連続性を確保する取り組みを進めることのほうが、生物多様性保全上、効果的です。奄美大島についてもバッファーゾーンが狭い箇所が多数存在します。推薦地域全体をつなぐ範囲を世界遺産管理地域と位置づけた計画を作成するなど抜本的な修正を行う必要があり、また法的または自主ルールに基づく立ち入り規制・利用制限なども適用する必要があります。

「遺産区域外も含む管理計画を策定し、世界遺産管理地域においても生物多様性保全を進めるという考え方」は、小笠原諸島の世界自然遺産登録の際に、IUCNの評価を得たものです。管理計画の活用を踏まえた全4島における世界遺産地域の再検討を通じて、森川海の連続性を保つ形で奄美・琉球諸島世界自然遺産の区域拡大を行い、より広い地域が世界自然遺産として、将来にわたり生物多様性保全と管理および持続可能な活用が行われていくことが望まれます。

 

おわりに

鹿児島県が定めた奄美群島持続的観光マスタープランはIUCN評価書で高く評価されています。しかしながら上記の経緯を持つクルーズ船計画やLCC増便など観光客を増やす対策が報じられる一方、それらに対する遺産を守る対策は講じられていないと思われます。

また、推薦地付近で行われている自衛隊駐屯地造成などの開発等の計画についても、山から海への連続性を阻害するものが多くあります。森は海を育む場としても重要です。これらのことは世界自然遺産で問われている完全性(Integrity)に影響すると思われます。

同観光マスタープランでは「目標1 地域の特性に応じた利用の計画的誘導」、「目標2 地域全体への遺産登録効果の波及」、「目標3 質の高い観光の実現と利用者の満足度の向上」と書かれています。観光客の誘致や奄美群島で行われる開発計画がこれらのどこに位置づけられるのかを明確にする必要があります。

生物多様性基本法に基づく「生物多様性地域戦略」の実施や、生物多様性の視点から重要度の高い海域を世界遺産管理地域に含めるを検討も大切です。

世界自然遺産登録を目指すものの義務として、行政、執行機関、企業、市民団体、住民が協力して世界中でこれらの島々にしかいない生物を守るための抜本的な意識改革と保全政策の充実が必要であり、また登録には、その地域にどのくらい貴重な自然や野生生物がいるかが評価されるだけではなく、将来にわたり守られ、維持される確実性が求められます。

世界自然遺産登録はゴールでなくスタートです。問われるのは保護策の中身であることから、今回登録延期という結果を得たことで、市民と議論を深めるなど十分に準備をする時間を得たということと理解しています。十分な準備のうえで真の意味での世界自然遺産の登録を願います。

                                      以上


参考:

日本自然保護協会(1993)日本国内の自然遺産地域の保護と管理に関する提言

IUCN(1992)World Heritage Twenty Years Later
https://portals.iucn.org/library/sites/library/files/documents/PAPS-003.pdf (4.46MB)

日本自然保護協会(2018)「奄美大島、徳之島、沖縄島北部及び西表島」の世界遺産推薦に関するIUCN評価書についての声明

 

 

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