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白保サンゴ礁海域保全・石垣空港問題

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2018.01.31

石垣島白保地区のリゾートホテル建設計画に関する 白保サンゴ礁の保全についての要望

 

石垣島の白保海域には、世界規模のアオサンゴ群集をはじめ多様な生き物のくらすサンゴ礁生態系が広がっています。
かつて、このサンゴ礁を埋め立てて新空港を建設する計画がありましたが、日本自然保護協会の働きかけなどにより、計画は見直され、現在では、西表石垣国立公園の海域公園地区に指定されています。
ところが、この白保アオサンゴ群集のすぐ近くで、リゾートホテル建設計画が進もうとしています。
今年は10年ぶりの国際サンゴ礁年。日本自然保護協会ではサンゴ礁生態系への影響を危惧し、意見書を提出しました。

 

石垣島白保地区のリゾートホテル建設計画に関する 白保サンゴ礁の保全についての要望


2018年1月31日

沖縄県知事 翁長 雄志 様

公益財団法人 日本自然保護協会
理事長 亀山 章

石垣島白保地区のリゾートホテル建設計画に関する
白保サンゴ礁の保全についての要望

日本自然保護協会は、日本の生物多様性豊かな自然環境の保全に取り組んでいる団体です。沖縄県石垣島の白保には世界的にも重要なサンゴ礁があり、1980年代に白保サンゴ礁を埋め立てる空港建設計画が生じた際には、当協会が積極的に自然保護活動に取り組みました。その結果、白保サンゴ礁の重要性が広く認められ、海域公園の指定などその後の保全施策へとつながりました(日本自然保護協会,1991)。

現在、石垣島白保でリゾートホテル建設が計画されており(以下、本事業)、事業主体である石垣島白保ホテル&リゾーツ株式会社と日建ハウジングが沖縄県の開発許可を得るために、石垣市の審査を経て、沖縄県に進達している段階と聞いています。
日本自然保護協会は、本事業の実施により、世界的に貴重なアオサンゴ群集をはじめとした自然環境への影響を懸念することから、以下を要望いたします。

現時点での開発許可申請を不許可とし、事業実施によるサンゴ礁生態系への影響予測を科学的かつ総合的に行うことを事業者に徹底してください。

以上


理由書

1.白保サンゴ礁生態系の特徴と重要性

白保サンゴ礁の特徴は、礁縁(外洋側の縁)に海岸線とほぼ並行に連なる「礁嶺」と呼ばれる高まりが極めて良く発達していることと、礁嶺と海岸線とを直角方向でつなぐ“ワタンジ”と呼ばれる微地形があることである。大潮の干潮時などには礁嶺とワタンジが干出し、海岸から歩いてワタンジを通り、礁嶺まで行くことができる。このようなワタンジの発達は他地域ではあまり見られない。そして、この微地形が外洋からの波の力や礁原上の流れをコントロールし、サンゴ礁上の生物に多様な生息・生育環境を提供している。それにより白保サンゴ礁には、大型の群体からなるアオサンゴの大群集を始め、繊細な形態の枝状ミドリイシや葉状コモンサンゴ、直径3mを越えるハマサンゴ群体の高密度分布、底生生物や魚類を含め多様な生物群集が生息している。
白保のアオサンゴ群集は本事業計画地の前面の礁嶺の内側にあり、ワタンジに囲まれ、南北約400m、東西約200m幅で広がっている(鈴木ら 2011)。アオサンゴの優占範囲は約26,177㎡で、世界最大級の規模である。アオサンゴの生息環境は海岸近く、あるいは内湾的環境といわれており(Zann and Bolton, 1985)、石垣島北部の明石でも、海岸線に隣接して分布している。しかし白保では海岸線から距離を隔て外洋近くに生息しており、このような例は世界にほとんど見られない。
1980年代の新石垣空港建設問題では、世界最大級規模のアオサンゴ群集と、それをはぐくむサンゴ礁生態系の保護が注目された。現在、アオサンゴはIUCN(国際自然保護連合)レッドデータブック(RDB)「絶滅危惧II類(VU)」に掲載されている。
最近の研究では、石垣島周辺と沖縄島周辺ではアオサンゴ群集の遺伝子型が大きく異なり、別種である可能性も示唆された(共同通信、2017年12月16日)。

 

 

2.白保サンゴ礁生態系にかかる保全制度

白保サンゴ礁は、西表石垣国立公園および環境省重要海域に指定されている。本事業予定地は保安林および国立公園第2種特別地域に隣接している。
サンゴ礁を保全するためには、海域だけでなく陸域と一体的な保全が不可欠である。白保サンゴ礁については、流入する河川の集水域を含めた海域保護区の設定が提案されてきた(中井 2007)。陸域からの土壌流入はサンゴ礁に重大な影響を与えることから、沖縄県は長年にわたり赤土流出問題に取り組まれてきた。沖縄県赤土等流出防止対策行動計画(2015年)は、サンゴ礁保全のために陸域から海域までを一体的に保全しようとする画期的な制度といえる。行動計画のモデル地域のひとつとして「石垣島東南海域」では、流域からの赤土流出量の削減について具体的な目標を定め、さらにサンゴ礁の健全度を「C」から「A」に改善することを環境保全目標としている(図参照)。
また地域住民の保全への関心も高く、沖縄県の保全利用協定に2014年に指定されている。
このように白保サンゴ礁では、国から地域住民まで保全のための様々な努力がなされてきた。日本のサンゴ礁保全活動を象徴する地域でもある。

 

 

3.本事業が白保サンゴ礁生態系に与える影響

本事業は、広く保全の必要性が認識されている場所での計画であり、以下のような環境影響が懸念される。

1) 陸と海とをつなぐエコトーンの分断
海岸は、陸域から海域へ礁原(イノー)、砂浜、砂丘、海岸林など複数の生態系が出会い、連続的に移行する「エコトーン」であり、これを一体のまとまりとして保全することが重要である。本事業は、浜から砂丘帯へと連続的に変化する海岸植生を分断する。ウミガメ類やヤシガニ類など海と陸を行き来する生物にとって海岸動物の陸域-海域間の移動を阻害するものである。

2) 陸域から流入する赤土が水質に与える影響
事業者の住民説明会で示された資料では、赤土流出防止について「本件対象地は凹地(周囲よりも地盤高が低い)であり、本件計画においても地盤高を上げる計画ではないことから、国道や海浜などの敷地外への土砂の流出はないものと考えます」とある。しかし、対象地の基盤は極めて空隙の多い琉球石灰岩あるいは未固結な砂礫である。このような場所では、地盤高に関係なく、水は地下へ浸透し周辺に流出する。本計画では浸透した地下での流動が全く検討されていない。また、もし濁水の周辺への流出を避けるために地下の構造を改変した場合には、本来ある地下水(淡水と海水)の流動を分断し、上述のエコトーンの喪失につながることが懸念される。

3) 施設の運用により大きな負荷のかかる栄養塩等が流出する
事業者は「汚水は開発地域内で最終処理施設等によって、自然環境、生態系などへの影響のないレベルまで浄化する」としており、ホテルの浄化槽から排出される処理水は全窒素10mg/l以下、全リン0.5mg/l以下と明記されている。しかし、健全なサンゴ礁海域の数値は、全窒素0.06mg/l、全リンで0.007mg/l (下田ほか1988)であり、サンゴ礁生態系にとっては大きな負荷がかかることになる。

4) 工事中および運用後の光がウミガメ類に及ぼす影響
白保の海岸には絶滅危惧種に指定されるアオウミガメ、アカウミガメ、タイマイの3種のウミガメの産卵が確認されている。本事業では、ウミガメの産卵環境への影響、特に光害が懸念される。事業者は「夜間は遮光カーテンを閉めていただくよう周知」「外灯を消したり、光の方向を変えたりする」等の対策をあげているが、これらの対策の有効性は限定的であり不十分である。

以上

 

図 沖縄県赤土等流出防止対策行動計画
流域図:石垣島東南海域  (沖縄県2015にNACS-J加筆)

 

行動計画では、この海域は現状としては「サンゴ礁C」であり、陸域からの負荷を今後軽減して「サンゴ礁A」まで改善することを目標としている。


引用文献・資料

沖縄県(2015)沖縄県赤土等流出防止対策行動計画.
http://www.pref.okinawa.jp/site/kankyo/hozen/akatutikihonnkeikaku.html

下田 徹,市川忠史,松川康夫(1998) 琉球諸島のサンゴ礁における栄養環境とそのサンゴ生育への影響.中央水産研究所調査報告12, p.71-80

鈴木倫太郎,長谷川均,前川聡,佐川鉄平,柴田剛,市川清士,後藤慶之(2011)石垣島白保サンゴ礁におけるアオサンゴ群集の分布と形成過程に関する考察.駒澤地理,No47,pp49-56.

中井達郎(2007)サンゴ礁海域保護区の設定における自然地理的ユニットの応用-石垣島白保サンゴ礁を例に-.日本地理学会予稿集,No.71.

(財)日本自然保護協会(1991)新石垣空港建設がサンゴ礁生態系に与える影響.(財)日本自然保護協会報告書,第75号,119p.

Zann, L.P. and Bolton, L. (1985)The distribution, abundance and ecology of the blue coral Heliopora coerulea (Pallas) in the Pacific. Coral Reefs, Vol.4, p125-134.

共同通信(2017年12月16日)沖縄、辺野古沖アオサンゴ別種か 遺伝子、大きく異なる
http://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/184972


参考記事:
新石垣空港建設と白保サンゴ礁生態系保全についての意見書提出​(​2000年)

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