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普天間飛行場代替施設建設事業に係る事後調査報告書に対する意見

2018.01.17
要望・声明

日本自然保護協会は、辺野古・大浦湾の生物多様性の豊かさに注目し、その保全を訴えてきました。

この度、沖縄県環境影響評価条例に基づく「普天間飛行場代替施設建設事業に係る事後調査報告書」に対して、科学的知見をもとに、環境保全の見地から下記の問題点をあげ、意見を書きました。

計画遂行に際し、日本自然保護協会の意見などをふまえ補正された部分もありますが、根本的な改善がなされている箇所が少なく、依然として問題が多いです。

そのため、環境影響評価、公有水面埋立承認願書および環境監視等委員会の助言をもってしても、環境保全は不可能であると言わざるを得ません。

 
20180115_普天間飛行場代替施設建設事業に係る事後調査報告書に対する意見(NACS-J)(PDF/1.9MB)


 

2018年1月15日

沖縄県知事  翁長 雄志 殿
沖縄防衛局長       殿
沖縄県環境影響審査会  各位

普天間飛行場代替施設建設事業に係る事後調査報告書に対する意見

公益財団法人 日本自然保護協会
理事長 亀山 章

 
日本自然保護協会は、辺野古・大浦湾海域において、サンゴ礁や海草藻場モニタリングなどの各種現地調査を行い、辺野古・大浦湾の生物多様性の豊かさに注目し、その保全を訴えてきた。この度、沖縄県環境影響評価条例に基づく「普天間飛行場代替施設建設事業に係る事後調査報告書」(以下、事後調査報告書)に対して、科学的知見をもとに、環境保全の見地から下記の問題点をあげ、意見を述べる。なお沖縄県環境影響評価条例は本事業の一部を対象とするものであるが、事業実施地の自然環境は相互に関係しているため、直接の対象でない場所の問題点も含める。

要約

日本自然保護協会は、普天間飛行場代替施設建設事業(以下、本事業)環境影響評価、公有水面埋立承認願書、環境監視等委員会の判断に対する意見として、豊かな生物多様性に大きな影響を及ぼし、環境保全上問題があるという指摘してきた。日本自然保護協会の意見などをふまえ補正された部分もあるが、根本的な改善がなされている箇所が少なく、依然として問題が多い。

そのため、環境影響評価、公有水面埋立承認願書および環境監視等委員会の助言をもってしても環境保全は不可能であると言わざるを得ない。

いずれもデータを恣意的に利用するなど科学性を欠いているため、環境影響評価の要件を満たしていない。国が事業者であるにも関わらず、科学的な議論と合意形成の手続きを経てきた文書とはいえず、環境影響評価としては極めて不適切なものであり、公有水面埋め立て承認の際にふされた留意事項を満たすものとは思えない。

 

問題点

1) ジュゴンと海草藻場への影響

日本自然保護協会(2014)が指摘してきた通り、2014年夏にはジュゴン(個体C)が大浦湾を頻繁に利用していた。現在ではジュゴンが利用していたまさにその場所には100mの規模を持つK9護岸が建てられている。このことはジュゴンは餌場の1つを失ったということになり、これは工事の影響とみなされるべきである。

また2014年7月中旬以降には、ジュゴンが臨時制限区域内を利用していない。その前後で変わった条件は臨時制限区域を示すフロートの展開、それに伴うコンクリートブロックの投下、警戒船の増強である。2015年5月にはジュゴンは大浦湾のチリビシのアオサンゴ群集付近を利用したが、それを最後に利用の記録は途絶えている。工事や工事の伴う作業の本格化とともにジュゴンが利用を止めた事実を持ち、工事との関連性を証明はできないものの、無関係であるという証明も不可能である。ジュゴンが音に敏感であるという科学的事実を持ち、ジュゴンが本海域を利用していないことと工事との関連性が示唆される。

環境監視等委員会の議論では「ジュゴンを直接船でひっかけない限り、この工事の影響とは言えない」(環境監視等委員会第9回議事録)という認識がジュゴンの専門家である委員から提示されており、他の委員からも異議が出ていないことから、同委員会はそのような認識であると思われる。これは科学性に欠く見識であり、また音による影響を考慮した環境影響評価における保全措置も書かれていたことから同環境影響評価時の認識とも相容れない。

ジュゴン移入についての提案もあったが、餌となる海草をはじめとする環境への影響を把握していないなか、ジュゴンを移入しても失敗に終わることだろう。絶滅危惧種であるジュゴンの確認個体が極めて危機的な状況にある現在、個体数を回復させるには、生息可能性をもつ海草藻場の環境をすべて保全できるかどうかにかかっている。そしてジュゴンがどのような条件や種類の海草を食べるのか、明確にする必要がある。当会が指摘してきた通り、第一に本環境影響評価やその後のプロセスでは海草の種類が考慮されておらず、どの種類の海草がどこに生えているかも把握されていない。従って工事による直接の改変による消失によりどの種類の海草を失うのかもわかっていない。また海草が生える場所の底質の種類も考慮されていない。ジュゴンは海草の下に砂が広がっている場合は海草を食べることができるが、下に広がる底質がサンゴ礫などの場合は、食べることができない。これは海草と一緒に底質も飲み込まざるを得ないジュゴンの特性である。従って、海草を移植しても、どの種類でも、どのような基盤に生えているものでもジュゴンが食用にできるという訳ではない。単純に種類も区別しない海草の被度だけでは判断はできず、有効な保全措置とは言えない。

海草の移植が検討されているものの、ジュゴンは必ずしも被度が高い海草を好むわけではなく、底質も関係することから、ジュゴンが好む海草の条件もわからず移植して面積だけを増やしても保全措置としては機能しない。

事後調査報告書等にはジュゴンの監視警戒システムによる調査及び保全が書かれており、目的はジュゴンの存在確認と記されているが、本計画ではコントロールが十分に設置されているとは言い難く、その有効性は疑わしい。今回計画されている水中録音装置に関しては海底を破壊する形で設置されることから、環境に及ぶ影響が大きいことと判断される。生態系にはすでに影響が及んでおり、ジュゴンの生息状況を見ると、2007年-2008年に実施された環境現況調査および環境影響評価時に海底に設置した機器がジュゴンの行動に影響を与えた可能性が高い(日本自然保護協会、2014 (PDF/5.27MB))。

2004年まではジュゴンは辺野古海域を利用し、環境現況調査および環境影響評価が行われた時期には利用記録がなく、2009年以降に徐々に利用を再開し、2014年には2ヶ月で合計150本を超える食痕が記録された(日本自然保護協会、2014 (PDF/5.27MB))。このことは、2007年-2008年の調査時に海底に設置した機器がジュゴンの行動に影響を与え、ジュゴンがこの海域に近づけなくなった可能性が高いと考えられる。機器は大型であることから海底を破壊するうえに、ジュゴンの遊泳にも影響が及ぶ可能性がある。また機器自体が潮流などに与える影響についてのシミュレーションも行われていないことも問題である。

ジュゴン監視警戒システムは環境保全措置として有効ではないと以前から指摘してきた(日本自然保護協会、2013)。環境影響評価書はジュゴンの生息密度が高いタイにおいて実験されているものの、生息密度が極端に低い沖縄沿岸において有効に機能するとは考えられない。また、タイのような静かなジュゴン生息地における鳴音探査ならともかく、工事施工海域における船舶からの鳴音探査が果たして可能であるかどうか疑問である。したがって、ジュゴンが工事施工海域に接近した場合には、水中音を発する工事を一時休止するという環境保全措置に対しても疑問を呈さざるを得ない。

ジュゴンの生息個体数について事後調査報告書等では3頭という見解であるが、昨年公表されたように、もう1個体の生息が確認されている。従って少なくとも生息数は4頭であり、それを考慮して保全措置を計画しなおす必要がある。

 

2)サンゴおよびサンゴ礁について

環境影響評価時のサンゴの被度は低く、これは1998年の大規模白化現象の影響を受けて壊滅的な打撃を受けたことから回復しきれていなかったためである。リーフチェックの結果(日本自然保護協会、2012など)が示すように、同海域のサンゴの被度は1998年以前は約60%であったことから、潜在的なポテンシャルとして本海域が健全なサンゴ礁域であることを示すこの評価を当てはめるべきである。このことは、日本自然保護協会(2013など)のほか、土屋誠氏(2004)などから指摘がある。

連結式着床具を用いる幼サンゴの加入状況調査はコントロールが十分に設置されているとは言い難い調査であり、その有効性は疑わしい。もしも幼サンゴが着床具につけば、そのときにその付近にサンゴの幼生を含む海流が流れていたことを示すが、着床具につかなかったとしてもそこにはサンゴが分布しないという証明にはならない。サンゴの分布を知る目的ならば沖縄防衛局がすでに行っているサンゴの被度を記録する潜水目視調査で十分であり確実であろう。またこの調査が幼サンゴの加入状況を知る目的である場合にも、海流の方向や流れなどの自然の条件は毎年変わるため、着床するサンゴの場所も変わる可能性が高い。

したがって今回希望する結果を得たとしても、今年と同じ場所に今後も幼サンゴが加入するという保証にはならず、調査の目的があいまいである。幼サンゴの大まかな分布を知りたいのであれば、過去に実施した調査で把握できているはずである。これ以上、同じ調査を行う理由が乏しい。また上記のように同海域のサンゴ礁が持つ潜在的なポテンシャルを考慮せずに設置しても意味がないと考えられる。さらには連結式サンゴ幼生着床具についてはその有効性が疑問視される論文(大森、2016)が出されていることも考慮すべきである。

サンゴの保全措置として事業者は移植を挙げているが、事業者はサンゴ類の移植・移築元の範囲を、「水深20m 以浅の範囲」「総被度5%以上で0.2ha 以上の規模を持つ分布域の中にある長径10cm 以上のサンゴ類」などと制限し、生息している全てのサンゴ類を移植の対象とはしない予定である。しかし一般的にはサンゴ礁では長径10 cm 以下の群体が多数みられ、また同海域には水深29m地点に生息するコモチハナガササンゴ群集など、水深20m以深にもサンゴ類は生息している。これらを移植対象外とするのは理解しがたい。

事業者は、環境影響評価書では、事業実施前に移植を実施すると記載しているが、環境監視等委員会への説明では、工事と平行して移植等を行うことを示唆している。平時でも移植されたサンゴに大きなストレスを与えるものであるにも関わらず、工事実施と並行で行えば工事による直接な影響により弱っているサンゴを移植することになる。すなわち移植先において生残率がさらに低下することとなる。事業者が真摯に移植を環境保全措置として捉えて計画しているとは考えがたい。さらに、移植が失敗した場合の保全策、対応策も移植実施前に検討し、公表しておく必要がある。

 

3)コンクリートブロックなどの影響

臨時制限区域を示すフロートを固定させるために、大小さまざまなコンクリートブロックが計300個以上同海域に沈められている。これらのブロック設置は環境影響評価時には存在しなかったため、影響が予測されていない。サンゴ類と海草の上にブロックを置くことを避けているようであるが、泥場、砂場、ガレ場などサンゴ類や海草を避ければよいというものではない。生きたサンゴがいない場所もサンゴ礁生態系の一部であり、サンゴ礁を利用する生物や地理的要素にとって大切な場所である。それぞれの場所に適した生物が棲息している。またブロックにより海底の地形が平坦になると、海流の変化など、長期的に影響が生じうる。

 

4)ウミガメについて

ウミガメの保全措置としてウミガメの産卵に適した砂浜を創出することがあげられているが、そもそもウミガメが好む砂浜の条件は把握できていない。昨年はウミガメが利用してきたキャンプシュワブ砂浜で作業を行う都合上、事業者はウミガメ専用通路という施設を設置していた。自然界には存在しない施設にも関わらず6個体が産卵した。これはこのこの海岸がいかにウミガメにとって重要かということを示しており、今後の工事の過程でこの海岸を失うことはウミガメにとって大きな損失となる。

 

5)底生生物について

主に移動能力の低い貝類や甲殻類の重要な種及び移植が必要と判断される海藻類の重要な種について、生息域の改変前に、可能な限り人力捕獲を行い、各種の生息に適した周辺の場所へ移動を行いすでに貝類や甲殻類などの生物を保全措置として移動しているが(2017年11月8日時点にて、96地点において移動対象種を捜索し、うち77地点で43種類、計2,849個体を移動済)、移動させた生物について定量性のある追跡調査をしていないので、有効性が疑わしい。

 

6)工事や工事に伴う作業について

ジュゴンなど音に敏感な生物に対する保全措置としての作業時間、船の速度制限日の出1時間後に工事を開始し、日没1時間前に工事を終了するという保全措置は守られていると事後調査報告書には書かれているが、現場では守られていない。工事や作業が日の出とともに開始され、日没後まで行われていることがしばしばある。また主にジュゴンへの保全措置として、船の速度を制限すると書かれ、事後調査報告書では守られていると書かれているが、こちらも現場では守られてない。大きな問題として海上保安庁にはこの環境保全措置についての連絡が行っていないことが考えられる。生物たちにとっては防衛省の船も海上保安庁の船も区別がつかないものであり、海域を行き来する全ての船が速度制限を行わなければ環境保全措置として意味をなさない。

 

7)工事の影響を測る指標として選定されている生物の妥当性

河口付近の工事への影響は魚類ではトカゲハゼ1種が指標としてあげられているが、当然ながらこの場所には多くの生物類が棲息している。他の魚類および生物類についても生息状況を測るべきであり、工事の影響を測る指標に問題があり、改善の余地があることは工事実施予定地周辺の全てに当てはまる。

 

8)生物等の移植、自然環境の造成に関する記述について

自然環境は人工的に造成や再生ができるものではない。サンゴ礁生態系には砂礫地や岩礁地、泥地など多様な環境が存在し、その結果として多様な生物が棲んでいる。潮の流れや水中の光環境なども含め本来の環境を再現し、そのうえで棲息するすべての生物を移植するのでなければ保全したことにはならない。
したがってこれらの措置は環境保全措置と呼べる段階にはなく、また環境に与える影響を軽減させる主な手段となり得るものでもない。このような提案は、自然破壊の免罪符を与えることにつながりかねないものである。

 

9)具体性を欠いた環境保全措置で、実施責任が明記されていない

工事中および供用後のモニタリング方法や環境監視体制、環境変化の指標や環境保全の目標の設定が曖昧にされたままでは、環境影響評価が形骸化したものになる。影響の低減・代償として行われる環境保全措置は、「必要に応じて」「可能な限り」など条件付きの記述では実効性がない。また米軍にマニュアルを提供する、米軍に要請するなどの実効性を伴わない記述を環境保全措置とするべきではない。環境保全に失敗した場合の責任者の明記がないままでは、最初から、環境保全上の責任を放棄しているとしか考えられない。

 

10)予測不能な要因への対応

予測不能な要素を多々含む自然環境が対象であるのに「対応が不可能なもの」や「影響が不明のもの」について書かれていない。事業者は今後、これらの2項目を追加し、それについて再検討すべきである。

 

11)埋め立て土砂の調達先は環境保全上重大な問題がある

埋め立て土砂の調達先として県内・県外のダム堆積土砂や浚渫土を含む建設残土、リサイクル材等を候補としてあげている。特に県外からの土砂の持ち込みは、外来種混入の可能性が高く、環境保全上大きな問題がある。「外来生物法に準拠した対策を講ずる」とあるが、誰が責任を持つのか、その所在が明確でない。また沖縄県内から購入すると記されている海砂60万m3についても調達先が明記されていない。県外から持ち込む土砂を熱処理して外来種を除去する試みがなされていると報道がされていたが(沖縄タイムス、2017年12月29日)この措置を全ての土砂に適用するのならば、この熱処理自体が環境に与える影響が大きく環境影響評価が必要となる。
大量の埋め立て土砂について、採取先が県内・県外や陸上・海上のいずれでも、採取地と埋立地の両方の自然環境に与える影響は大きく、長期的・複合的な影響を考慮する責任が事業者にはある。

2013年に沖縄県に提出した同事業の環境影響評価書(補正後)に対する意見を出した際と、根本的には何ら改善はなされていないので、同評価書に対する理由書を添付する。自然界を相手にすることから、対応が不可能なものや影響が不明のものも当然出てくると考えられるが、本報告書や本事業を遂行するにあたり事業者に助言を与える環境監視等委員会はそのような判断はしてしない。予測や影響が不明のことはそのように受け止めるべきであり、予防原則を当てはめるべきである。

生物多様性が極めて豊かで環境省の重要海域の1つにも指定され、「著しく高い生物多様性を擁する沖縄県大浦湾の環境保全を求める19 学会合同要望書」(日本生態学会など、2014)においても学術点な観点から再度の評価が求められている。そのため同海域は優先的に保全されるべきである。一方において、2016年、2017年と2年連続で同海域のサンゴ礁が高水温や病気等により被度が低下している場所もあることが当会の調査で記録されている。今年は国際サンゴ礁年である。沖縄県には大切な財産であるサンゴ礁を守っていただきたい。


添付資料:
2013.02.12
「普天間飛行場代替施設建設事業に係る環境影響評価書(補正後)」への意見

参考:

  1. 日本自然保護協会(2014).記者会見資料「辺野古/環境アセス後に判明した新たな事実を発表」
    https://www.nacsj.or.jp/archive/2014/07/523/
  2. 日本自然保護協会(2012)(2013). 普天間飛行場代替施設建設事業に係る環境影響評価書への意見.
    https://www.nacsj.or.jp/archive/2012/02/420/(2012年) 
    https://www.nacsj.or.jp/archive/2013/02/453/(2013年)
  3. 土屋誠(2004).「 地質調査・海象調査の作業計画および同参考資料に対するコメント」.
  4. 大森信(2016)連結式サンゴ幼生着床具は最良のCoral babe magnetではない:すぐれたサンゴ幼生の着生基盤についての考察. 日本サンゴ礁学会誌 第18巻,1-9(2016
  5. 日本生態学会など(2014)著しく高い生物多様性を擁する沖縄県大浦湾の環境保全を求める19学会合同要望書19学会要望書

 


▲ フロートで囲まれた新基地建設現場。船などが近くの漁港からでると、フロート内からこのように監視が始まります。

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