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東京湾の貴重な「多摩川の河口干潟」に建設予定の羽田連絡橋~ 自主的アセス審査書の完全実施を、自然保護5団体で川崎市長に要望しました。

2016.12.26
要望・声明

平成28年12月26日

川崎市長 福田 紀彦 殿
(川崎市建設緑政局広域道路整備室)

自然観察指導員東京連絡会 代 表 川上典子
日本野鳥の会神奈川県支部 支部長 鈴木茂也
公益財団法人日本自然保護協会 理事長 亀山 章
公益財団法人日本野鳥の会 理事長 佐藤仁志
公益財団法人世界自然保護基金ジャパン 会 長 德川恒孝
<公印省略>

羽田連絡橋(都市計画道路3・4・29号殿町羽田空港線)建設事業に対する要望書

私たちは、多摩川河口干潟の生物多様性の重要度が高いことを認識し、その保全のために、地域の方々とともに自然観察会や探鳥会、調査研究、干潟の保全の提言をしてまいりました。

羽田連絡橋計画に関しては、東京湾に残された貴重な自然干潟に大きな影響を与えると考え、環境影響評価準備書や都市計画道路決定等の機会に意見書を提出してまいりました。

 
本計画は、川崎市環境影響評価に関する条例の環境影響評価手続きの対象規模未満の事業であることから、同条例の第3種行為相当として手続きがなされました。これに関して川崎市長は、本案件を、第3種行為の事業としては初めて環境影響評価審議会に諮問され、また、専門性を要する項目に関して2名の学識経験者を臨時委員に委嘱されました。これは、多摩川河口の干潟や動植物の価値を認識された表れであり、私たちの意見にも耳を傾けて頂いた結果と感謝申し上げております。

 
こうして出された、川崎市環境影響評価審議会の答申(平成28年11月8日)、またそれを踏まえて出された自主的環境影響評価審査書(平成28年11月14日公告、以下審査書)には、環境影響評価準備書に対して多くの指摘と懸念が示されました。

これらの指摘と懸念は、私たちがこれまで提出してきた意見とも通じるものであり、自主的環境影響評価準備書の不十分さの再認識と、このまま工事が行われた場合の多摩川河口干潟の生物多様性の保全に大きな危惧を抱いております。

 
つきましては、審査書で指摘された事項の完全実施とともに、別紙に挙げた審査書での指摘事項への対応と改善計画をすみやかにホームページ等で公表することを要望します。なお、環境への影響を回避するために重要と考えられる以下の点については、着工前の対応と公表を求めます。

  1. しゅんせつ箇所及びその周辺の保全・回復計画の具体案と手順の明示すること。
  2. 答申並びに審査書で指摘のあった「低層DO」「水質の塩分濃度」を含めた、工事前・工事中のモニタリングの期間・頻度・方法・地点等を記載した具体的な調査計画および供用時のモニタリング計画立案を行う予定時期の明示すること。
  3. モニタリングの結果および干潟の保全・回復に係る措置の実施状況の公表スケジュールの明示すること。
  4. 具体案を策定するために意見を聞く専門家の氏名と所属及び肩書の明示すること。
  5. 工事着手前の工事説明会の開催と、説明資料の事前配布。事前説明の内容としては、工事行程や作業時間等の工事計画、指摘事項を踏まえた環境影響に係る低減策等。

なお、専門分野が多岐にわたるため、専門家で構成する専門委員会を設定して、意見を聴取するとともにモニタリングや干潟の保全・回復に係る措置の評価を行うべきと考えます。

以上


別紙

(1)全般的事項

審査書での指摘事項:

「工事着手前に周辺住民等に対する工事説明等を行い、環境影響に係る低減策、関係住民の問い合わせ窓口等について周知を図ること」

質問・要望等:

「工事着手前の工事説明会を開催すること。予定の事前告知と資料を公開してください。問い合わせ窓口については、メールでの問い合わせ対応が出来るようにしてください。

(2)個別事項

イ 水質(公共用水域)

審査書での指摘事項:

「工事影響の判定の必要性も踏まえ、「低層DO(低層の溶存酸素)」について生物生息を制限する指標とし、工事前、工事中及び供用時におけるモニタリングを行うこと。」

「工事前、工事中及び供用時の水質の塩分濃度についてモニタリングを行うこと。」

質問・要望等:

低層DO及び塩分濃度は事前調査では測定しておらず、季節や潮汐変化等の環境変化による変動が大きいと予測されることから、指標とするには工事前のデータ把握を最低1年行う必要があると考えます。工事前モニタリングの予定を明示してください。

また、低層DOについて生物生息を制限する指標とする場合の目標数値や考え方、水質の塩分濃度と生物叢に与える影響との関係の判断方法について明示してください。

なお、追加調査で得られた結果を公表するとともに、環境影響評価を行いその結果を公表してください。

エ 干潟

審査書での指摘事項:

「実際にしゅんせつ箇所を回復させることについては、不確実性が高く、高い技術レベルが要求されることから、どの様な手順と技術によって保全(特に、底質と地形)又は回復させるかの検討が、環境保全措置の中で非常に重要と考えられる。したがって、しゅんせつ箇所及びその周辺の保全・回復計画については、なるべく早い段階で専門家の意見を聞いた上で具体案を策定すること」

質問・要望等:

しゅんせつ箇所及びその周辺の保全・回復計画の具体案の作成予定を明示してください。その際、意見を聞く専門家のお名前と所属及び肩書も明示するとともに、関係者からも意見を求め反映してください。

審査書での指摘事項:

「準備書に示した工事前、工事中及び供用時のモニタリングについては、専門性が高い事から今後、専門家の意見を聞いた上で期間、頻度、方法、地点等を具体的に記載した調査計画を策定し、着実に実施すること。特に、終了時期については、モニタリングデータを見ながら慎重に判断すること」

質問・要望等:

モニタリングの具体的な調査計画の策定予定を明示ください。また、その際意見を聞く専門家のお名前と所属及び肩書も明示ください。広く関係者からも意見を求め反映してください。

オ 植物

審査書での指摘事項:

「準備書に示した工事前、工事中及び供用時のモニタリングについては、期間、頻度、方法、地点等を具体的に記載した調査計画を策定し、着実に実施すること。」

質問・意見等:

モニタリングの具体的な調査計画の策定予定を明示ください。広く関係者からも意見を求め反映してください。

カ 動物

審査書での指摘事項:

「移動性のある鳥類においては、個体数変化や行動を把握するために多点・多頻度でのデータが重要となること、さらに、複数の橋がかかった場合の鳥類の動態予測について不確実性が残ることなどから、本計画区間近隣において他事業者が鳥類等のモニタリングを実施する場合には、密接な連携により工事前、工事中及び供用時の環境モニタリングデータの共有を図ること。また、モニタリングの実施に当たっては、飛翔高度について他所における過去の結果を踏まえると、橋梁がかかることによって大きく変化すると予測されることに留意すること」

意見・要望等:

鳥類の個体数変動や行動を把握するための調査計画を専門家の指導のもとで策定し、公表してください。また、本計画区間近隣において鳥類等のモニタリングを実施する他事業者を調査し、データの共有について協議を行ってください。

キ 生態系

審査書での指摘事項:

「鳥類については、上位性の種と典型性の種の生息しやすい環境は異なり、両立しない可能性があることから、「上位性」と「典型性」のどちらが、より優先されるのかを事業者として見解を持った上で適切な環境保全のための措置を講ずること」

意見・要望等:

「上位性」と「典型性」の種はどちらも多摩川河口干潟にとって重要であるため、できるかぎり双方の生息環境を保全してください。やむを得ずどちらかをより優先する場合の見解を明示するとともに、環境保全のための措置として考える案を公表してください。

審査書での指摘事項:

「準備書に示した工事前、工事中及び供用時のモニタリングについては、専門性が高い事から今後、専門家の意見を聞いた上で期間、頻度、方法、地点等を具体的に記載した調査計画を策定し、着実に実施すること。特に、終了時期については、モニタリングデータを見ながら慎重に判断すること」

質問・要望等:

モニタリングの具体的な調査計画の策定予定を明示してください。その際、意見を聞く専門家のお名前と所属及び肩書を明示してください。また、広く関係者からも意見を求め反映してください。

ク 騒音・振動・低周波音

騒音

審査書での指摘事項:

「工事行程、作業時間等の工事計画について、工事着手前に周辺関係者への周知を図ること。」

質問・要望等:

工事行程、作業時間等の工事計画の説明会の予定を明示してください。

ス その他

審査書での指摘事項:

「準備書のモニタリング調査計画に記載されている干潟、植物、動物及び生態系に関するモニタリングについては、本計画の実施により多摩川河口干潟及びそこに生息する動植物等への影響を懸念する意見書が提出されていることなどを踏まえ、これらの結果及び干潟の保全・回復に係る措置の実施状況について専門家の意見を聞いた上で、事業者自らがホームページ等で適切に公表すること」

意見・要望等

モニタリングの結果及び干潟の保全・回復に係る措置の実施状況を定期的に公表してください。また、そのスケジュールをあらかじめ公表してください。

以上

****
(多摩川の河口干潟とは)
東京湾の干潟は、かつての10%程度しか残存していません。多摩川河口干潟は、東京湾に残存する河口干潟としては塩性植物群落が残る唯一の場所です。多くの渡り鳥や、底生生物が生息する場所は、日本の玄関口である羽田空港の直近という立地では奇跡的です。その干潟の中央部に、通称・羽田連絡道路(都市計画道路3・4・29号殿町羽田空港線)の橋が建設予定です。

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