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「懸念と要請の手紙 やんばるの森の世界遺産登録に向けて」と題した手紙を米国政府(大使館、那覇領事館)、在日・在沖沖米軍に送りました。

2016.12.03
要望・声明

 
要請の手紙本文(英文)(PDF/116KB)

要請の手紙本文(和訳)(PDF/209KB)


2016年11月30日

キャロライン・ブーヴィエ・ケネディ大使
特命全権大使、在日米国大使館
東京、日本

ジェリー・P・マルティネス中将
司令官、 在日米軍
横田空軍基地、日本

ローレンス・D・ニコルソン中将
司令官、在日海兵隊
キャンプ・フォスター、沖縄、日本

ジョエル・エレンライク総領事
総領事、米国総領事館那覇・日本
沖縄、日本

懸念と要請の手紙
やんばるの森の世界遺産登録に向けて

ケネディー大使、マルティネス中将、ニコルソン中将、エレンライク総領事

私たちは、沖縄島北部やんばるの森の米海兵隊北部訓練場における米軍航空機のための6つの「着陸帯」の建設について、この森が日本政府によって提出された世界自然遺産の暫定リストに掲載されたことを踏まえ、あなた方に私たちの懸念を伝え、要請を行うため、この手紙を書いています。

在日米軍がよく承知しているように、地域コミュニティー、国際社会の環境団体、平和団体が強く反対するなか、沖縄防衛局は 2016 年の年末までに計画する着陸帯を全て建設しようと工事を強行しています。工事強行のために沖縄防衛局は、科学的かつ手続き的問題を広く指摘されてきた 10 年前の環境アセス図書を使い続けています。

しかも防衛局は、その環境アセス図書で示した緩和措置さえも遵守せず、工事の手続きも大きく変更しました。これは、2016 年 10 月に判明した着陸帯やアクセス道路の建設のための 24,000 本の樹木伐採の計画に顕著に現れています。防衛局は、環境を破壊しているだけではなく、環境アセスのインテグリティをも毀損しているのです。

建設現場では、建設に反対する人々と日本政府により送りこまれた機動警察隊の間で、激しい衝突が毎日のように起きています。衝突は、しばしば反対する人々の不当逮捕や拘束、時には怪我、そして機動警察隊による「土人」(先住民に対する差別語)発言のような侮辱的かつ差別的発言など、様々な人権侵害へと至っています。

状況は混乱しており、危険的であり、沖縄と日本政府の対立関係をさらに悪化させています。

着陸帯の建設への反対には、様々な人々が参加しています。東村高江の住民は、自分たちのコミュニティーの間近で着陸帯で建設されるというこの計画に 1990 年代からずっと反対しています。完成した二つの着陸帯を使い行われている航空機の訓練は、すでに堪え難いレベルの騒音を発生させ、住民の日常の生活を乱し、脅かしています。

他の人々は、新たな着陸帯を日本政府による沖縄へ米軍基地負担のさらなる押しつけだと捉え、反対しています。日本の領土の 0.6 パーセントしかない沖縄は、日本国内における米軍基地や施設の 74 パーセントをすでに負担しているからです。

さらに、着陸帯が建設されているのが、日本において最も重要な生態系の一つであるやんばるの森の、なかでも影響を受け易い地域であることが、この手紙を書いている私たちを含め、人々が建設に反対している理由です。この観点については後述する通りです。

こうした状況があるにも拘わらず、米軍と米国政府は、いかにも自分たちには何も関係ないかのように静観し、着陸帯の建設、環境の破壊、人々と機動隊の衝突を許している、そのことを私たちは懸念しています。

着陸帯の建設:SACO、日米地位協定、訓練場における権限

私たちは、着陸帯の建設が 1996 年の日米両政府による SACO 合意のなかで、北部訓練場の過半の返還の条件の一つであったことは認識しています。また日米地位協により、日本政府は米軍に施設や区域を提供する責任があり、この着陸帯の建設も日本政府の責任となっていることも認識しています。

しかし私たちは、北部訓練場の一部返還により 7 つの着陸帯が失われるとし、新たな着陸帯の建設を要求したのは米軍であったことを知っています。私たちの見解は、米軍はさらなる着陸帯を要求すべきではなく、無条件で返還すべきだったということです。また私たちは、日米地位協定により、米国(と在日米軍)が「施設及び区域内において、それらの設定、運営、警護及び管理のため必要なすべての措置を執ることができる」権限を与えられていることを知っています。

これは言い換えると、米国(と米軍)が北部訓練場において着陸帯の建設を許可するかどうか決定する権限をもっているということです。

UNESCO 世界遺産暫定リストへ掲載されたやんばるの森

ここで、あなた方に、ユネスコの世界自然遺産に向けて日本政府が提出した暫定リストにやんばるの森が掲載されている事実に注目して頂きたいと思います。

在日米軍がよく承知している通り、27,800 ヘクタール(68,695 エーカー)のやんばるの森は、沖縄本島における最も古い亜熱帯雨林の森であり、また日本において最も生物多様性に富んだ区域です。5,400 の動物種や 1,000 の維管束植物種の生息地で、そこには日本の環境省のレッドリストに記載されている 170 種以上の絶滅危惧種が含まれています。固有種かつ絶滅危惧種のノグチゲラやヤンバルクイナは、広く知られているやんばるの森の生息種のなかでも最も知られています。それらは日本の天然記念物でもあります。沖縄県の西表島や鹿児島県の奄美大島・徳之島と共に、やんばるの森は、ユネスコ世界遺産リストの登録に向けて正式に考慮されるに相応しい場所なのです。

日本の環境省、沖縄県、その他政府機関、地域コミュニティーが懸命に取り組み、やんばるの森の貴重な環境を2016年2月に暫定リストに掲載させることができました。また環境省は、世界自然遺産登録への取り組みの一環として、2016 年9月にやんばるの森の中央部分を日本の 33 番目の国立公園に指定しました。今後、やんばるの森を世界自然遺産とするため、「バッファーゾーン」を含めた厳密な境界線が間もなく設定され、また 2017 年にはユネスコの専門的諮問機関である世界自然保護連合(IUCN)が来沖し、これらの地域を審査することになるでしょう。

一方やんばるの森では、その 7,800 ヘクタール(19,274 エーカー)が米軍に接収され米軍北部訓練場と化した 1957 年以降、米軍のジャングル戦闘訓練や低空飛行訓練が続けられています。北部訓練場には 22 の着陸帯(そして新たに建設された 2 つが加わった)やその他の訓練施設があります。航空機からの騒音、軍の廃棄物による土地汚染、航空機の墜落が、林業による伐採や林道建設に加えて、やんばるの森の大きな環境問題となっています。そして着陸帯の建設がさらなる環境問題となっているのです。

私たちの懸念は、これらの環境問題がやんばるの森の世界遺産登録において大きな障害となることです。世界遺産には「完全性)が要求されます。ユネスコは「完全性」の定義を「自然遺産及び/又は文化遺産とそれらの特質のすべてが無傷で包含されている度合いを測るためのものさしである」としています。

残念なことに、米軍がやんばるの森の世界自然遺産登録の手続きについて適切な考慮をしてきたことを示すものはありません。現在沖縄の人々に公開されている米軍の文書において、やんばるの森の世界自然遺産登録手続きについて言及しているものはありません。例えば沖縄へのオプレイ配備と訓練のために米海軍によって作成された「“Final Environmental Review for Basing MV-22 at MCAS Futenma and Operating in Japan” 」(いわゆる「環境レビュー」)です。「環境レビュー」では、やんばるの森の自然や文化資源、そしてそれを守る法律や規制については検証しています。しかし、環境省や沖縄県によるやんばるの森の自然遺産登録手続きに向けた取り組みについて、(「環境レビュー」が提出された)2012 年にはすでに準備は行われていたのに、「環境レビュー」はそのことについて全く触れていません。

通常米軍が沖縄での出来事、特に米軍基地、施設、区域に関連する出来事については密接に情報収集していることを考えると、なぜこのような状況なのか、理解に苦しみます。登録手続きの情報を米軍が無視しているのか、日本政府が米軍にきちんと情報伝えていないのか、私たちには分かりません。
着陸帯の建設、危険な衝突や人権侵害、米軍航空機の訓練に加えて、米軍と米国政府がやんばるの森の世界自然遺産登録手続きを認識していない状況、それら全てが登録の妨げとなっていくことを私たちは懸念しています。

米国国家歴史保存法、世界遺産条約、そして私たちからの要請

私たちの理解するところ、世界遺産条約に関連する事項を扱う米国国家歴史保存法(402 項)において、訓練であれ施設の建設を許可することであれ、米軍の事業が他国の世界遺産に与える影響について考慮することが米軍に求められている一方、やんばるの森の場合のように登録手続きへの影響については、同様の考慮は求められていません。

しかし、やんばるの森が世界遺産の候補地であり、現在その登録手続きの段階であることを踏まえると、国家歴史保全法の精神や意図が求めるものは、米軍が着陸帯の建設を許可することや訓練による影響を考慮することだと私たちは考えます。実際、米国も調印国となっている世界自然遺産条約の運用指針の 135 項では以下のように規定されています。

国境を越える資産の登録推薦書は、できる限り、関係締約国が条約第11.3条に則り共同で作成し、共同で提出することが望ましい。また、関係締約国が、共同管理委員会または同様の機関を設立して国境を越える資産全体の管理を監督することが強く推奨される。

そしてユネスコの世界遺産条約の 11 条 3 項では以下のように規定されています。

「世界遺産一覧表」に物件を記載するにあたっては、当該国の同意を必要とする。2以上の国が主権又は管轄権を主張している領域内に存在する物件の記載は、主張当事者の権利に影響を及ぼすものではない。

米国が管轄権をもつ米軍の北部訓練場がやんばるの森の中の影響を受け易い地域に位置にすること、そして暫定リストで示された世界自然遺産登録のための「沖縄本島の北部」或はやんばるの森の座標点は北部訓練場から1km (0.6 miles)しか離れていないことをどうか再確認して下さい。

私たちは、同盟国の世界遺産登録の障害となっていると見なされることを米軍や米国政府は望んでいないと考えます。よって私たちは、以下のことを要請いたします。

世界遺産条約 11 条 3 項、世界遺産条約運用指針 135 項、そして米国国家歴史保存法 402 項の精神と意図に基づき

  • 米軍は、地域コミュニティー、沖縄県と日本政府、そして適切な NGO と協議し、着陸地帯の建設を許可することや航空機訓練がやんばるの森の世界自然遺産登録の手続きにどのような影響があるのかを検証/評価すること。
  • 米軍は、検証/評価を行う間、着陸帯の建設に関わる沖縄防衛局への入構許可書の発行を停止すること、また航空機及びその他の訓練を中断すること。
  • 米国国家歴史保存諮問委員会を含む米国政府の機関を、その検証/評価の手続きに関わらせること。

敬具

Okinawa Environmental Justice Project
琉球諸島を世界自然遺産にする連絡会
奥間川流域保護基金
沖縄環境ネットワーク
日本自然保護協会
国際環境NGOグリーンピース・ジャパン
国際環境NGO FoE Japan
沖縄のための日米市民ネットワーク
「ヘリパッドいらない」住民の会
高江ヘリパッド建設反対現地行動連絡会
海の生き物を守る会
沖縄リーフチェック研究会
北限のジュゴンを見守る会
ジュゴン保護キャンペーンセンター
ジュゴン保護基金
泡瀬干潟を守る連絡会
イルカ&クジラ・アクション・ネットワーク
バイオダイバーシティ・インフォメーション・ボックス
ヘリ基地反対協・ダイビングチーム・レインボー
合意していないプロジェクト
沖縄国際人権法研究会
反差別国際運動
特定非営利活動法人APLA
ヘリ基地いらない二見以北十区の会
ヘリ基地反対協
みん宿ヤポネシア
じゅごんの里
ヘリ基地いらない二見以北十区の会
日本基督教団東京教区北支区沖縄委員会
日本基督教団東京教区北支区・国際宣教協力委員会
真宗大谷派・9条の会 大垣
平和・人権・環境を守る岐阜県市民の声
「9条の会・おおがき」
在日朝鮮人作家を読む会
以下の団体もこの手紙を支援しています。
ジュゴンネットワーク沖縄
北限のジュゴン調査チーム・ザ ン

YANBARU, OKINAWA-600x848.jpg

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