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奄美大島の海岸侵食視察報告と奄美大島住用湾における採石場からの海域への流入負荷の現状と提言

2016.02.20
要望・声明

奄美大島の海岸侵食視察報告(PDF/2.23MB)
奄美大島住用湾における採石場からの海域への流入負荷の現状と提言(PDF/2.1MB)
<ご参考>
奄美群島の環境保全(サンゴ礁)と世界自然遺産に関する要望書(海の生きものを守る会、自然と文化を守る奄美会議)(PDF/235KB)


奄美大島の海岸侵食視察報告

海の生き物を守る会
向井 宏・中野義勝

日 時:
2015年5月29日および12月18日
参加者:
安部真理子、中野義勝*、向井 宏、大津幸夫、義 富弘 (*12月のみ参加)
調査した海岸:
用海岸、用安海岸、手広海岸、嘉徳海岸、大浜海岸*(*5月のみ)

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1.用海岸(笠利町)

笠利町の用海岸は、広い砂浜と後背の砂丘に塩性植物帯が広がる自然海岸である。砂にはサンゴ礫が混じっており、大部分がサンゴ、貝がら、有孔虫、サンゴモ類など生物由来の砂で構成されている。ここでは砂浜は健全さを保っており、砂の減少も著しくない。おそらく裾礁の健全なサンゴ礁と陸からの砂の供給が比較的継続的に行われていると考えられる。砂浜に漂着している動物の遺骸は、以下のような種類があった。

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巻 貝 :
ウノアシ(リュウキュウウノアシ型)、アマオブネ、スズメガイ、リュウキュウヘビガイ、ハナマルユキ、ハナビラダカラ、キイロダカラ、リスガイ、レイシダマシモドキ、ムラサキイガレイシ、フトコロガイ、レイシダマシ、ミダレシマヤタテ、ノシガイ、サヤガタイモ、マダライモ、コシダカナワメグルマ、ナツメガイ、コウダカカラマツ、ヒラカラマツ、カラマツガイ、ハツカネズミ類、シイノミクチキレ、ムラサキムギガイ
二枚貝 :
ベニエガイ、カネツケキクザル、ヒレキクザル、リュウキュウザルガイ、ヒメシャコガイ、スエヒロフナガタ、キサガイ、ユキガイ
軟体動物:
コウイカの甲
甲殻類 :
エボシガイ
腔腸動物:
アオサンゴ、キクメイシ、その他イシサンゴ類
海 藻 :
カイメンソウ

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後背砂丘の塩性植物帯には、以下のような植物が見られた。
ハマゴウ、グンバイヒルガオ、アダン、ハマササゲ、ハマニガナ、アメリカネナシカズラ、ハマユウ、ホソバワダン。
砂丘の上部には、アダンの林になっており、その後部は外来植物のモクマオウの林になっている。

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2.用安海岸(笠利町)

笠利町の用安海岸(図4~7)は、「ばしゃ山村」というレストラン+土産物店の海岸側にあり、店と海岸の間は低いコンクリートの擁壁で区切られ、後背部の植生はほとんど無くなっている。擁壁の前の砂浜には、ヤシ類が植えられている。店は本来の後背植生帯のあった場所に建てられている。砂浜は大部分が海の生きもの起源の砂粒で構成されている。この用安海岸では、近年(10年規模)になって急速に砂浜の砂が無くなり、砂浜の前面の岩礁が現れるようになったとの証言がある(ばしゃ山村社長)。

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過去の航空写真を見ると(図8)、2003年や2005年に比べて2010年以降は面積でも砂浜が減少していることが見て取れるが、面積としては大きな減少とは言えない。しかし、証言によると砂の厚さが

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砂浜の全面にわたって1m近くなくなってしまっていると言う。航空写真で見る限りでは、2010年に広く存在した河口右岸の塩性植生帯が現在ではほとんど無くなっていることが確認できる。また、203年には沖合に海草藻場がかなり多く点在していたものが、2010年以降にはほとんど無くなってしまっていることも、大きな変化である。

この用安海岸の砂浜の変化には、いくつかの要因が考えられる。一つは、すぐ横の河川による砂の運搬堆積の変化である。河川の砂の運搬は、その年の降水量や台風などの頻度によって年ごとに変化する。また、河川の上流でダムや砂防堰堤などの建設、コンクリート護岸などによる河川改修などが行われれば、その砂の供給量に大きな変化が現れる。

もしこの河川で最近10年間にそのような規模の改修が無ければ、そして用安海岸の砂が大部分海起源の砂粒によって構成されているなら、河川による砂浜の年変動は、砂浜の変動にそれほど大きく寄与しないと考えられる。それでは、この海岸で砂が大規模に無くなっていったことの主な原因として何が考えられるか?

海にその原因を求めざるを得ない。ヒントになるのは、海草藻場の消失である。海草藻場の消失の原因は今となってははっきりしないが、イノーの中の海草藻場の存在が、海底の砂を安定化させる働きがあることがよく知られている。この海草藻場の消失がイノーの海底の安定性を低下させ、海底の砂が流出し、それによって砂浜の砂を沖合に移動させる引力になった可能性がある。それと同時に、イノーのサンゴ礁生態系の生産性が低下して砂粒を供給する力が弱まっていることも、砂の供給量の低下につながっているかもしれない。

用安海岸の砂の減少については、いくつかの要因が重なり合っていると考えられる。その一つに自然の長期的な変動の一時的なものである可能性も否定できない。原因をよく知るためには、砂浜の変動を継続的に観察しておく必要が強く感じられる。感覚的に砂が減ったと言うばかりでは、なかなか行政にも理解されない。そのために、図6, 7のように同一地点同一方向からの写真を撮りためることを勧める。それによって写っている護岸などの人工構造物と砂の堆積の相対的変化を追跡できる。また2点以上のGPS座標を記録しておくことで、衛星写真にみられる変化を比較でき、科学的な検証に耐える記録となる。

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3.手広海岸(笠利町)

笠利町の手広海岸は、用安海岸の西側にあり、沿岸環境は用安海岸とほぼ同じである。この海岸は、人工的な護岸などの構築物がなく、自然海岸として良好な海岸と見ることができる(図9)。しかし、近年ここでも砂の減少が激しく、とくに小河川の河口付近では岸の浸食が激しくなり、海岸の砂丘上に設置したベンチなどが崩落している(図10)。

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このため、現在、大きなフレコンバッグの土嚢を積み上げて、この砂丘を人工的に固めようと工事がなされている(図11)。緊急対応としての工事であれば、許容できないわけでは無いが、もっと他にやり方があるのではないか。例えば手広海岸を守る会では、河口からまっすぐに河道を海まで掘り進むことによって、浸食が進む現在の砂丘部分の浸食が無くなるのではないかと提案している。それにも関わらず行政は、現在の河道を前提とした工事しか考えようとしていない。

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新しい河道開鑿が困難だというのがその理由のようであるが、現在の工事でも曲がった河道の外側に仮の河道を開鑿して水を流している。仮の河道を作れるなら、新しい河道を作れないはずがない。とりあえずの対応についても、このような問題が挙げられるが、問題は恒久的な解決についてどう考えるかが重要である。

この場所の浸食は、過去の航空写真(図12)から、2010年の8月と9月の短い間に砂がかなり減少していることが推察できる。また、その後、河口付近の砂の堆積があり、そのため河道が大きく曲がって現在のような河道が作られ、大雨などのときに背後の砂丘が浸食されるようになってきたことが分かる。この変化は、浸食を受けている砂丘の上に店をもつサーファー倶楽部員の証言でも確認されている。

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この手広海岸の浸食は、手広海岸全体に怒っているわけではなく、河口周辺の一部で顕著である。このことから、河川の蛇行震動がこの海岸の浸食の直接の原因であると推察できる。ただ、手広海岸を守る会の証言では、この砂丘だけでなく、全体の砂浜の砂の減少が最近大きいと言っている。けれどもそれを確実な現象とするには、証拠となる過去の記録を見ることができなかった。この浸食を受けている砂丘の部分を除けば、手広海岸の後背塩性植生帯は、おおむね健全な状態で残っているようにも見えた。

砂浜全体が減少しているという危機意識がある場合は、用安海岸の場合と同じように、できるだけ写真を残すなり、測量を行っておくなり、記録を残す必要があるだろう。なお、現在行われているとりあえずの護岸工事も、河口の蛇行振動が激しく、大雨や洪水のときに、護岸が河川による洗掘を受ける可能性も否定できないが、コンクリートで護岸をするというやり方は、この手広の自然海岸を守るためには、もっとも避けるべき方法だと思われる。

4.嘉徳海岸(瀬戸内町)

嘉徳海岸は砂浜の減少がもっとも深刻な海岸である。両側が岩礁と山で挟まれたポケットビーチであるが、遠浅で砂浜の前面は広く干潟状となる(図13)。後背地は砂丘となり、塩性植物帯がアダンの林に連なっている。この砂浜の砂が大規模に失われつつあり、砂丘までが浸食されている(図14、15)。アダンの林も徐々に浸食され、砂丘上にある嘉徳集落の墓地が、このままでは海に飲み込まれてしまう。対策は喫緊の課題となっている。

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しかし、ここにコンクリート護岸を作ることには、住民も反対している。砂の主な供給源は浜の南西端に河口を持つ嘉徳川からの砂の流れである。嘉徳川流域では、砂の流れを変更させるような土地利用の変更やダムの建設などは行われておらず、供給量が減ったことが砂浜の減少・砂丘の浸食の主な原因ではないと考えられる。そうすると砂浜の減少は、砂の流失が主要な原因となる。それはどうして起こったのだろうか?浜の周辺では、砂丘の浸食以外に地形上の変化はない。考えられるのは唯一、沖合の海砂の採取事業である。

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図16に、2006年12月と2013年11月の航空写真を並べて示してある。この間の変化は、写真から明らかである。嘉徳海岸は沖合のリーフの発達がなく、外洋に直接砂が流出しやすい海岸であることが、この海岸の特質でもあり、砂浜流出を促進していると考えられる。

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5.大浜海岸(奄美市)

名瀬市内から車で20分と近い大浜海岸は、「日本の渚100選」にも選ばれた美しい砂浜海岸で、奄美大島屈指の海水浴場としても知られている。この海岸は奄美群島国定公園にも指定されている。いまこの海岸では大規模な砂浜の消失が問題になっている。台風などで砂浜の砂が沖合に持ち去られ、ビーチロックなどの岩盤が露出している。広い砂浜が今では岩浜になってしまった(図17)。

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岸側の一部は駐車場建設のために石組み護岸されているが、護岸の中程まであった砂が今では護岸の基部さえも露出するほど無くなってしまっている(図18)。

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現在、行政ではこの海水浴場が使用不能にならないように、一部砂を入れて養浜を行っているが、効果は一時的で、すぐに砂は無くなってしまう。ここも比較的近くの沖合で、海砂の採取事業が行われていて、その影響が疑われている。今のところ、それ以外に大きな原因が考えられない。
図19は、2015年度の鹿児島県における海砂採取事業が行われている箇所を示したものである。

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このうち、奄美大島に限ってみると、海砂採取地域は⑪大和村戸円、⑫奄美市青久、⑬宇検村アヨ崎、⑭瀬戸内町請島の4箇所である。この海砂採取海域と上述した海岸のうち、砂浜の消失の激しい海岸との対応を観ると、笠利町南部の海岸を除けば、どこも海砂採取事業が行われている海域に近いことが分かる。海砂採取は、沖合の深い海底から砂を採っているので、海岸の砂の流出とは関係ないと言う国交省の言い訳は、根拠が無い。

沖合といえども流砂系の一部をなしており、砂は嵐や台風で大規模な移動・流出を繰り返す。瀬戸内海における海砂採取が海岸の劣化に大きな影響を与えたことは、内海という条件であるが故に、その因果関係が比較的誰の目にも見えた結果であり、瀬戸内海沿岸各県がその後海砂採取を全面的に禁止したことによって、砂の流出の大きな原因をなくすことができたことは明らかである。外洋に面した奄美諸島の海砂採取が、近年問題になってきた砂浜の消失・減少の主要な原因であることを認識して、海砂採取の禁止に踏み切ることが、いま急いで求められる根本的な対策でなければならない。


奄美大島住用湾における採石場からの海域への流入負荷の現状と提言

安部真理子(海の生き物を守る会/日本自然保護協会)
中野義勝(海の生き物を守る会/琉球大学)

調査日時、天候

日時:
2015年12月18日(金)9:30-13:30
天候:
曇り
波 :
なし

調査地概要

調査地は住用町市地区の港の北西に隣接する海域で、東向きに開口する住用湾に面し、住用川の河口域から3.8km程離れたトビラ島の周辺域である。隣接する採石場は海岸まで迫る急峻な山肌を掘削する露天掘りである。グーグルアースの画像判読のかぎりでは(画像所得日:2013/11/8)、3カ所認められる最大の採掘現場(青線:周囲1.5km、面積は7.1ha)は、この採掘現場を含む集水域(赤線:周囲1.59km、面積11.5ha)の面積のおよそ61.7%を占める(図1)。採掘現場の北西側は集水域から反対斜面を流れ落ちたと思われる一部土砂の堆積が認められる(現場の確認が必要であるが)。
集水域の海域への流出口は1カ所で,普段は枯れ川である。投影面積だけから推定すると雨天時には(降水量x 1.6 x 降水時間)で算出される水量が採掘場の表土を洗い落とすことが考えられる。2006年には未採掘であった残り2カ所の採掘現場は地形的に盆地状に採掘が進められているように見受けられ、2013年現在では雨水の流出は軽微であると思われる(図2)。調査海域に接続する集水域(緑線)には表土を流入しうる耕地などの大規模な裸地が他に見られないことから、当該海域の表土の流出源は前出の採掘現場であると強く推定される。
しかしながら、第2・第3の採掘現場が存在する現状では、調査海域の流入負荷を管理するには接続する集水域(緑線)全体を管理対象とする必要がある。また、市地区の港の東に接して養殖池が認められ、排水管理について確認が必要である。

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各調査点での被度および群集の状態、堆積物に関する所見

1.調査位置

WP385:
山間港市地区港(28°13’40.70″N、129°26’54.24″E )
WP387:
測線#1基点(28°13’59.55″N、129°26’48.67″E)
WP388:
測線#2基点(28°13’50.82″N、129°26’43.34″E)
WP389:
測線#3基点(28°13’54.34″N、129°26’29.30″E)

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2.各測線周辺の状態

a) 測線#1 トビラ島周辺にて

(1)ライントランセクト調査
距離50mの測線を張り、50cmおきに、底質の内訳を記録した。調査方法は世界規模のサンゴ礁モニタリング調査リーフチェック(www.ReefCheck.org)に従った。内訳は、HC (ハードコーラル) 46%、SC(ソフトコーラル)    2%、RKC  (最近死んだサンゴ)1%、RC(岩) 52%となった。良好で健全なサンゴ礁であることが確認された。

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また時間の制限により生息数はカウントできなかったが、スズメダイ類やチョウチョウウオ類、ブダイ類、シャコガイ類、タカセガイなど、健全なサンゴ礁の指標となる魚類の生息が確認できた。
過去の記録を見ると、奄美群島は広く2010年の豪雨の影響を受け、トビラ島周辺のサンゴ群集もその中に含まれる(参考資料3)。その際に、ストレス耐性に弱いミドリイシ類等が主に被害を受けたことが推察される。今は生き残った塊状のサンゴ類(キクメイシ属、ハマサンゴ属など)が優占しているものの、直径10cm程度のミドリイシ類なども確認されたため、このまま成長すれば元に近い状態に回復すると思われる。

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距離50mの測線に対して2m間隔で0.25㎡(一辺50cm)の方形枠を設置して撮影を行った。写真判読によって属レベルでの種の同定を行い、それぞれの種の合計被度(左縦軸(%))を記録した(写真1)。併せて、同間隔で水深を記録し(右縦軸(m))、地形断面の概略を作成した(図8中の青曲線)。

水深9~10mの砂底から盛り上がる尾根状の岩盤上部の水深4~6.5mにサンゴ群集が形成されていた。26個の方形枠撮影画像から算出した、ソフトコーラル(写真4)・スナギンチャク類を含めた群集の平均被度は31.5%であった。ソフトコーラルとスナギンチャク類はサンゴに含めないので出現種数は23であるが、未同定のキクメイシ科には少なくとも5属は含まれているので、方形枠内に見られた出現種数は28以上になる。

各種の平均被度を見ると未同定のキクメイシ科(写真5)が16%ほどで卓越し、次いで塊状ハマサンゴ属(写真6)が11%、スリバチサンゴ属・ウミバラ属(写真7)・サザナミサンゴ属・被覆状コモンサンゴ属が5%台、リュウキュウキッカ属(写真7)・ナガレサンゴ属が4%台を示しており、この群集はキクメイシ科を優占種とした比較的多様性の高い混合群集と言える。測線を設置した岩盤上にはかなりの時間を経た卓状ミドリイシ属の死骸も散見され、方形枠内にも少数ながらミドリイシ類(写真8)の出現が見られた。

外洋に面した礁斜面など開放的な環境で形成されるサンゴ群集ではしばしば卓状のミドリイシ属の単純群集が形成されるが、測線上に見られる群集構造は湾内の遮蔽的な環境を反映した特徴を示していると思われる。

サンゴの食害生物であるシロレイシガイダマシの貝殻を背負ったヤドカリが観察されたが、生貝および食害そのものは観察されなかった。岩盤上では窪地の砂の堆積部でもシルト質の泥の堆積は認められず(写真9, 10)、泥の堆積に弱いとされる大型のタカセガイ(写真11)やシャコガイが見られるなど、泥や濁りの影響は軽微であると思われる。以上のことから、現在の測線周辺の岩盤上の生物群集の状態は良好であると考えられる。

しかしながら、岩盤から水深9.6mの海底の砂地に下りてみると粘土質の泥が混ざった堆積が見られた(写真12)。吹きだまりやすいと思われる地形部では、泥の混ざった砂の深さが差し込んだ折れ尺で20cmに達する場所も観察され(写真13, 14)、手で仰ぐと簡単に懸濁した(写真15)。海底に近い岩盤の斜面下部では、岩盤上部では見られなかった岩盤への泥の付着が観察され、サンゴの被覆成長を妨げていた(写真16)。砂泥底にはテッポウエビやハゼによるとおぼしき生物の巣穴が観察された(写真13)。

シルト質の泥がこれ以上の堆積を続けるとこれらの生物に影響が及ぶことも危惧される。また水深差が4~6mある岩盤上も、荒天時には再懸濁した濁りの影響を被るものと考えられ。

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b) 測線#2(採石場直下に位置しない岸近くの場所)

水深3mほどの平坦な海底の大部分は砂泥底でありサンゴの分布がまばらであることから、周辺から50cm程隆起した堆積礫のマウンド上に25mの側線を張り5m間隔で方形枠を設置して調査するとともに、測線周辺を含めて観察を行った(写真17)。測線上に設置した方形枠6点での平均水深は2.2mでほぼ水平であった。マウンドは枝状ミドリイシの死骸の堆積によって形成されており(写真18)、礫のすき間は粘土質の砂泥が充満していた。

方形枠内にサンゴが観察されたのは2点のみで、それぞれヒラフキサンゴ属・ユビエダハマサンゴであり、側線の平均被度は1%ほどであった(写真19, 20)。

測線周辺を15分ほど観察したところ、ユビエダハマサンゴの大型群体もみられるとともに(写真21)、塊状ハマサンゴ属・トゲコモンサンゴ・チジミコモンサンゴ・アザミサンゴ・ショウガサンゴ・キクメイシ科・アナサンゴモドキ属・ソフトコーラルが観察された。このうち、塊状ハマサンゴ属は大型の群体が海面にまで成長しマイクロアトールを形成しているのが観察された(写真22)。トゲコモンサンゴも大型で葉状の群体に成長していたが、群体周辺よりくぼんだ中心部では砂泥の堆積によって死亡した部分が見られるとともに、これを再被覆するように成長する様子も観察された(写真23)。また、死亡した大型の塊状ハマサンゴ属群体の上にミドリイシ属や新たな塊状ハマサンゴ属の成長も観察された(写真24)。

サンゴの生息に適した固い岩盤が元々少ない底質であるが、砂上に群落を形成する枝状ミドリイシの群落後が測線に沿って25mもの広がりを持つこと、塊状ハマサンゴ属の群体が大きなマイクロアトールを形成することなどから、パッチ状にサンゴ群落の形成される内湾の砂礫底に特徴的な景観が発達していたものと推察されるが、現在は景観としては崩壊したものと捉えられる。残存する群体も大きなストレスに曝されており、群体の一部の死亡と再成長を繰り返している。

露出した基盤岩や死サンゴの表面は藍藻や糸状藻類が繁茂しシルト・泥をトラップしており、硬い基盤に生えた藻類をかじり取って生活するウニ類や腹足類の姿が見えない。このことは測線3においても同様であるが、サンゴを始めとした基盤の裸地に定着する生活型の底在生物の幼生の加入が困難であることを示している。しかしながら、群体の死亡部分に現れた硬い基質にはミドリイシ属の新たな加入も見られることから、基盤表面の泥やシルトが軽減されれば景観の回復にも期待が持てる。

周辺に広がる砂泥底の表面は付着珪藻またはラン藻で被覆され、ゴカイなどの小型の巣穴が多数観察されたことから泥底に特徴的は生物相の存在が見て取れる(写真27)。底質は深さ15~25cmほどの粘土質で、手で握るとそのままの形が保たれる(写真28, 29)。

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c) 測線#3 採石場直下の岸よりの場所。2015年5月の調査地点付近

水深4.5~5.5mほどの砂泥底に露出した陸上と同質の基盤岩が点在するため、大型の基盤岩の一つの上部に沿って張られた20mの測線に5m間隔で方形枠を設置して調査した(写真28)。測線上に配置した方形枠5点での平均水深は3.5mで、緩やかな窪みを示すもののほぼ水平で高低差は0.4m程であった。

方形枠5点に出現したサンゴはキクメイシ科・ミドリイシ科・トゲキクメイシ属・塊状ハマサンゴ属で、平均被度は8%を示した。この側線では調査時間が充分とれなかったために、測線上に充分な数の方形枠を設置できなかった。このため、一枠に大型の塊状ハマサンゴ属が入って平均被度を押し上げたデータとなってしまい(写真29)、実際の被度を反映しているとは言いがたい。測線に接したサンゴのみを調査対象とするラインセンサス法を想定し、測線上の景観を展望した限りでは、被度は数%ほどであろうと推定される(写真30)。

測線周辺で見られたその他のサンゴは、ハナガササンゴ属・ユビエダハマサンゴ・トゲコモンサンゴ・ウミバラ属・スリバチサンゴ属・リュウモンサンゴ属・ヘルメットイシ・ソフトコーラル類であった。周辺では塊状ハマサンゴ属の直径数mに及ぶ大型群体も見られた(写真30)。同様に、ハナガササンゴ属とユビエダハマサンゴも大型群体が観察された(写真31, 32)。出現種構成と大型群体のサイズから、この調査点では長期に亘って安定した内湾部特有の群集が維持されていたことが分かる。

しかしながら、砂泥底に近い塊状ハマサンゴ属やユビエダハマサンゴの大群体にその大部分が死亡したものがあることや(写真33, 34)、その死亡した群体表面や枝のすき間、あるいは岩盤上に泥の堆積が見られることから、流入した泥のストレスが群体を死に追いやったことがうかがえる。側線3は側線2以上に過酷なストレス状態あると考えられ、現存の群集が危機的状態にあるものと考えられる。岩盤表面の泥の堆積付着状態は側線2と同様かそれよりも激しいが、僅かに加入し生存した小型群体が観察されることは(写真35)、ストレスの軽減による群集の回復能力は存在することを示している。

基盤岩周辺の砂泥底の堆積は厚く20~30cmにおよびシルト・泥を多量に含有しており、海底表面には生物の巣穴が多数見られる(写真36, 37)。周辺には、流入したと思われる鋼板なども見られる(写真38)。

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3.総合所見

トビラ島沖側の側線3では、良好な状態のキクメイシ科サンゴ優占の混合群集が観察された。基盤岩へのシルト・泥も堆積もなく、岩盤表面に波多くの固着生物と表面の藻類を囓り取る底在生物も観察されたことから、健全なサンゴ礁群集が維持されているものと思われる。しかしながら、岩盤下の砂底では一部でシルト・泥の堆積が見られ、懸濁物の付着の影響は岩盤下部にも及んでいた。砂底にはハゼとテッポウエビの共生する巣穴も観察され岩盤上部の群集と間レンズ家手捉えることが出来る群集が存在しているが、この様なサンゴ礁性の砂底の群集の今後の推移を注視する必要がある。

トビラ島と採石場下の海岸の間は砂底に基盤岩が点在し、砂底には枝状ミドリイシ属やユビエダハマサンゴの群落が発達し、塊状ハマサンゴの大型群体の死亡部分や基盤岸上にはキクメイシ科サンゴなど固着性のサンゴが被度こそ高くないものの多数見られる遮蔽環境特有のサンゴ群集が発達していたことが観察された。しかしながら、度重なる土砂流入を物語るように砂底は大量の泥・シルトを含み、基盤岩も懸濁物の付着が著しい。土砂流の始まる以前から生息していたであろう大型に成長する種の大型の老成群体がかろうじて生存していることでかつての群集景観を残しているが、小型群体が少なく順調な加入と世代更新が行えない回復力の衰退を示している。

また、懸濁物の付着した基盤岩表面は小型の固着生物や囓り取りをする底在生物の存在を妨げている。なお、耕地や市街地からの懸濁土砂の流入ではしばしば富栄養化を伴い、サンゴの死亡に伴い固着生物相が移行し従属栄養的なイソギンチャク類の繁茂が観察されるが、調査地においては観察されなかった。砂泥底でも海底面直下にまで達するような極端な硫化層は観察されなかったことから、栄養塩の過度な流入はないように思われる。サンゴ礁性の砂底は流入土砂によってより粒度の細かい砂泥底に代わり、これに伴って海底に埋材して生活する生物相が変化したことが伺える。

この様な群集の回復力の衰退もしくは位相の変異を引き起こした原因を採石場からの流入土砂とすることに、不合理は無いものと思われる。本調査からは、現在までのところサンゴ群集への流入土砂の影響の及ぶ範囲は限定的でトビラ島の岸側であるが、流入砂泥はトビラ島の沖側にまで広がりつつあり、将来的にはトビラ島沖側のサンゴ群集の健康を損なう危惧は拭えない。

提 言

本調査結果を踏まえて、以下の2点を実施することを提言する

1)群集の状態と堆積物の状態のモニタリング(図1参照)

  1. トビラ島沖側と岸側にブロック分けをして今回調査を個なった地点を含めた観測用の定点を基盤岸上と砂底に設け、以下の項目を追跡調査する。
    生物相(サンゴ群集・基盤岩上の底在生物・砂底の底在生物)・砂泥(堆積厚・粒度組成)
  2. 流入土砂の拡散状態のモニタリング
    集水域前面の海域の海水の流向・流速を調査し、海底地形に応じた堆積物のモニタリング点を設定し追跡調査する。

2)発生源対策

集水域全体の管理計画を作成し、発生源となる採掘地の勾配管理など土木的対策を講じる。管理計画には上記モニタリング結果を反映した見直しを常時組み込むことを企図しなければならない。また、管理計画の実行に際しては、行政・地域住民も交えた全関係者による協議会がこれに当たることが望ましい。

 

 
参考資料:
1) 第4回自然環境保全基礎調査、海域生物環境調査報告書 (干潟、藻場、サンゴ礁調査)第3巻
http://www.biodic.go.jp/reports/4-13/s00a.html
2) 奄美群島サンゴ礁保全対策協議会 豪雨災害後モニタリング調査報告書
http://www.synapse.ne.jp/kaiyo/sango/report/h22gouu.pdf(PDF/4.3MB)
3) 奄美群島サンゴ礁保全対策協議会 サンゴ礁モニタリング・オニヒトデ駆除集計データ
http://www.amami-sango.com/#!report/c1nm0
4)2015年5月調査報告書
https://www.nacsj.or.jp/katsudo/wetland/2015/06/post-42.html

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