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2015.04.13

高知県安芸郡馬路村魚梁瀬地区の国有林を中心に分布するヤナセ天然スギの保護林拡張による保全と復元に向けての意見を出しました。


高知県安芸郡馬路村魚梁瀬地区の国有林を中心に分布するヤナセ天然スギの保護林拡張による保全と復元に向けての意見書(PDF/192KB)


高知県安芸郡馬路村魚梁瀬地区の国有林を中心に分布する

ヤナセ天然スギの保護林拡張による保全と復元に向けての意見書

 
公益財団法人 日本自然保護協会
理事長 亀山 章
 
当協会は日本列島の森林植生の体系的な保全を図ることを目的に、全国の国有林に対して各種保護林を適切に設定・配置するよう求めてきた。最近では、木曽地方の国有林におけるヒノキ・サワラを主体とする温帯針葉樹林を保護林に設定し、積極的に保全管理していくとともに科学的な知見に基づいた自然林の復元を行っていくべきであると提案したところである。
 
高知県安芸郡馬路村魚梁瀬地区に分布するヤナセ天然スギは、第三紀遺存型の古いタイプの針葉樹であり、他にも魚梁瀬周辺にはトガサワラ、ヒノキ、コウヤマキ、ツガ、モミという針葉樹のいわゆる魚梁瀬の六木がみられる。これらの針葉樹は、わが国の亜寒帯や亜高山帯に見られるシラビソやオオシラビソなどの針葉樹のグループよりも古い時代に分化したグループであるといわれている。最新の研究では、現在見られる照葉樹林は、人の活動がなかった有史以前には温帯性針葉樹がもっと優占する針広混交林であったのではないかとする花粉分析による解析もある。しかし、我が国における天然スギの分布は、有史以来の伐採等の改変のため多くの地域で消失し、秋田県、新潟県佐渡島、富山県魚津市周辺、三重県大杉谷、京都府芦生、高知県魚梁瀬、鹿児島県屋久島など限られた地域に見られるだけになっている。
ヤナセ天然スギの成立は600~700年以前と考えられており、現存する林分は大坂城や江戸城築城のために江戸時代に伐採された林分の2代目と推定されているが、現在も古い時代の植生の様相をよく残す上に、すでに300年近くの樹齢に達した森林が形成されている。このような温帯性針葉樹の構成種の多くは500~1000年の寿命を潜在的にもち、森林としても長期にわたって持続するとされている。
 
ヤナセ天然スギが見られる地域は、1,140haが知られているが、林木遺伝資源保存林、植物群落保護林として指定されているのは220ha (19%)のみで、残りの920ha (81%)は施業対象林となっている。魚梁瀬地方の国有林に現存するスギを優占種とする温帯針葉樹林は、できるだけまとまりをもたせた広域な保護林として設定し、復元のための修復管理地域とすべきである。
以下に、今後の取り扱いに向けた意見を述べる。
 
ヤナセ天然スギの林分の伐採はすぐに中止すること
ヤナセ天然スギの伐採計画については、現在平成14年度供給計画の8分期(平成25年~29年度)に沿って進められている。しかし、ヘリ集材によって効率的に集材できる胸高直径90cm以上の大径木が10本/ha以上ある林分は、わずかに約100haしか残されておらず、ここ2年コストの関係で集材できていない。国有林材の販売単価も近年約7~8万円/m3と低下傾向にある。こうした状況を踏まえて四国森林管理局は、平成29年度までは上記の供給計画に沿って伐採を行うが、平成30年度から休止するとしている。しかし、大径木の分布する森林面積は平成14年度と比較して約1/2の100haになってしまったことを考えると、ただちに伐採計画を中止し、ヤナセ天然スギの復元を含めた保全策の検討やスギ長伐期人工林を含めた資源の活用について検討を始めるべきである。
 
残存するヤナセ天然スギの林分は保護林とすること
保護林に指定されていないヤナセ天然スギの林分は約920haの国有林となるが、保護林の種別は第一に森林生態系保護地域を考えたい。しかし、自然林残存地域を広域に囲み、できうる限りのまとまりを持たせるには保護林内部に施業履歴を持つ地域を含めなければならず、原生状態を重視する生態系保護地域の設定要件から難しいことも考えられる。その、現在指定されている森林生物遺伝資源保存林の設定あるいは拡張を提案する。
 
ヤナセ天然スギの取り扱いについて専門家や林業家など関係者からなる検討の場を設置し、保護のあり方だけでなく林業の育成やヤナセスギブランドのあり方など保護と活用について包括的に検討していくこと
秋田スギについては平成25年度以降天然秋田スギの伐採を中止し、伝統的な工芸品などの需要に応えるために長伐期人工林(100年生以上)で代替していくことが決まっている。また、木曽ヒノキについても平成25年度に「木曽地方の温帯性針葉樹林の保存・復元に向けた取り組み検討委員会」において保存する区域、復元する区域、緩衝区域の3つの区域にゾーニングし、平成26年度以降は「温帯性針葉樹林の保存・復元に向けた取り組み検討委員会」において管理基本計画の策定を検討しているところである。これらの地域における温帯性針葉樹の取り扱いの流れを考慮に入れれば、ヤナセ天然スギについても平成27年度以降も引き続き検討の場を設置し、すみやかに長伐期人工林の活用、林業家の育成、ヤナセスギブランドのあり方など今後の国有林における持続的な林業経営のあり方についての検討を始めるべきである。
 
 

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