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『阿波しらさぎ大橋事業 吉野川河口域に与える影響の総合評価報告書(案)』への意見

2015.02.13
要望・声明
2015年2月6日
 

『阿波しらさぎ大橋事業 吉野川河口域に与える影響の総合評価報告書(案)』への意見

 
公益財団法人日本自然保護協会
理事長  亀山 章
 
日本自然保護協会は、河川生態系や沿岸生態系など我が国の自然資産を保護する観点から、生態系を分断する堰・ダムや河口域の埋め立て、橋脚などの見直しを求めてきました。吉野川は、四国三郎という愛称で全国に知られる大河であり、その河口部に建設される阿波しらさぎ大橋が重要な自然資産を損なうものであってはならないという考えから本件に注目しています。以下に、2014年12月17日付けで意見募集が始まった『阿波しらさぎ大橋事業 吉野川河口域に与える影響の総合評価報告書(案)』への意見を述べます。
 
 
■調査の実施と報告書の公開について
 
日本自然保護協会は、2012年10月25日に「吉野川河口域を横断する「阿波しらさぎ大橋」の供用後のモニタリングを求める意見書」を提出しました。この意見書で日本自然保護協会は、事業主体である徳島県は、建設後の影響をモニタリングする責務があり、結果の公開と、河口沿岸域の保全に努めるべきであるという意見を述べました。
 
その後、徳島県は2013年まで一部の項目について詳細なモニタリングを継続し、今回、総合評価報告書(案)を公表しました。このことは、環境影響評価法の2011年の改正で導入された報告書の作成・公表と通じるものであり、大規模な公共事業において適切な判断であったと考えます。
 
また、このような長期の調査データは、県の自然環境の基礎データとしても貴重な財産であり、今後も、県民のみならず誰もが簡単にアクセスできる状態で常に公開しておくべきと考えます。
 
 
■評価の根拠について
 
本報告書1-26、「表1.5-1 事業の影響評価の概要」で、「影響は軽微」「明らかな悪影響と判断される結果を得ることはありません」として、「以上の評価を受け、徳島県は阿波しらさぎ大橋の建設に伴う代償措置は必要ないと判断」したと記載されています。
 
判断結果は明確に書かれていますが、この表からでは「影響は軽微」であると判断した根拠が不明であり、代償措置が必要ないという判断が適切であるかを判断しかねます。どのページのどのデータに基づく判断であるかについても、概要表に明記するか、明記できなければ内容にあわせて表のタイトルを変更すべきです。
 
後半の個別の項目、2-21「図2.2-19 上下部工の影響に関する検討の範囲」の図や、3-29「表3.3-3 定期水質調査(生活環境項目+塩分)の結果概要」のように、調査結果を総括し、判断根拠となったと考えられる図や表が散見されるので、それをまとめて掲示すべきと考えます。
 
 
 
■2.4.3ミティゲーションのなかの代償措置
 
指標種であるシギ科・チドリ科について「出現場所に変化はあるものの、その変化は河口干潟の地形の状況が一因であり」(中略)「悪影響と判断できる調査結果が得られていない」とされています。
 
本事業との関係性がはっきり示されないとしても、重要な指標種の出現場所に変化があったことについては、県内の自然保護行政においては注意の継続が必要であることを意味します。今後の開発では複合的な視野で影響を評価することが必要と考えます。
 
 
■水質調査について
 
3-48で、吉野川河口周辺の水質に影響を与えていないと考えられると結論しています。その根拠は、「表3.3-3 定期水質調査(生活環境項目+塩分)の結果概要」で示されている調査項目の水質が概ね環境基準を満たしていることであると考えられる。
 
ただし、調査データを見ると、図3.3-5 BOD(生物化学的酸素要求量)の調査結果などで、事後の数値の振り幅が工事前に比べて非常に大きくなっています。工事前との変化が大きい項目については、原因の検討が必要と考えます。
 
また、環境基準は満たしていても、環境が短期間に大きく変動することは、そこに生息する生物にとって重大なできごとであり、長期的にみると生物多様性の劣化につながることが十分懸念されます。
 
本事業との関係性がはっきり示されない場合でも、県内の自然保護行政として、注意を継続すること、今後の開発では複合的な視野で影響を評価することが必要と考えます。
 
 
■地形への影響評価に関して
 
平成26年12月に公表された、吉野川河口域に与える影響の総合評価報告書(以下、報告書)では、平成15年から26年にかけて実施された、レーザー測量及び深浅測量結果から、橋脚の建設が干潟に及ぼした影響は軽微であると結論しています。
 
報告書に示されているデータからは、この調査期間における平常時の大きな地形変化は認められず、台風が3回襲来した際の地形変化が確認できます。しかし、調査開始が橋脚建設工事の開始後であり、干潟の発達する右岸側の橋脚が建設される前を工事実施前の状況とすることは正確性に乏しいといえます。橋脚の設置が及ぼす影響を評価するのであれば、当然、工作物が何も無い状況との比較を行わなければなりません。この観点で報告書での結論は妥当であるとは考えられません。
 
干潟は河川や海水により細砂やシルトなどが沈降・堆積することによって形成されるものです。こうした干潟は、台風や洪水時には大きなかく乱を受け、その後また沈降・堆積作用によって再形成されることを繰り返しており、この事は自然現象です。この区域の空中写真における変化(1947年~2009年)を概観すると、河口部中央に大きな干潟が形成されていた(1947年)ものが、左岸側の干潟が消失(1974年)し、中央部の干潟が減少(1990年)、その後干潟が右岸側のみになる(2009年)変化が認められます。
 
この間のかく乱を引き起こす気象条件や、橋梁等の横断工作物の設置状況等をあわせて考察することにより、本河川が自然状況によりどのような干潟を形成するのかをまず明らかにした上で、今回の調査結果をあわせて検討しなければ、工事の影響の有無を判断することができないと考えます。
 
 
 

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▲しらさぎ大橋。ラムサール条約の登録候補地にもなっている吉野川河口近くにつくられた。干潟への影響軽減のため干潟の広がる手前は橋脚を減らした構造にしたが、そのために高さが必要になった。橋の建設前後で鳥の行動に変化があったが、報告書(案)では出水による地形の変化に起因するもので橋の影響ではないという結論になっている。
 
 

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