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沖縄・辺野古 大浦湾の保全

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2013.09.04

報告書「沖縄島辺野古における海草藻場モニタリング調査(ジャングサウォッチ)10年のまとめ」が完成しました。

2002年から2012年までの11年間、日本自然保護協会が地元の市民団体の協力を得ながら進めてきた市民参加型の海草藻場調査「ジャングサウォッチ」。その10年分の調査結果を報告書「沖縄島辺野古における海草藻場モニタリング調査(ジャングサウォッチ)10年のまとめ」として発表しました。この11年間での合計参加人数は359名。辺野古には7種類の海草が生えており、その海草が多くの生き物を支え、安定的な状態にあることがわかりました。


報告書「沖縄島辺野古における海草藻場モニタリング調査(ジャングサウオッチ)10年のまとめ」 <表紙~第1章1-1>(PDF/640KB)

*本報告書は後日、NACS-Jより出版物として頒布予定です。販売資料完成は9月末を予定しています。



 

日本自然保護協会報告書 第100号
 
沖縄島辺野古における
海草藻場モニタリング調査(ジャングサウオッチ)
10年のまとめ
 

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2013(平成25)年 9月
公益財団法人 日本自然保護協会
 
 
 
 
 

 

はじめに

沖縄島北部東海岸の辺野古・大浦湾海域一帯のサンゴ礁生態系には海草藻場が分布し、海草を餌にしている絶滅が危惧される海棲ほ乳類ジュゴンやウミガメなど多くの生きものがくらしています。また、サンゴ礁域には珍しい深い大きな湾があることにより、高い生物多様性をもつ環境となっています。
 
日本自然保護協会は、埋め立てによりサンゴ礁生態系が大きな危機に瀕することから、オーストラリアで行われていたシーグラスウォッチを参考に、2002年に「ジャングサウォッチ」を開始しました。沖縄島周辺最大の面積を持つ海草藻場の市民参加型モニタリング調査を立ち上げて長期にわたり継続し、その調査結果をもとに、埋め立て事業の見直しを求めてきました。ちなみにジャングサというのは、ジャン(ジュゴン)の草という意味で、沖縄の言葉で海草を指します。
 
本報告書は、市民や各分野の専門家の方々のご協力のもとに行った調査で明らかになった辺野古の海草藻場の生物多様性の豊かさと海草藻場の安定性についてまとめ、辺野古の海草藻場の重要性を検証したものです。環境影響評価の手続きはすでに終了し、現在、防衛省による公有水面埋立申請を受けて、沖縄県が審査をしています。この一連の手続きの中で、市民をはじめさまざまな立場から、埋め立ての可否を検討することが重要であり、本報告書がその資料として活用されることを期待しています。
 
最後に、ジャングサウォッチの立ち上げ時からご協力していただいたシーグラスウォッチ・ジャパンに深く感謝します。また、長く調査を支えてくださった北限のジュゴンを見守る調査チーム・ザン、そして地元沖縄をはじめとする日本全国の市民の皆さま、現地調査に赴きまた報告書をまとめてくださった研究者の皆さまに、深く感謝申し上げます。また全国からのご寄付をいただきこの調査を支え、コンサベーションアライアンスより2回助成金をいただき調査グッズの作成や報告書のまとめをすることができました。ここに深く感謝申し上げます。
 
2013年9月 
 
公益財団法人日本自然保護協会
理事長 亀山 章
 
 
 

 

目次

 
はじめに  
 
第1章 ジャングサウオッチ調査結果のまとめ
1-1  沖縄における市民参加の海草調査の意義
1-2 沖縄島名護市辺野古における海草藻場の変遷
 
 
第2章 市民参加型調査としてのジャングサウオッチ
2-1  参加者からのコメント
2-2  フォトギャラリー
2-2-1 調査の様子、調査道具
2-2-2 沖縄で見られる海草
2-2-3 ジュゴンのはみあと
2-2-4 海草藻場にいる生きもの
2-2-5 オーストラリアのシーグラスウォッチ視察風景
 
 
第3章 資料編
3-1 普天間飛行場移設計画の経緯
 
 
謝 辞
 
 
 

 

第1章 ジャングサウオッチ調査結果のまとめ

 

1-1 沖縄における市民参加の海草調査の意義

 

向井 宏
京都大学 特任教授/海の生き物を守る会代表
                      NACS-J沿岸保全管理検討会座長
 
日本自然保護協会が、沖縄県名護市の辺野古沖を中心として、海草の種の多様性とその量を専門家の助力を得ながら、一般の人の協力で調査を開始してから、10年の年月が経過した。その名もジャングサウォッチというように、この調査はジュゴン(ジャンもしくはザン)が食べる草について調査をするという目的が、そもそもあった。というのは、辺野古の米軍キャンプ・シュワブの敷地およびその沖合を埋め立てて、新しいヘリコプター基地を建設するという日米政府の思惑から、希少な動物であるジュゴンを保護するために、その餌となっている海草の分布とその量を調べることを主な目的としたからであった。
 
世界的な運動としては、海草国際会議による世界の海草の分布と多様性、およびその量の把握が呼びかけられていた(第4回世界海草会議2000)。その結果は、「World Atlas of Seagrass」(UNEP publication, 2003)に詳しいので、関心のある方は参照してほしい。しかし、この結果は海草の専門家による調査を基にすることが基本である。一方、専門家ではない一般の人々による海草の調査を呼びかけて、「シーグラスウォッチ」という運動がオーストラリアのグレートバリア・リーフで始まり、海の環境の指標として海草の種組成や被覆度を記録し、その変化を調べる市民運動として太平洋から東南アジアなど世界に広がった。(http://seagrasswatch.org/home.html )
 
日本自然保護協会による「ジャングサウォッチ」は、このシーグラスウォッチの運動に倣って、辺野古基地建設計画によって個体群の存続が風前の灯火になっていると思われるジュゴンの保護を念頭に置いた市民による海草調査であった。
 
一方、日本における海草の調査は、研究者が少ないこともあって、全国的な調査には発展できず、もちろん辺野古沖の海草藻場についても、ほとんど知見はなかった。日本で海草藻場についての全国的な調査が行われたのは、1978年、環境省(当時、環境庁)による第2回自然環境保全基礎調査(いわゆる緑の国勢調査)が始めてであったが、この調査は現存するアマモ場の面積と1973年までに消失した面積を、聞き取りによって調べたもので、主としてアマモの分布する本州周辺を念頭に置いたものになっており、沖縄のような熱帯性海草は、とくには、考慮されていなかった。また、その精度もかならずしも統一されたものとはなっていなかった。
 
沖縄県のジュゴン個体群の存在が、辺野古基地の建設計画が明らかになるのとほぼ同時に、世の中に知られるようになってきた。いわば基地建設がジュゴンの存在を明るみに出したと言える。そして、基地建設によって破壊される環境のシンボルとしてジュゴンの保護が主張されるようになった。ジュゴンの存続に重要なものとして、餌である海草の分布と量のデータが沖縄ではほとんど知られていないことがわかり、基地建設を進めようとする側も、基地建設に反対する側も、海草についての調査研究が喫緊の課題となっていった。沖縄防衛局(当時、防衛施設庁)や環境省では、航空機を使った広範な調査を行い、沖縄のジュゴンと海草について多くの知見を得た。
 
一方、基地建設反対の側でも、地道な調査が行われるようになった。その一つが、日本自然保護協会が始めたジャングサウォッチである。毎年多くの調査日程を、関心のある市民とともに、嘉陽海岸および辺野古沖の海草藻場について、詳細な種組成と被覆度のデータを取り始めて、早くも10年が過ぎたことになる。その間、ジャングサウォッチの活動が明らかにした基礎的データは、建設推進側が収集したデータと相まって、ジュゴン個体群の沖縄島における現状と将来の変動予測を可能にした。それは、辺野古沖の海草藻場の重要性を、今更ながら明白にした。辺野古基地建設が実施された場合のジュゴンの絶滅の可能性を大きくするという予測を、一般の人々に強く認識させる結果にもつながったのではないだろうか。
 
その後、沖縄島における海草藻場の広がりと、ジュゴンの摂食痕の調査は、「北限のジュゴンを見守る会」と「北限のジュゴン調査チーム・ザン」によるマンタ法を駆使した広範な調査へとつながっていく。このような市民による海草藻場の調査が、基地建設というジュゴンへの脅威に促されたのではあるけれども、継続的に、しかも科学的な基礎データも伴いながら、とり続けられているということは、世界でも多くはない。今後とも、このような活動が続けられ、ジュゴンの保護につながることが望まれる。また、できればジュゴンの保護と結びつかない沖縄以外においても、開始されることが望ましい。ジュゴンに代わる海草藻場の救世主を待つのではなく、海草藻場そのものが、沿岸環境の重要な要素であり、指標でもあることから、ジャングサウォッチのような活動が、各地で始まり、継続されることを祈っている。
 
環境省は、4年ほど前から全国の主要なアマモ場で、毎年定期的に海草の種組成と被覆度を調べ、5年に一度の頻度で、さらに多くの動植物の存在を明らかにする「モニタリング1000アマモ場調査」を始めているが、この調査は、今のところ研究者によってのみ実施されている。将来的には、市民の参加を期待しているが、市民参加には多くの困難が伴うと考えられている。「ジャングサウォッチ」のような市民活動の成功は、海草藻場の全国調査を行う市民主体の育成にもつながるだろう。この運動の継続と、ますますの発展を心から祈りたい。
 

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