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【解説】レッドリストはどのように決められるのか

2013.07.02
解説

20130702unagi.jpg

icon_douke.jpg保全研究部の道家です。
IUCNのレッドリストの最新版が7月2日に発表されたことは先の記事にご報告したところですが、
2013年6月末来、ニホンウナギがIUCNのレッドリストに指定されるのではないかという一部報道がなされ、IUCN-Jの事務局を務めるNACS-Jにメディアから問い合わせが来ています。
レッドリストがどのように決まるかということが、意外と知られていないため、今回のウナギを事例にプロセスを紹介したいと思います。
その前に、IUCNレッドリストについて、まず、IUCNレッドリストは、かつては本の形で出版されていましたが、2000年以降、誰でも検索できるオンラインデータベースとなっています(http://www.iucnredlist.org/)。
レッドリストは、IUCNの種の保存委員会(Species Survival Commission)と、IUCN事務局が中心となってまとめられており、およそ1年に2-3回更新(追加)されるようになっています。レッドリストウェブサイトをみると、2013.1と書かれていますが、年号の後の1という数字は、2013年の間に更新した回数で、2013.1となっていれば、「2013年に入って1回目の更新=バージョン1」であることを示します。
レッドリストでよくある誤解は、レッドリストデータベースに掲載される=絶滅危惧種というものです。レッドリストデータベースには、科学的な情報がある生物種のうち、絶滅危惧種かどうか判定された種の情報が掲載されています。現在、レッドリストデータベースに掲載されているのは70,249種、そのうち絶滅危惧種(CR,EN,VUと判断された種)は、20,934種となっていますので、「レッドリストデータベースに掲載される=絶滅危惧種」というのは誤解です。
 
では、本題。レッドリストへの掲載はどのように決まるか、について解説します。レッドリストへの掲載は、世界統一の基準のもとに、科学的な評価・科学者間の検証によってきめています。世界的な基準は、「IUCNレッドリストカテゴリーと基準 3.1版」とよばれるもので、日本語版もPDFで手に入ります。
http://www.jwrc.or.jp/JWRC/pdfs/IUCNRR.pdf (3.8M)
IUCNの種の保存委員会は、120に及ぶ専門家グループ(大型ネコ科動物グループとか)が存在します。昨今話題のウナギの評価は、淡水魚専門家グループの下にある「ウナギ類サブグループ」が担当します。
http://www.zsl.org/conservation/regions/uk-europe/iucnassg,1863,AR.html
ステップ1●情報収集と専門家ワークショップの開催
こういった専門家グループには委員長(chair)がおり、IUCN事務局やSSC委員長とも協議しながら、担当分類の評価を行う「専門家によるワークショップ」を企画します。
専門家ワークショップでは、専門家グループが対象とする一つ一つの種について、論文や統計、各種データをもとに、IUCNレッドリストカテゴリーと基準 3.1版に当てはめて、どの危機ランクに入れるのが妥当かを協議するとともに、生態的特徴、危機要因、すでに取られている保全措置などについての解説をまとめます。IUCNレッドリストは、絶滅危惧種に指定されたからすぐに法的規制がかかるというものではありませんが、ワシントン条約などの政策決定の主要な情報源と認識されているため、個別の種の判定がニュースになることも珍しくありません。そのため、会議の科学性を担保するためにも、判定結果について混乱を起こさないようにするためにも、ワークショップはメディアに対しても非公開で行われ、個々の種の判定結果も非公開とするのが原則です(その後続く検証過程で変更される可能性がありうるため)。
ウナギ類サブグループの会合は、今日7月1日から5日かけて、ロンドン動物園協会(Zoological Society of London)で開催する予定で、世界各地(北アメリカ、東アジア(日本と台湾)、北欧、南太平洋、オーストラリア)から15名の研究者が集まる予定です。情報不足で判断できない種もあるかもしれませんが、現在世界に生息する19種のウナギを評価する予定です。過去にヨーロッパウナギを含め5種が評価されていますので、正確言えば、既に評価されている5種の再評価と、未評価14種の評価を行うということになります。
ステップ2●ワークショップ成果の検証
ワークショップの成果はまとめたのり、速やかに、専門家グループに所属する研究者に検証(ピアレビュー)のため回覧されます。回覧によって得られたコメント・修正などを踏まえて、専門家グループ長から、IUCN事務局に結果が報告されます。ここでもIUCN事務局で、レッドリスト掲載に当たっての不足等はないか確認を行うことになっています。
ステップ3●レッドリストの発表
以上のようなワークショップが、年間を通じ、様々な地域で・様々な分類群にたいして行われています。IUCNでは、それぞれの状況を集約し、年に2,3回の頻度で、レッドリストの更新・発表を行っています。集められた変更・追加等の中からニュース性や注目すべき情報などをまとめてプレスリリースを行っています。
 
レッドリスト2012.2(2012年10月17日)のプレスリリース
 http://www.iucnredlist.org/news/madagascars-palms-near-extinction
レッドリスト2012.1(2012年6月19日)のプレスリリース
 http://www.iucnredlist.org/news/securing-the-web-of-life
以上が、レッドリストの策定プロセスです。
このように、IUCNレッドリストの評価プロセスは、時間のかかる丁寧な過程であり、時に政治的にも話題になる事柄です。正確に情報と流れを把握し、日本の自然保護の動きやメディアへの情報提供を行う役割が「IUCN日本委員会」であり、その事務局を務める「日本自然保護協会」の、地味ですが社会的な役割の大きい仕事となっています。

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