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地熱発電は地域と融和し自然環境を保全しながら導入するべき

2011.08.17
要望・声明

地熱発電事業に係る自然環境影響検討会第2回検討会 NACS-Jヒアリング資料(PDF/223KB)


2011年8月17日

地熱発電事業に係る自然環境影響検討会第2回検討会ヒアリング資料

公益財団法人 日本自然保護協会
保護プロジェクト部 辻村千尋

1.前提

日本自然保護協会では、2011年8月1日に、日本における電力エネルギーの展望についての考えを発表した。この中で、1)原子力発電によるエネルギー供給を計画的になくすこと、2)省エネルギーを第1に進め、地域の自然にあったエネルギーシステムへ転換すること、の大きく2点の考えを表明した。この観点から、日本自然保護協会としては、自然再生可能エネルギーとしての地熱発電や風力発電については、その導入を否定するものではない。自然環境に影響を与えない自然再生可能エネルギーと省エネルギー化の推進は重要である。

しかし、これまでの地熱発電事業では、温泉資源との競合や、自然公園の景観上の問題など、地域と融和し自然環境を保全しながら進めてきたとはいえない。つまり、地熱発電技術の利点と問題点については、社会的議論が不十分な状況であり、自然再生エネルギーが、日本の自然環境や生物多様性に与える影響について、将来の省エネルギー社会における我々のエネルギー需要とあわせて、議論をしなければならない。

2.国立・国定公園等の自然公園と地熱発電との関係

国立・国定公園は、我が国を代表する自然の風景地であり、生物多様性の観点からも重要な自然保護区である。国立・国定公園は、その自然度と希少性および保護上の重要度から、特別保護地区、特別地域(第1種~3種)、普通地域と、規制の地種区分がなされており、普通地域は、保護上重要度の高い地域への開発行為等の影響が及ばないようにするためのバッファー(緩衝帯)としての役割が重要である。

現状では、普通地域における地熱発電は、その都度影響を判断することとなっているが、本来の緩衝帯としての役割を考慮すれば、開発可能地域は、その外側になければ、緩衝帯としての機能は十分ではない。斜め掘りの技術が進んだ現状でも、自然保護上重要な特別保護地区、特別地域を保護するためには、普通地域の緩衝帯としての機能を十分考慮し、地熱発電所は、その外側に配置されるべきである。

3.持続可能性についての疑問

地熱発電は地下の熱資源を生産井で取り出し、使用済みの排水を還元井で地中に戻す構造が基本である。この構造から持続可能なエネルギーとしての認識が生じている。しかし、生産井と還元井の関係は、生産井の熱資源に影響を与えないために、別の地層(通常は熱水層より上位の層)へ還元することが基本である。この時の還元能力は生産能力よりも低いことが通常であり、還元能力の向上のためには、水圧破砕や沈殿防止対策が必要である。これは、熱資源は使用され続け、それとは別の地層は重金属を含む排水を供給され続けることであり、持続可能なシステムではない。重金属を含む排水は、本来産業廃棄物であり、それを地下に廃棄していることの是非について、議論が尽くされているとは考えられない。
排水の及ぼす地下水文環境への影響については、深度が深いほど影響の波及には長時間を要するため、現時点で明瞭な現象が発生していないから影響がないと断定はできない。長期間および広範囲にわたるモニタリング調査が必要である。

次に、地熱発電では、利用する蒸気や熱水に含まれる硫化物質などの不純物が、生産井や還元井に付着することで、発電能力の減衰が生じる。減衰率は理論上は年3%程度とされているが、実際には5%以上とされている。このため、効率維持のためには補充井の掘削が必要であり、地熱発電では常に、新たに井戸を掘り続けなければならないという現状がある。実際、各発電所とも概ね2~3年で1本の掘削実績がある。八丁原地熱発電所では5年で生産井・還元井あわせて10本掘削している。
つまり、地熱発電では操業開始後も補充井の掘削工事が継続的に実施されるのが実態であることから、持続的な再生可能エネルギーとはいえない。また、新たに掘削される補充井については、環境アセスメントの対象になっていない。当初計画において許認可された後の変更は、影響評価なく進められているのが実態であり自然保護上問題である。

4.不確実性と予防原則について

地熱発電開発が、浅部の地下水層や表層水に与える直接的な影響はない。また、地熱資源のある帯水層の上部にキャップロック上に難透水層が存在している条件では、それより上位の地層への影響は考えにくく、周辺温泉資源や、地下水層に与える影響はないとされている。一方で、地下水は深度が深くなればなるほど、上位の帯水層への直接影響は低くなるが、波及的な間接影響については現在の知見では、把握も予測もできない。地下の帯水層は一定の圧力バランスの中で存在しており、そのバランスが変化することで何らかの影響が表れることは現実にある。例えば、3月11日の東北大震災発生後は、各地の温泉地で湧出量や、泉源の温度に変化が生じたり、福島県では廃坑から温泉の湧出が開始したりと、温泉を含む地下水への広範囲にわたる影響が確認されている。

しかし、このような現象の予測や原因の解明は現在の知見では難しい。2010年10月17日には、鬼首地熱発電所において水蒸気爆発が発生した。2011年1月に公表された発生原因の報告では、原因については特定されず、こうした蒸気噴出等の突発的な現象の予知は困難であるとされている。地熱発電の適地はその立地特性から、火山周辺のリニアメントや断層の存在する場所となる。また周囲には温泉地すべり地も多く分布する。こうした場所で、地下に井戸を複数掘ることは、地質的な弱線を人工的に作ることであり、その周囲では突発的な蒸気噴出の可能性を高めることに繋がりかねず、かつ予測はできない。

5.地表部の自然保護上の問題について

過去には、冷却蒸気が周辺の樹木に着氷し、枯死現象を引き起こすことがあり、その技術対策が進められてきた経緯がある。その結果、現在では着氷による枯死現象は認められなくなってきた。一方、地熱発電所施設は性質上、高温になる部分を内包している。生産井と施設を結ぶパイプラインなど、熱源になる構造物が施設内の地上部に存在している。さらに施設のある場所は、伐開地であり、周囲の樹林帯に比べ、微気象条件に変化が生じている可能性がある。具体的には、気温と湿度の上昇が生じている可能性が高い。しかし、こうした視点でのモニタリングは行なわれていない。発電所ができてからの周辺樹林の樹種構成や、林層構造の変化や、蘚苔地衣類などの分布状況の変化などの有無の知見収集が必要である。従って、新規の開発の際に、具体的に予測評価が行なえるようにするために既存の発電所でのモニタリング情報を収集することが先決である。

景観上の課題については、建屋の色彩を工夫するなど一定の配慮が行なわれるようになってきている。しかし井戸と建屋を結ぶパイプラインは、むき出しのままであり、かつ常に補充井を掘る工事が行なわれていることから、さながら工場のような景観が存在している。自然保護上重要な地域である、国立・国定公園内にこうした景観が存在することは、問題である。特に、地熱発電の開発適地となる国立・国定公園は、火山と火山現象が主要な景観となる、自然度の高い公園であるため、その自然保護のためには、普通地域を緩衝帯として、保護する必要がある。

6.環境アセスメントの手続きについて

地熱発電開発では、その資源量の把握のために様々な技術の開発が行なわれており、電波探査等、自然環境への影響のない方法で資源量を把握することができるようになってきている。しかし、安定操業ができるかについては、試掘を行い、実際に噴出させなければ判断はできない。現在のアセスメント制度では、計画段階において文献調査等の既存情報から複数案を比較検討する配慮書の作成が定められた。計画段階で試掘工事が行なわれる地熱発電においては、この計画段階の配慮書において、現地調査に基づく具体的な影響評価が必要である。今後の地熱発電の開発に際しての環境アセスメントについては、その進め方の検討が必要である。
また、先に指摘したように、補助井の掘削についても、規模に応じて環境影響評価を行なう必要がある。

7.自然保護上の解決を要する技術的課題

昭和50年に、日本自然保護協会では、「地熱資源開発促進法制定反対に関する意見書」の中で、地熱発電に関して、着氷による枯損木の発生や、噴気中に含まれる硫化水素や有毒金属類の処置など、10項目について、科学的・技術的研究が未熟であり、解決する必要があると指摘した。

これらのうち解決もしくは対策可能となった技術も存在するが、未だ不十分と考えられる点や新たな懸念が以下のように指摘できる。

  • 1)配管で占拠された景観
  • 2)砒素を含む還元水の地下への影響
  • 3)地獄現象等の火山景観への影響
  • 4)大量の還元水の地盤変動への影響
  • 5)噴気蒸気の不安定さと掘削井の持続性への疑問
  • 6)人の健康に与える影響

こうした懸念に対する対策や評価が行なわれるためには、既設の発電所でのモニタリングの更なる充実が必要である。従って、冒頭から指摘しているように、科学的・技術的知見の集積を図る必要がまだあると考える。

以上

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