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人が増やした獣害問題の解決策の検討円卓会議に参加しています。

2011.03.01
活動報告

会報『自然保護』No.520(2011年3・4月号)より転載


ニホンジカ(以下、シカ)は、東アジア沿岸部や日本の北海道から九州、南の島々に分布し、日本にすむものは7亜種に分けられています。今、日本各地でシカによる踏みつけ、採食、地面の掘り起こしにより自生植物の消失の原因になるという問題が起きています。

シカで何が起きているのか?
たとえば、熊本県球磨川源流部の森では、かつて林床はササに覆われていましたが、今では大きな樹木が点在するだけになりました。群馬県の尾瀬などでも、かつてシカがいなかった湿原地域や至仏山にも夏に現れて植物を食べ、多くの植物の脅威になっています。シカは標高の高いところで冬は越せないため山麓に散らばります。猟期には狩猟で獲られるのですが、分散した個体を多少獲っても高山帯のシカ対策としての効果は期待できません。自然植生への悪影響が著しいところでは、柵を巡らせて植生を守る緊急対策も行われていますが、積雪で柵が壊れるなど、維持管理上の問題が多くあります。解決のためには、そこにやって来る個体を、来る時期に、そこで取り除くという個体管理と地域全体での密度管理が必要で、そのような対策が必要な場所は日本各地に広がっています(図1)。

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明治時代に日本から絶滅させたオオカミの代わりに外国から近縁のオオカミを取り寄せ、日本の自然の中に放してシカを捕食させようという提唱もありますが、シカを獲るだけではない肉食獣が何をするか予測しきれないこと、シカ密度抑制への効果の不確かさ、外来種導入で失敗した南西諸島のマングースの教訓、社会の受容力など、導入には問題が多く、現実的な解決策にはなり得ないのが実情です。

人による環境の激変行為でシカの生息域が拡大
環境省の調査で、1978年と2003年の生息域を比べた図2では、シカのすむところが25年間に1.7倍に増え、昔はいなかったのに今はいるところが増えています。ただし、78年にはいたのに03年はいない、というところもあります。山麓の林が農地や道路、住宅地などになり、シカが新たに建設された道路伝いに山に移動したとみられるところもあるのです。

かつて全国の山麓には燃料用の薪や炭、肥料とするための落葉落枝を取る広葉樹の雑木林が広がり、常に小規模ずつ利用され、シカだけでなく里の生きものの生息地にもなっていました。しかし、人が雑木林を必要としなくなると、紙の原料用などに一斉に売られ、その後はスギなど木材を生産する針葉樹の人工林に急激に変えられ、雑木林は”絶滅危惧環境”になっています。さらに都市化・温暖化もあります。この数十年間の人による環境の激変行為は、野生生物があるものは増え過ぎ、あるものは地域から絶滅するという現象の根幹に大きくかかわっています。シカも勝手に増え過ぎたわけでなく、人が増やした・広げたともいえるのです。

このような中、和歌山県は今年1月、この10年余りで3倍以上になったシカの生息数を適正に保つ管理捕獲を伴う「県ニホンジカ保護管理計画」案を発表しました。管理捕獲の実行は猟友会に依頼するものですが、狩猟者の高齢化と狩猟行為や銃器管理を厳しくせざるを得ない社会の中で、狩猟のみならず、有害鳥獣駆除や管理捕獲の実行者がいなくなりそうという問題があります。

環境省鳥獣保護対策室は狩猟団体に働きかけ、今年から「狩猟と環境を考える円卓会議」が組織され、NACS‐Jも私が参加しています。この集まりでは、有害鳥獣駆除や管理捕獲の実行が狩猟愛好者頼みの状態をどうすべきかについて、論議を始めています。また林野庁は、シカなどの過密鳥獣の対策費を11年度予算案で倍増させ、植生保護柵設置のほか、捕獲対策も計画しています。

シカの突出を制御し、シカという種も日本の多様性を形づくる一員として健全に維持される状態をつくり出さなくてはなりません。その担い手を誰にするのかについて、会員の方々からのアイデアやご提案をお待ちしています。

(横山隆一・常勤理事)

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