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「生物多様性条約ポスト2010年目標日本提案(案)」について
意見を提出しました(パブリック・コメント)

2009.11.27
要望・声明

 

「ポスト2010年目標日本提案(案)」へのNACS-J意見(PDF/184KB)

 

●参考ページ:環境省の報道発表資料 平成21年10月30日 生物多様性条約ポスト2010年目標日本提案(案)に対する意見募集について(お知らせ)

 


 

 

2009年11月27日

環境省自然環境局 生物多様性地球戦略企画室 御中


「ポスト2010年目標日本提案(案)」への意見

 

財団法人 日本自然保護協会

意見1. より積極的な中長期目標、短期目標の設定をすべきである
(項目1、2 )
世界および日本国内で生物多様性が劣化し続けている現状にもかかわらず、日本提案(案)の目標設定は、明らかに消極的であると言わざるを得ない。
中長期の目標で「損失を止め、その状態を現状以上に豊かなものとする」と掲げているものの、生物多様性の損失を止める時期・方法が明確でない。そのため、短期目標も抽象的なものにとどまっている。EUでは、「2010年までに生物多様性の劣化を食い止める(halt the loss)」という目標が、既に2001年に樹立されている。この日本提案(案)は、それを2050年までのどこかで実現しようという提案であり、目標達成の先延ばしと受け取られる可能性がある。このままでは、日本は生物多様性条約第10回締約国会議の議長国として、国際社会の信頼を失いかねない。ポスト2010年目標日本提案は、より積極的な中長期目標、短期目標の設定をすべきである。
日本自然保護協会は、中長期の目標、短期の目標をそれぞれ以下のように提案する。

●2050年までに、あらゆる人々が、人類の生存と福祉の基盤である生物多様性とそれがもたらす生態系サービスの重要性を理解し、生物多様性の状況を2010年のレベルかそれ以上で維持し、人と自然の持続可能な関係を構築する。

●2020年までに、生物多様性のこれ以上の劣化をくいとめる。そのために、生物多様性の損失につながる要因をゼロまたは最小化するとともに、生物多様性の保全・回復に向けたあらゆる取り組みを最大化する。
(日本自然保護協会、2009年10月10日、「ポスト2010年目標についてのNACS-Jのポジションペーパー」より)

意見2. 実効性ある環境影響評価制度が必要である
(項目4-B-B3)
日本においては、政府や地方自治体による公共事業が、生物多様性の大きな損失要因になっている。そのあり方を根本的に見直すとともに、実効性ある環境影響評価制度が必要である。特に環境影響評価制度へのノーネットロスの原則の導入と、影響評価・事業採択後のモニタリングの継続実施やその結果を事業に反映させる枠組みが必要であるとともに、戦略的環境影響評価(SEA)は「事業の特性に応じた推進」ではなく、日本を含めた各国が早急な法制化に取り組むことが必要である。

意見3. 持続可能な方法による生産の比率を高めるには、具体的な達成目標が必要である
(項目4-C-C1)
生物多様性の劣化につながらない持続的な農林漁業の推進のため、すでに導入が始まっている生産物に対する認証制度の強化・普及と、認証制度に関する更なる取組みを奨励することが望ましい。ポスト2010年目標にあたっては、持続可能な方法による生産の比率を高めるために、目標年限や取り組みのボリュームなど、達成目標をより具体的にすべきである。

意見4. 開発などの人間活動による危機をより強く認識しなければならない
(項目4-D)
日本提案(案)は、生物多様性の損失要因への言及が不足している。個別目標Dにおいては、生物多様性に関する最大の脅威は、開発などの人間活動による危機であることが認識されていない。このことは、わが国の第3次生物多様性国家戦略で示した認識と矛盾している。

意見5. 保護地域の管理効果を評価する指標が求められる
(項目4-E-E1-数値目標)
保護地域の面積や数を拡大・増大させることは望ましいが、保護地域内の管理が問題化しているケースも多いことを踏まえ、保護地域の生物多様性を維持するための管理計画などの作成が求められる。国際的なポスト2010年目標の検討においては、条約のテーマごとの作業計画とも連携させていくことが求められているため、「保護地域管理効果の評価地域数」などの、保護地域作業計画に組み込まれている指標を取り入れていく必要がある。

意見6. 森林の保全にあたっては、自然林面積とその連続性等に着目すべきである
(項目4-E-E3-数値目標)
自然林の縮小や分断が生物多様性の劣化を加速させていることから、森林についての目標は、森林の総面積や森林率よりも、自然林(天然林)面積とその連続性などを指標とすべきである。

意見7. 湿地や河川、海岸、沿岸は保護地域化を進めることが先決である
(項目4-E-E4)
日本自然保護協会がまとめた「植物群落レッドデータブック」では、水辺の植物群落が危機に瀕していることが指摘されたが、湿地や河川、海岸、沿岸の保護地域化が立ち遅れている現状がある。このため湿地や河川、サンゴ礁・島嶼を含む海岸・沿岸の保全には、数値指標に挙げられている湿地・サンゴ礁の回復や藻場・干潟の創出よりも、現存する湿地等の保全を最優先とし、保護地域化を進めるべきである。

意見8. 生物多様性・生態系サービスの精神的・文化的価値を評価や意思決定に組み込む仕組みが必要である
(項目4-F-F1)
生物多様性及び生態系サービスの価値を自然科学、人文社会科学双方から得られる知識に基づいて、地域で育まれた精神的・文化的価値を含めた把握・評価に努めることは重要であるが、達成手法F1にあるような、その理解を深めるだけでなく、土地利用や開発の際の評価や意思決定に組み込む仕組みを構築すべきである。

意見9. 様々な主体から得られたデータをもとに、有効な指標の開発と保全施策への活用を進めるべきである
(項目4-H-H1)
生物多様性の損失を止めるためには多様性の状況と変化を把握することが不可欠である。科学的な指標は、森林面積や種の保全状況など生物多様性の構成要素のみならず、森・川・海といった異なった生態系間の連続性、生態系機能に着目して作成することや、景観レベルから遺伝子レベルまでの多様性をなす要素、機能、構造を十分に評価可能な概念的枠組みと指標群を開発することが望ましい。

また、日本提案(案)では、総じて生物多様性の状況と変化を把握するモニタリングやデータ収集をどのように実現していくかについての戦略に関する記述が、非常に不足している。既存の市民モニタリング等のデータだけでなく、全国で実施されている自然観察会の記録や、環境影響評価のデータ、博物館の標本データなど、様々な主体から生物多様性の情報を収集し、そのデータを生物多様性の保全施策に活用していくことが有効であり、そのためには、市民やNGOが地域の自然の変化をモニタリングした成果を、科学的な指標にフィードバックする仕組みを構築する必要がある。

意見10. 生物多様性を保全するための実効性ある資金メカニズムを構築すべきである
(項目4-I)
生物多様性保全と持続可能な利用を達成するためのキャパシティビルディングを進めることは必要であるが、個別目標Iで挙げられた達成手法はいずれも既に実施している施策であり、既にある取り組み(や資金的なインプット)を拡大することを目標とした書き方になっていない。既存の政府開発援助の組み替えなどではなく、これまでの締約国会議で議論されてきたように、新しい追加的な資金の枠組みについて検討すべきである。

また、生物多様性を保全するための資金メカニズムの構築においては、資金の持続性を確保するとともに、その使途について各国のNGOの意見が反映される仕組みをつくるべきである。

意見11. あらゆる主体が目標の担い手となるよう、すべてのプロセスで市民参加を保障すべきである
(項目5)
政府だけでなく、自治体や企業、市民、NGO、科学者などあらゆる主体が、戦略計画が達成すべき目標の担い手となるよう、目標達成のためのすべてのプロセスの情報公開と共有を進め、市民参加を保障すべきである。

(1)  実施については、条約事務局と各国のNGOがより緊密に連携し、市民レベルでの取り組みの推進をはかり、NGOが各国で目標達成のための重要な担い手として活躍する枠組みを整えるべきである。

(2) 報告については、条約と加盟各国に、科学者、NGO、市民参加の条約実施レビュー作業部会をそれぞれ設置すべきである。

また、COP11で、ポスト2010年目標達成に向けた取り組み状況の国別報告書を共有する必要があると考える。その際、各国は、国別報告書の作成にあたって、市民・NGOの意見聴取を義務とすることが必要である。

<参考>
ポスト2010年目標についてのNACS-Jのポジションペーパー

ポスト2010年目標日本提案(案)」に対する意見募集(環境省)

 

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