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2009.09.03

里やまモニタリングの結果から 自然の変化が明らかになりつつあります。

2009年9/10月号より転載


里やまの生物多様性の変化を全国レベルで捉えて保全に活用することを目的とした「モニタリングサイト1000里地調査(以下、里地調査)」(環境省委託)は、調査開始から5年目を迎えます。昨年度新たに登録された約180カ所の調査地での調査も徐々に始まり、膨大な量のデータが集まりました。昨年度の調査結果の一部をご報告します。

データが示す 外来種やチョウ類の分布変化

昨年度の調査では、実に89,000件以上ものデータが集まり、調査に費やされた労力は人数にして延べ5,009人、日数は延べ1,886日でした。その結果、1年間のデータだけで植物約1,880種、鳥類142種、哺乳類22種(コウモリ、ネズミの仲間を除く)、チョウ類101種を確認することができました。

長期間の変化をとらえるにはデータの蓄積はまだ十分ではないものの、生物多様性の変化を示す結果の一部が得られています。例えば、過去の分布調査と今回の里地調査との記録を比較することで、外来種のアライグマやハクビシンが新たな地域に分布を拡大していることや、南方に分布の中心を持つナガサキアゲハやツマグロヒョウモンなどのチョウ類の分布の北限が北上していることなどが確かめられました(図1)。このような変化がほかの種に及ぼす影響についても、今後把握できるかもしれません。

090901ナガサキアゲハ.jpg
090901アライグマ.jpg

▲図1:ナガサキアゲハ(左)とアライグマ(右)の既存の分布情報と2008年度の里地調査との比較。地図上の青色は2002年の環境省の調査で確認できた分布、丸印は里地調査の結果(赤丸:分布確認、白丸:確認できず)を示す。左:ナガサキアゲハが北関東まで進出している。右:アライグマの新たな分布が拡大している。

調査地間の比較から見えてきたこと

また、調査地同士のデータを比べて分かったこともあります。例えば、人口密度の高い市町村にある調査地ほど、哺乳類調査で撮影される在来種の種数が低いという関係が分かりました(図2)。
このような解析結果を応用することで、地域で哺乳類相の保全にはどの程度の面積の里やまが必要か、仮に開発によって森林が小さくなった際にどの程度の生物多様性が失われるかの予測、地域全体の生物多様性からみたその調査地の重要性、といったことも明らかにできそうです。

090901図2.jpg
図2:中・大型哺乳類調査で撮影された在来種の種数と、その調査地の属する市町村区の人口密度との関係。表中の直線は回帰直線(R2=0.23, p = 0.02)を表す。

里やまの生物多様性の変化をとらえる指標の開発

今後は年間20~30万件のデータが集まる予定です。そのデータを使えば、さらにさまざまなことが分かるでしょう。しかし一方で、複雑な解析には時間も必要です。この調査でまず大切なのは、同じ方法で繰り返し行う毎年の調査が、里やまの生物多様性に変化や異常が起きたときに、それを早期にとらえられるような「定期健康診断」として機能することです。

人間の健康診断では血圧や血糖値などを毎年測定し、体に異常がないかを確かめます。里やまのモニタリングでも、人の健康診断の血圧のように、生物多様性やその変化を「指標」できるものを用意できれば、迅速な診断が可能となるはずです。また、指標の値に変化をもたらすような原因が事前に想定できていれば、診断結果から素早く保全対策を考えることもできるでしょう。そこで既存の研究資料や、1950年代から現在までに調査地で実際に生じた変化なども踏まえ、左表の手順で、「在来の植物の種数」や「ノウサギやキツネなど哺乳類7種の(赤外線センサーカメラでの)撮影頻度」など、里やまの健康診断のための20の「指標」を開発しました。

例えば、生物多様性が衰退する要因である「開発による生息・生育地の破壊・分断化」が起きると、湿地がなくなったり森林が小さくなり、生物の種類数が減ったり広いすみかを必要とする哺乳類が見られなくなると考えられます。そこで「種の多様性」や「連続性の高い環境に依存する種の個体数」などを、里やまの生物多様性の健康診断の視点(評価軸)のひとつに選び、それに対応する指標として「在来の植物の種数」や「哺乳類の撮影頻度」を設定しました。健康診断として指標の値の変化に注目し、生物多様性の変化をいち早く多面的にとらえることで、より効率的に追加解析を行ったり、具体的な保全対策の提案をしていきたいと考えています。

なお、解析結果の詳細は、順次モニ1000里地調査プロジェクトページで公開していく予定です。


【①生物多様性の衰退要因の整理】
既存の研究資料から、里やまの生物多様性に悪影響を及ぼすとされる要因(衰退要因)を、8つに整理。
            
【②生物多様性の評価軸の整理】
衰退要因によって特に影響を受けそうな生物多様性の要素を抽出し、健康診断のための8つの視点(評価軸)として整理。
            
【③因果関係の検証】
豊富な文献資料がある調査地を事例に解析を行い、1950年代から現在にかけて、①や②で想定したような衰退要因に伴う生物多様性の変化が実際に生じていたかを検証。
           
【④指標の開発】
里地調査の植物や鳥類のデータから計算可能で、②で整理した生物多様性の8つの評価軸の内容を表すようなものを、「指標」として20抽出。

(高川晋一 保全研究部)

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