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検討会報告 森林の生物多様性は修復できるか?

2007.07.01
活動報告

2007年7/8月号より転載


天然林を伐採する林業

林野庁北海道森林管理局(以下、道局)は、06年度末から、「生物多様性検討委員会」を設置し、北海道の国有林(道内の森林面積の約55%)の生物多様性に関する論議を始めています。

北海道の森林は、開拓時代から現在まで約150年間にわたって徹底して資源利用され、人工林をつくっての林業だけでなく、自然林を伐採して木材を取り、回復させてはまた伐るという施業が今も続いている地域です。その結果、厳しい気象環境の所では、ササ原になってしまったり、森林環境は続いていても本来の自然林とはまったく違った顔ぶれの森になってしまったりと、自然らしさの喪失、野生生物の生息環境のかく乱・消失の原因になってきました。今も木材利用が地域経済の基盤のひとつとされ、違法伐採のような不祥事や、国際ラリー競技に林道を使わせたことでナキウサギの生息地が脅かされることなどもあり、自然林の林業利用の単純な可否では計れない多くの問題が山積しています。

しかし、林野庁も、06年9月に制定した森林・林業基本計画では、公益的機能の拡大と自然保護を国有林の管理目的のひとつとして明記し、5つに分かれていた道内の森林管理局も道局として統合され(04年4月)、環境省が事務局となる政府の新・生物多様性国家戦略づくりも進む中、北海道の国有林のあり方を多様性の観点から見直す機会を必要としたといえます。

 

北海道国有林分布図

北海道の国有林分布図(林野庁資料より作成)

 

本来の自然性を取り戻すための検討へ

検討委員は6名で、これまでの道内中心の人選や林学の専門家が多い構成とは異なり、NACS-Jからも筆者と理事の鷲谷いづみさん(東京大学)が参加しています。

第1回の会議は3月28日、札幌で行われ、道局としても、森の更新ができない状態が各地に生じたこと、自然林からの木材生産量が全国に比べ圧倒的に多いこと、小規模な保護林が多く管理に手が回らないこと、木材量を回復させては伐るという施業の理屈は地域の生物群集の質の維持とは相容れないことなど、これまで見直しが求められてきたことに対する対処の必要性を認めるコメントも出されました。

5月29日に行われた第2回の会議は、多様性修復のための道局事業全体の見直し方向と、具体的に試行的な修復事業を開始したいとする4つのプログラムが提案され、プログラムごとに小委員会を持つことを決めました。

4つのプログラムとは、
1.樹海再生プロジェクト(日高北)
2.十勝川源流更生プロジェクト(東大雪)
3.北限のブナ復元プロジェクト(後志)
4.ニシンの森再生プロジェクト(留萌南)

です。いずれも難易度は高く、単に代表的な木を植えて見かけをつくればよいものでないため、生態学的な調査研究を優先して行わなければ、本来の自然性(地域本来の生物多様性)を取り戻す方向には向けられないことなどを主張しました。

また、林野庁本庁では、道局の動きと並行し、全国の国有林に指定した「保護林」(約850カ所、合計面積68万3000ha、国有林に占める割合10%)の、5年間をかける現況調査(「保護林モニタリング調査」)を計画しています。この立案にもNACS-Jは参画しています。

保護林のうち、面積が大きく知名度が高いのは森林生態系保護地域、森林遺伝資源保存林、植物群落保護林。調査は、これらの森が今どういう状態にあるか、生物多様性を維持する上でどのような機能を果たしているか、日本を代表するに十分な森林規模や範囲、配置になっているかなどの評価に生かされることになります。

 

情報募集!

北海道は、知床やヒグマの存在などのイメージから、広大な原生自然が広がる所と思われがちですが、森全体で見れば質的な変化・劣化の現状は深刻です。特に北海道在住の会員の方々には、これらの委員会に注目いただき、この地域はこういう方法で修復を、あるいは、この場所での事業は逆効果などの地域情報をご提供いただければと思います。いただいた情報は、最適な方法で生かしていきます。

(横山隆一 常勤理事)

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