絞り込み検索

nacsj

【事例5】風力発電施設は建設段階から山岳の自然を破壊する(長野県)

2006.07.01
解説

南アルプス北端の入笠(にゅうがさ)山は、本州を横断するフォッサマグナ=大地溝帯の真上にそびえ立つ山です。山頂では、信州から甲州の名だたる山が360度に展望できます。この周辺で、2つの事業者により高さ100mあまりの大型風力発電機を計63基建設する計画が進行しています。

  • 青木あすなろ建設㈱ (事業者:グリーンパワーインベストメント)
    1670kW級×最大33基
  • 三峰川電力㈱ 1000kW級×最大30基

地図の画像▲入笠山周辺で計画されている2つの風力発電事業。黒い太線が主な尾根(入笠山周辺の風力発電をやめさせる会提供)

会報『自然保護』特集:風力発電事業を考える(2006年7/8月号)より転載

1900m級の尾根に風力発電計画

これらの計画のうち1つは、旧長谷村の伊那市との合併に関する住民懇談会で説明されました。入笠山を愛好する団体、山岳団体、地元住民などが「入笠山周辺の風力発電をやめさせる会」を組織して反対行動を進めています。

 

急峻地でのダンプ40000台超の土砂搬出が招く災害の危険

入笠山直下には、内陸部としては地震危険度が最も高い糸魚川―静岡構造線(政府発表でマグニチュード8程度の地震が予測されている)があります。断層崖は高さ600~800mの急傾斜地で、糸魚川―静岡構造線と並んだ数本の断層も存在します。斜面の各所には地滑りや崩壊地があり、湧水地も多く見られます。このような不安定な土地でどれくらいの規模の自然改変がされようとしているのか、以下に述べていきたいと思います。

この地に計画されている1000kW級風力発電機の組み立てには、65m×65m以上の広場が必要です。稜線部は平坦ではないので、造成工事による土砂流出が深刻です。さらに、風力発電機1基の基礎工事には20m×20m×10mの穴を掘ります。この掘削で生じる大量の土砂は、将来とも安定した場所へ搬出しなければなりません。搬出量は、風力発電機1基につき10tダンプ720台です。63基になれば45,360台分になります。

また、現道は幅3mですが、大型トレーラー運行のためには6m幅に拡幅する必要があります(図2)。切り土と盛り土の工事で発生する土砂崩れが、断層崖直下の住宅密集地を襲う恐れもあります。自然エネルギーとはいえ、山岳の自然破壊や深刻な土砂災害の懸念をもたらす土木開発行為は、許されるべきではありません。加えて、大規模に拡幅された道路は、企業の負担で維持されていくわけではありません。管理者である地元の行政などが、維持していかなければならないのです。

060701トレーラー回転に必要な道路幅.jpg▲図2 長大トレーラーによる回転翼の輸送に必要な道路幅

 

許可をするなら、行政も責任を負うべき

大規模な自然改変に伴う将来にわたるリスクはどうなるでしょうか。事業者は地域住民や一般市民の頭越しに、林道開発をはじめとする関係行政への許可申請を行うかもしれません。事業者とすれば、行政が許可したのだから、自分には落ち度がないと言い張ることもできます。ですから、事業者はもちろん、行政の責任も重大です。

松島信幸(伊那谷自然友の会会員)

前のページに戻る

あなたの支援が必要です!

×

NACS-J(ナックスジェイ・日本自然保護協会)は、寄付に基づく支援により活動している団体です。

継続寄付

寄付をする
(今回のみ支援)

月々1000円のご支援で、自然保護に関する普及啓発を広げることができます。

寄付する