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【事例4】イヌワシが生息できる 希少で豊かな自然環境に どうしても建設が必要か?(兵庫県)

2006.07.01
解説

兵庫県のほぼ中央に位置し、瀬戸内海と日本海の分水嶺である段ヶ峰周辺に計画されている大規模な風力発電事業の計画をめぐり、地元朝来市と宍粟市は大きく揺れています。現在、2005年10月に兵庫県が公表した「風力発電所環境配慮暫定指導指針」に基づいて、事業者による猛禽類調査が行われています。

  • (仮称)CEFウィンドファーム 2500kW×12基
    クリーンエナジーファクトリー㈱(事業者:CEF兵庫ウィンドファーム㈱ )
  • (仮称)段ヶ峰ウィンドファーム 1500kW×10基
    エコ・パワー㈱(事業者:段ヶ峰ウィンドファーム㈱ )

イヌワシ写真▲イヌワシ。多様で健全な生態系が、その生息を支えている。(撮影:須藤一成)

会報『自然保護』特集:風力発電事業を考える(2006年7/8月号)より転載

日本イヌワシ研究会兵庫地区の長年の調査によると、計画地は兵庫県に数カ所しか残されていないイヌワシ生息地の一つであり、建設予定地の尾根はイヌワシの重要な狩場であることが分かっています。

風力発電施設建設で、イヌワシが風力発電機に衝突死する危険が生じるだけでなく、付随する道路整備などによって自然環境が改変され、悠久の時を超えて保たれてきた生態系のバランスが崩される恐れがあります。その結果、生態系の頂点にいるイヌワシをはじめ、希少な動植物の生息が脅かされると予測されます。

地球温暖化対策としての自然エネルギー導入は重要課題ですが、風力発電だけが自然エネルギーではありません。台風が多く世界一の豪雪地帯でもある日本の山岳地に吹く風は、強弱や風向の変化が大きく不安定で、風力発電施設の先進地である欧米の丘に吹く安定した風とは異なります。

バイオマス発電など、森の国である日本の環境にあった自然エネルギーも存在します。新エネルギーの施設建設よりも、省エネの実行が最も有効な温暖化対策であることは明白です。地域の宝である自然を破壊するより前に取り組むべきことは山ほどあるはずです。

060701段が峰地図.jpg▲標高900~1100mの段ヶ峰から達磨ヶ峰に至る尾根沿いに22基の風力発電機建設が計画されている(出典:日本イヌワシ研究会兵庫地区2005)

建設を推進している朝来市長は、風力発電事業を地元住民が強く要望していると述べています。しかし、「段ヶ峰の風力発電を考える朝来市民の会」によって開催された集会では、「上の方で勝手に決めている。賛成などしていない」という地元栃原地区住民の発言に、参加者の大きな拍手が起こりました。水源地の山に建設される巨大な人工建造物は、地元住民に水質悪化や土砂災害などの不安を抱えた生活を強いる上、20年も経たずに巨大な産業廃棄物と化します。

先祖から受け継いだ豊かな自然を破壊して風力発電施設を建設しても温暖化対策にはならないこと、生活道路拡幅などのインフラ整備は風力発電施設と関係なく実現すべき課題であること、そして風力発電施設による町おこしがはかない夢であることに多くの市民は気付いています。

イヌワシに象徴される多種多様な生物が生息する豊かな自然は、ヒトの生活の根幹をも支えています。段ヶ峰の自然を破壊する風力発電計画は、白紙撤回すべきです。

須藤明子(日本イヌワシ研究会理事・保護対策委員長)

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