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植物を絶滅させない! 長野県の条例づくりに参加して

2003.01.01
活動報告

会報『自然保護』No.471(2003年1/2月号)より転載


レッドデータブックから13年

種の保存法(絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律)が成立して2002年で10年になります。この法の科学的なベースとなったのは、絶滅のおそれのある野生動植物をリストアップしたレッドデータブック。世界では1966年にIUCN(国際自然保護連合)が、日本では1989年にNACS-JとWWFJが最初に作成しました(植物種編)。現在では地域版のレッドデータブック作成もすすみ、2002年現在、ほとんどの都道府県でレッドデータブックが発行されており、8道県では希少野生生物種の保存条例もできています。

長野県は、2002年にレッドデータブック植物編を発行、2003年に動物編を発行予定です。レッドデータブック植物編には、高山植物などが盗掘や開発で危機的な状況にあることが示されています。また、ハクバサンショウウオ、ギフチョウなどの動物も開発で生息地を奪われ絶滅のおそれが迫っています。そこで長野県は、希少野生動植物対策検討委員会を設置し、その検討の過程で県の希少野生動植物条例の必要性・内容が議論されました。

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一歩すすんだ条例に

委員会は、植物版レッドデータブック作成に携わった信州大学の土田信義教授をはじめとする研究者、高山植物の保護に携わる団体、山岳会関係者など11人で構成されています。NACS-Jにも就任要請があり、吉田が委員として参加しました。

委員会は2002年8~11月に5回開かれ、県環境審議会に提出する「希少野生動植物対策の考え方」をまとめました(表参照)。この表でわかるように、「考え方」は、長野県の特色に配慮しただけでなく、他県の条例では見られないすすんだ内容を含んでいます。長野県では、田中知事の下で公共事業での環境配慮が優先事項として検討されており、そこでも希少野生動植物を含む生態系への配慮が盛り込まれる予定だそうです。

「希少野生動植物対策の考え方」の要旨

(1)希少野生動植物種の定義を、種・亜種だけでなく、地域個体群まで広げた(北アルプス・八ケ岳など、動植物の分布が島状に分断されている長野県の特殊性への対応)。

(2)対象種が広い。指定希少野生動植物種、特別指定希少野生動植物種の2つのカテゴリーをつくり、絶滅危惧1A(絶滅寸前)種だけでなく、絶滅危惧1Bや2まで対象を広げた(雑木林の手入れがされなくなったことで減少している昆虫なども対象にできる)。

(3)違法に捕獲・採取された個体の「所持」も禁止する。国の法律では捕獲・採取、譲渡まで。高山植物の盗掘問題が多い北海道・岩手県では所持の禁止も条例化されている。

(4)生息地を積極的に回復する手法。生息地等保護区のような保全地域の設定だけでなく、保護回復計画をつくる。v

(5)開発による希少野生動植物への影響を、計画段階で回避する。

(6)外来種の対策。外来種による影響を減らすため、調査研究、情報の提供、対策の実施(ライチョウが生息する高山帯へのペットの持ち込みなど、長野県独特の事情を反映)。

そのほかにも……長野県自然保護研究所による希少野生動植物のモニタリング調査、長野県自然保護レンジャー制度を活用した監視体制の整備など、独自につくり上げてきた制度の活用。

私も委員として積極的に意見を述べましたが、その多くはNACS-Jが2002年3月に発表した、「野生生物保護のための27の提言」がベースとなっています。 長野県では、県環境審議会や県民からの意見募集を経て、2月の条例化を目ざしています。私たち委員の提言が実現すれば、日本で最もすすんだ希少野生動植物条例ができることになります。

会員の皆さんの県にまだ希少種条例がないときには、ぜひこの長野県の条例を前例として活用していただきたいと思うとともに、制定10年を迎えた「種の保存法」の改正にもよい影響を与えることを期待しています。

(常務理事・吉田正人)

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