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「環境アセスメントの実施、専門家パネルの設置を」

2001.11.01
要望・声明

アユ魚体調査結果に基づく川辺川ダム計画見直しに関する意見書を提出


尺鮎実物大.jpg
▲今年の調査で捕獲された、川辺川産の大型の天然アユ(クリックするとほぼ原寸大に拡大します)。捕獲された最大のもので約34センチ、重さは500g以上。下は市場や料理屋でよく見られる大きさのもの。17インチのディスプレイにもおさまりませんが、ぜひダウンロードして大きさを体感してください。


2001(平成13)年10月29日

国土交通大臣 扇 千景 殿
環境大臣  川口 順子 殿
熊本県知事 潮谷 義子 殿

財団法人 日本自然保護協会
理事長  田畑 貞寿

熊本県球磨川支流・川辺川におけるアユ魚体調査結果に基づく川辺川ダム計画見直しに関する意見書(第2意見書)

財団法人日本自然保護協会(NACS-J)は、国土の自然環境を生態系として保全し、生物多様性を守る立場から、国土交通省が計画中の熊本県球磨川支流・川辺川における川辺川ダム建設計画に対し、2001年3月6日に意見書を提出しました(川辺川ダム予定地域における大型アユ生育環境の評価とダム計画の見直しに関する意見書)。

その中では、2000年度に実施したアユ魚体調査結果に基づき、国土交通大臣には、1)ダム本体の建設凍結、2)自然の価値評価とダムの影響に関するアセスメントの実施、そして3)ダム建設そのものの必要性・妥当性の再検討こそが必要であることを申し述べました。また、環境大臣には、生物多様性保全の担当責任者として、これらの実現を国土交通大臣に進言し、川辺川の自然環境に対する環境省としての評価を示すべき、と要望しました。

しかし、現在までのところ、国土交通省九州地方整備局はあいかわらず環境アセスメント法成立以前の、既に時代遅れとなった旧来の取り決めを盾に、金銭による漁業補償等を行うだけで建設に着手しようとしています。環境省としての評価も、いまだありません。

アユは、地域において最も重要な漁業資源かつ観光資源となっている魚種で、川辺川の河川生態系の主要構成種です。このような資源となりうるのは、単にアユが存在するためではなく、その質が極めて高いためです。その質は、現在の川辺川河川生態系の機能が十分発揮されている結果であり、この生息環境の保全なくしては、これらの価値は消失します。

別紙は、昨年から開始し、今年度も継続したアユ魚体調査結果の速報で、昨年度同様、川辺川の漁民有志、熊本在住のNACS-J会員・NACS-J自然観察指導員の協力のもと、全国から寄せられた寄付金を用いて調査したものです。球磨川水系3流域7箇所において採捕したアユの魚体を計測比較するという方法も、昨年同様です。3流域とは、1)川辺川ダムが計画されている「川辺川」、2)川辺川と合流後の「球磨川下流」、そして3)川辺川と合流以前の「球磨川上流」で、球磨川の上流には既に熊本県営の市房ダムが存在します。

今年採捕できたアユの総数は 393尾、昨年同様、全ての全長・体長・体高及び体重を計測し比較しました。その結果、3流域で育つアユの体格には間違いなく有意差があり、川辺川のアユは、「サイズ」「肥満度」共に既にダムのある球磨川上流と比べ大きいこと、また捕獲されるアユの個体数は、球磨川下流と比べて多いことが明らかとなりました。

現在、このようなアユの体格に関係する要素、その生息環境における違いを明らかにすべく、アユの魚体(体格)調査と同時に進めてきた、水質・水温、珪藻調査の結果をまとめており、これらとアユの調査結果の重ね合わせがまとまり次第、順次公表する準備を進めています。

大型のアユを育む河川環境は、将来世代に対して最も優先的に継承すべき自然資産であり、それは地域の財産であると共に、国民共有の自然資産です。これらの価値評価を正しく行う前に自然環境に不可逆的な変化を与え、自然生態系を攪乱するダム建設を強行することは、環境問題解決の現代的な姿勢ではありません。環境問題の解決には、世代間倫理と予防原則の堅持が何より必要であるということは、現代の常識となっています。

以上のことから、川辺川ダム計画に対し、再度以下の意見を述べるものです。

(1)国土交通大臣は、川辺川ダム計画において、法律に基づく環境アセスメントを実施すべきである。また、川辺川産アユとその生息環境について、今までのすべての科学的資料に関して科学的な討議とそのまとめを行う、国土交通省・NACS-Jの双方が推薦する研究者で構成する「専門家パネル」の設置を、ここに強く要望する。

(2)環境大臣は、国土交通省が、川辺川において法律に基づく環境アセスメントを実施するよう早急に進言すると共に、川辺川の自然環境を科学的に評価し、このダム建設の妥当性を政府として評価するよう、閣議において提案すべきである。

(3)熊本県知事には、NACS-Jが国土交通省に川辺川のアユに関する「専門家パネル」設置を要望することに対し、ぜひともご支持を頂きたい。

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