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九州・川辺川—「尺鮎」は本当だった

2001.04.01
活動報告

川漁師の証言を裏付けた緊急調査レポート

会報『自然保護』No.455(2001年4月号)より転載


熊本・川辺川で計画されているダム建設計画はここにきて自然保護問題として大きな動きが目立っている。熊本のNACS-J会員の要請をうけ、NACS-Jでは、これまでにもクマタカの繁殖状況調査の支援などを行ってきた(コラム参照)。

そして、”ダムができたらアユは捕れなくなる”という川漁師の経験的知識を、科学的データで実証しようと始まった「川辺川のアユ魚体調査」は、多くの方々のご支援・ご協力と、全国から寄せられた寄付金によって昨年9月、調査を実施することができた(『自然保護』誌451号参照)。

川辺川が注ぎ込む球磨川本流の上流部には市房ダムという県営ダムがあり、川漁師の皆さんはダムにより河川がどう変化したか、つぶさに見てきた。ダム建設で河川の自然環境がどのような影響を受けるかは、本来であれば、環境アセスメントによって科学的に予測し、対策を講じる。

しかし、川辺川ダムは環境アセスメント法が整備される前の35年前に計画が決定されたため、環境アセスメントが適用されず、科学的な調査や第三者が審査する影響予測、それらの市民への情報提供などがなされず、事業者の自主調査がなされただけで現在に至っている。

 

ダムのある川とない川の違いは

「川辺川のアユ魚体調査」は、産卵のためにアユが流下する直前の2000年9月8~10日に実施。漁民有志、熊本在住のNACS-J会員・NACS-J自然観察指導員の協力のもと、球磨川水系の3流域7カ所で、383尾のアユを捕獲した。

そのすべてのアユについて、全長・体長・体高・体重を計り、1.大型ダムのまだない「川辺川」、2.川辺川と合流した後の球磨川「本流」(下流域)、3.すでに県営の市房ダムがある川辺川合流前の「球磨川」(上流域)の3流域で比較した。

その結果、ダムのある球磨川とダムのない川辺川では育ったアユの体格に違いが見られ、体長・体高・体重で川辺川アユの大きさが勝っていた。アユの「肥満度」でも、川辺川のアユは球磨川上流、合流後の球磨川本流の2地域に比べて1ランク大きく、アユを育てる力がほかの二流域に比べて大きいことがわかった。

「肥満度」は、魚の体格を表す指標のひとつで、体長と体重の一定の比率によって求めることができる。放流などによる影響もあるので、肥満度を使って川と魚の質の一般的な関係を説明することは難しいとされるが、アユのような1年魚の場合は、肥満度の変化でその生息環境の変化をおおよそ読み取ることができる。

NACS-Jでは今回の調査結果をふまえ、ダム建設が川辺川のこのような良好なアユ生育環境に悪影響を与えることは明らかであるので、国土交通省にはダム建設計画を凍結し、川辺川の自然環境を正しく評価する調査を実施するよう、強くのぞむ、とする意見書を3月6日、国土交通省と、環境省に提出した。

▲3月6日、アユの調査結果と意見書提出について記者会見を行った。

これに対し3月9日、国土交通省川辺川工事事務所は、同省が昭和61年以降3年間行ったアユ魚体調査結果をもとに「川辺川のアユの魚体について、他の2流域と比較して大きいという傾向は見られない」と反論、さらに「法的な環境アセスメントについては必要ない」との立場を崩さなかった。

ダムができても、例えば「清流バイパス」(上流から流れてきた清流を、ダムを通過させずにダムより下に流す対策)などが考えられており、水質は維持されるというのが国土交通省の主張である。
しかし、同省の調査は、調査時期がアユが十分に成長する以前の5、6月であったり、産卵のために下流に下った時期で、他の2流域との差がないのも当然といえるものであった。
 

アユが育つ環境の調査も開始

ただし、今回のNACS-Jの調査も、川辺川が大型のアユを育む河川環境であることまではいえても、それがどのようなしくみによるかについては未知のため、今後さらに調査が必要と考えている。

今年は、春には、球磨川河口に遡上した稚アユの平均体長などを、アユ猟解禁後(初夏または夏)には、川辺川と球磨川本流で漁獲されたアユの体長・体重・形態を継続して計測する。とくに、生息環境による体高比と背鰭の形状の違いなどを比較。

産卵期の10月(流下しはじめる時期)には、川辺川と球磨川本流で、両者の体長・体重・形態を再度計測する。その上で、水質や餌であるケイ藻の調査結果と重ね合わせてはと考えている。

ぜひ、この調査活動へのご支援をお願いいたします。

(志村智子 普及・広報部)

▲大型のアユを育てる環境の違いを知るための、水質・地形調査なども開始した。

コラム 川辺川のクマタカ

熊本・川辺川のダム建設計画で、流域に生息するクマタカにどのような影響があるのか、これまで事業主体の国土交通省とNACS-J会員を中心とした熊本県クマタカ調査グループは、それぞれ調査を行い、お互いの主張を述べてきたが、両者が同じテーブルにつくことで、ようやく本格的な協議が実現したことは本誌昨年11月号でご報告したとおりだ。

川辺川・藤田谷に繁殖地をもつクマタカペア(種の保存法・制令指定種)は、ダムサイト建設の原石採取予定地が営巣地に近く影響が心配されることから、両者がこのペアの行動圏について調査結果を公表したが、原石採取予定地とされた範囲(通称:原石山)の評価を巡り、調査グループは「繁殖の継続に特に重要な地域で十分な保護が必要」と主張したのに対し、同省は「原石採取の影響は比較的小さく計画の微調整で足りる」とし、双方の主張は対立していた。

日本自然保護協会と熊本県クマタカ調査グループは、この主張の対立は、判断の元になる調査方法や分析によるのではないかと考え、昨年10月4日の協議で提示された同省の公表資料と、自分たちの調査結果を比較検討した。

その結果、同省が原石山を「クマタカの繁殖テリトリーをかすめる程度」と判断した原因は、調査期間が短く、1回の調査での観察者の配置位置の数も少なく全体をカバーできていないなど調査の実施体制にあるとして、「国土交通省・川辺川工事事務所における藤田谷クマタカペアの行動圏調査の体制と、使用した調査ステーションの問題点」を1月29日に共同発表した(NACS-Jホームページに全文掲載)。

今後、同省には調査の技術的な問題点を改善した上で、再度「クマタカペアの繁殖活動の継続にとって意味のある保全範囲」を判定し直してほしい。また、協議を形だけに終わらせないために、両者の資料をすべて出し合い、第三者の専門家グループの判断と考察を依頼するなど、調査結果の信頼性を高め、川辺川の自然保護にとって有益な議論の場となるよう、展開を期待したい。

(高津紅実 普及・広報部)

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