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「場合によっては 空港建設計画そのものを大胆に見直しを」

2000.12.22
要望・声明

沖縄県石垣島・新石垣空港建設予定地におけるコウモリ類の生息環境保全に関する意見書


 

2000(平成12)年12月22日

沖縄県知事
稲嶺 恵一 殿

財団法人 日本自然保護協会
理事長 田畑 貞寿

 

沖縄県石垣島・新石垣空港建設予定地における
コウモリ類の生息環境保全に関する意見書

(財)日本自然保護協会は、国土の自然環境を良好に保全し、我が国の生物多様性を保全する立場から、貴県の新石垣空港建設計画に対して、1988年よりたびたび意見の提出をしてきました。これまでの意見は、特に空港計画地域周辺海域の白保サンゴ礁生態系を対象とする海域保全に関するものでしたが、今回は、先頃貴県の空港計画地の予察調査にて確認されたという、数種のコウモリ類とその生息環境の保全について意見を申し述べるものです。サンゴ礁生態系もコウモリ類の保護も、特定の生物種の保護にとどまらず、ともに八重山地域における生物多様性保全の観点からきわめて重大な課題といえます。

このコウモリ類の生息については、平成12年11月22日開催の第3回新石垣空港建設位置地元調整会議において、貴県から当該地域に存在する洞窟の予備踏査結果が示され、これらの洞窟に、環境庁のレッドリスト及び貴県のレッドデータブックに記載された生物の生息を認めたと報告されました。この報告において注目すべきは、リュウキュウユビナガコウモリ、ヤエヤマコキクガシラコウモリ、カグラコウモリの3種がすんでいるという点で、これらは環境庁レッドリストにおける「絶滅危惧?類」(絶滅の危機に瀕している種) のうち、「?B類」(近い将来における絶滅の危険性が高い種)として記載された、生息環境保全の緊急性が特に高い生物種です。

これらのコウモリ類の保護のためには、その永続的な生息に必要なひとまとまりの生息環境(生息の中心地である洞窟、餌動物の生産の場及び成獣・幼獣の餌場となる周辺の森林、それらを結ぶ飛行ルートと水系等)の保全を含む、適切な一帯の自然環境保全が必要です。
これまでに全国で進められてきた開発の中では、このような生物の生息が認められたとしても、他の場所にも生息するので気にかけない、あるいは他の地域に移転するであろうといった、自然環境保全への配慮を欠いた安易な考え方と対処が長く問題にされてきました。当該事業におけるこの問題の検討に際しては、このような考え方が、これらコウモリ類をレッドリストに掲載されるような絶滅の危機に追いやってきたことを十分認識した上でなされるべきと考えます。これらのことは、本年4月に施行された環境影響評価法でも「生物多様性の確保および自然環境の体系的保全」が環境影響評価の対象となり、また単に環境基準をクリアするというのみにとどまらず「環境保全の観点からよりよい事業計画を模索する」という発想の基本的転換がなされるなど、それまでの閣議決定アセスメントとの基本的な違いとなっています。すなわち、自然環境保全上の制約に合わせて事業計画そのものを変化させていくことの重要性です。

石垣島と同様八重山諸島に属する、西表島大富地区に沖縄県八重山支庁農業水産整備課が計画した「県営農地開発事業大富地区(竹富町)」の中では、農地開発地に隣接してやはりこれら3種のコウモリの繁殖・生息が確認されましたが、必要な時間をかけた調査の実施とその結果の検討、及び事業主体・地元住民・調査に当たった地域自然保護団体を中心とする、当協会を含む関係者による協議を行った結果、上記の保護の必要性が認識され、地域にとって重要な農地開発事業ではありましたが、大幅な計画縮小と変更がなされるに至っています。今回の空港計画における問題の解決においても、同じ県行政が実施する事業として、対処方針等の一貫性・整合性が保たれる必要があります。

以上のことから、新石垣空港建設計画地と絶滅の危機に瀕するコウモリ類の生息環境の保全に関する今後の検討と対処に対し、以下のことを強く要望するものです。

(1) 確認された3つの洞窟を中心とする十分な調査を計画・実施し、コウモリ類専門家・知見を持つ自然保護団体を含む検討の場で、科学的根拠に基づいて事実を把握し、空港建設計画との関係を検討すること。

(2) 調査結果及びその検討によって必要とされた場合は、空港建設計画そのものを大胆に見直すこと。

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