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第3次海上の森・万博問題小委員会調査報告書(森林)

2000.05.19
活動報告

『海上の森南地区博覧会場が自然環境に与える影響』
~NACS-J保護委員会/第3次海上の森・万博問題小委員会調査報告書~


 

吉田川流域の森林の重要性

 

広木詔三(森林・名古屋大学教授)

吉田川から愛工大へ抜ける道は、砂礫層地帯である海上の森の西地区と花崗岩地帯である南地区を隔てる谷となっている。この谷を隔てて、海上の森の西地区は以前の万博会場予定地の屋戸川を中心としたBゾ-ンと同様の砂礫層で覆われている。

したがって、そこには東海丘陵要素であるトウカイコモウセンゴケが生育したり、ハッチョウトンボの生息する湿地が存在する。南地区では、コナラやアベマキの発達した落葉広葉樹林となっている。

海上の森の特徴は、青少年公園から八草地域にかけて広がる砂礫層地帯と猿投山山麓一帯に分布する花崗岩地帯とが出会う地域となっているいうことである。風化した花崗岩は土壌を形成しやすく、土壌の発達した花崗岩地帯では発達した森林が成立するのに対して、砂礫層地帯では、チャ-トの礫を含む母材は土壌の発達が悪く、痩せ地であるため森林の発達も十分ではない(狐崎1999)。

砂礫層地帯(当初のBゾ-ン)と西地区の砂礫層地帯の違いは、西地区ではアカマツに加えてモンゴリナラの密度が高い、ということである。モンゴリナラは痩せ地に分布するという特性を有している(広木1982)。したがって、西地区はかってのBゾ-ンと同様の特性を有している。この痩せ地における疎林がオオタカがの餌場を提供し、オオタカの行動圏としても重要な役割を果たしていると考えられる。

博覧会協会や新住事業における森林の評価は、植生自然度や潜在自然植生を用いてなされているが、これらの評価基準では、雑木林からなる里山の評価としては十分でない。南地区の森林は、薪炭林としての森林の伐採によって維持されてきたものであることは疑いのないところであるが、森林の伐採を停止してから 40-50年は経過しており、二次林と言え、胸高直径30-40cm の多くのコナラやアベマキからなるものである。

このような発達した二次林は、海上の森の他の地区ではあまり見られず、ムササビの生息環境としても、多くの野鳥の生息の場としても重要な役割を果たしていると推測される。そもそも、当初の新住計画の環境アセスメントの評価は、雑木林の評価に関して、きわめて不十分なものであったが、このような雑木林のきちんとした評価なしで、開発の計画のみが先行すべきではない。

最も懸念されることは、万博のシンボルゾ-ンとしての開発計画は、吉田川峡谷を挟む谷の南側斜面の尾根部にあたることである。オオルリ、サンコウチョウ等の繁殖に大きく影響することが予測される。とくにサンコウチョウは、鬱蒼とした環境の森林を繁殖の場としているので、南地区の開発計画は、サンコウチョウの生息や繁殖への影響は無視できない。したがって、あらためて環境アセスメントを実施して、開発の影響を評価する必要がある。

[文献]
狐崎康子(1999)愛知県瀬戸市南東部丘陵地域の砂礫層分布域と花崗岩分布域に発達している植生の違い。名古屋大学情報文化学部卒業論文。pp.1-19.
広木詔三(1982)愛知県小原村の花崗岩地帯における二次林の動態。名古屋大学教養部紀要B (自然科学・心理学) 26:85-102.

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