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プリザベーション(やさしくわかる自然保護7)

2000.03.27
解説

月刊『自然保護』No.431(1998年11月号)に掲載された、村杉事務局長による自然保護に関する基礎知識の解説を転載しました。
自然保護に関する考え方や概念それに用語など、基礎的なデータベースとしてご活用ください。各情報は発表当時のままのため、人名の肩書き等が現在とは異なる場合があります。
やさしくわかる自然保護 もくじ


プリザベーション ~アメリカの国立公園~

人は、生態系のしくみやそれを構成している生物をすべて知っているわけではない。また、一度滅びた自然は二度とつくれない。

このような考えのもとに、自然度の極めて高い地域は人手を加えずにそのままの状態に放置しておこう、というのがプリザベーションであり、この思想に基づいてつくられたものにアメリカの国立公園制度がある。その第一号がイエローストーン国立公園であった。

今から10年前の夏、この公園が大火災に見舞われた。山は2カ月半にわたって燃え続け、9月に降った雪で鎮火したのだが、この間「人為的には消火せず」とプリザベーションの原則を貫こうとする公園局と、「消火すべき」という意見の人々とのあいだで論争があったのを思い出す。

さて、話を130年前に戻そう。当時のアメリカは建国後100年、人々は新天地を求めて開発を繰り返していたが、まだ中西部には未開発の広大な自然が残されていた。

1870年イエローストーン地方を探検した人々は、そこに広がる大自然に深く心を動かされ、「この霊域はすべての人類、すべての生物に自由と幸福を与えるために神が創造されたもので、決して私有物にしたり、少数の利益のために開発すべきものではない」として、政府に「この地を国民のために永久に保存するには国立公園とすることが適当」と提言したとされている1)。こうして1872年に世界初の国立公園が誕生したのである。

文明を築くためには自然の開発を善とみなすキリスト教的な自然観のなかで、それに歯止めをかけようとするこのような考えは、当時は非常に新しいものであったことが容易に想像される。これもすでに北米大陸の各地で起こっていた、かなりの開発の反省の上に生まれたものであるわけだが、この制度をきっかけに世界各国で国立公園設置の動きが起こっていく。

日本でもアメリカのような国立公園を、という声の高まりを受けて1934年に瀬戸内海・雲仙・霧島が日本初の国立公園となり、現在では28カ所が指定されている。

しかし日本の場合は国土が狭く、古くから土地利用がすすんでいたために、指定地のなかに民有地も含まれている。また、当初の設置目的もアメリカのように開発の反省がベースになっていたわけではなく、むしろ風光明媚なところに国のお墨付きを与えて、外国からの観光客を誘致して外貨を稼ごうというねらいがあったようだ。

戦後は電源開発や観光開発の名のもとにブルドーザーの餌食になったのは前回も触れた通り。今日では大規模開発こそなくなったが、依然として保護より利用に重点がおかれ、プリザベーションにはほど遠いのが日本の国立公園である。

(村杉幸子・NACS-J事務局長)

 

<参考資料>
1)東良三「アメリカ国立公園考」淡路書房(1948)

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