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「埋め立ての必要性には根拠なし」

1999.02.04
要望・声明
問題点ととるべき方策を指摘した意見書を提出

 

東京湾の一番奥に位置する干潟・三番瀬(さんばんぜ)の保全に関してNACS-Jは、1999年2月4日、下記の内容の意見書を提出し、あらためてこの事業の問題点を浮き彫りにし、とられるべき方策を指摘しました。

長崎県・諌早干潟の締め切りのあと、愛知県・藤前干潟では埋め立て回避へとすすみ、三番瀬の埋め立て事業も今、大きなターニングポイントを迎えようとしています。事業主体である千葉県自身による調査で、この埋め立て事業が地域の自然環境に大打撃を与えることが明らかになり、その発表を踏まえて1999年2月8日には、計画策定懇談会が開かれ、埋め立て事業自体の見直しが検討されます。その中からどのような結論が導かれるか、そして千葉県はどのような判断を下すか。21世紀の私たちの暮らしのためにも、市民として厳しい目で見守っていく必要があります。

NACS-J編集広報部・広報担当主任 森本言也

 

千葉県知事   沼田 武 殿
運輸大臣    川崎 二郎殿
建設大臣    関谷 勝嗣殿
環境庁長官   真鍋 賢二殿

                           財団法人 日本自然保護協会
会 長  沼田 眞
理事長  奥富 清


三番瀬埋め立て
(千葉県市川二期地区・京葉港二期地区計画)

に対する意見書

千葉県は、昨年10月「市川二期地区・京葉港二期地区計画に係る環境の現況について」をまとめ、今年1月25日「市川二期地区・京葉港二期地区計画に係る補足調査結果報告書 予測編」を発表しました。この一連の調査は、事業の計画段階での環境アセスメントを実施し、事業計画の見直しを検討しようとするもので、その姿勢を評価します。

当協会は、1991年千葉県および関係機関に対して、三番瀬の保全を求める意見書を提出しました。補足調査結果は、当協会がその時に発行した「三番瀬埋め立ての問題点(NACS-J資料集29)」をはじめ、これまでに発表されている三番瀬の自然環境に関する調査報告が指摘していたとおり、埋め立て計画が三番瀬の自然環境へ与える影響が多大であることを、事業主体である千葉県自らが科学的データによって明らかにしたものとして注目しています。
足調査結果に従い、千葉県は環境アセスメントの主旨から、計画を根本的に見直して、環境へ与える全ての影響の回避をはかる必要があります(「環境影響評価法」に基づく基本的事項,1997)。補足調査で得られた知見を最大限活用し、影響を回避してこそ、多くの時間と予算を費やした調査が意味を持ちます。

しかし、今日まで千葉県は計画の縮小方針は示すものの、計画の必要性について検討することを目的に設置した「計画策定懇談会」での議論を待たずして、埋め立て計画の根本的な見直しについては否定し続けています。また、下水道終末処理場、湾岸道路、都市再開発用地等については、計画縮小後も埋め立て地に用地を求めると聞いておりますが、それぞれの計画の必要性、代替地の検討結果などのデータは未だ示されておらず補足調査結果と比べて、埋め立てが必要であるという主張は著しく根拠を欠くと言わざるをえません。

当協会は、県の補足調査結果及びこれまでの三番瀬の自然環境に関する既知の研究成果に基づき、三番瀬の干潟・浅海域は他に代替できない重要な地域であるとの認識に立ち、その保全を求め、関係各機関に対し、以下に意見を申し述べます。


 

1.  千葉県は、補足調査結果を重く受けとめ、埋め立て計画を根本的に見直すべきである。計画を縮小した上で、下水道終末処理場、湾岸道路、都市再開発用地等さらに埋め立て地に用地を求めようとするのであれば、代替地を検討し、干潟を引き替えにしなければならない合理的な理由を明らかにし、市民に意見を求めるべきである。
2.  千葉県は、三番瀬を将来にわたって健全な漁業及び自然との豊かな触れあい活動の場として、自然環境の持続的な活用をはかりつつ保全する地域として位置づけ、ラムサール条約への登録を推進すべきである。保全にあたっては、三番瀬の保全と利用の望ましいあり方について、専門家だけでなく、市民・NGOの参加を得て十分に議論を尽くしてルールづくりを行うことを要望するとともに、全国の干潟・浅海域保全の範となることを期待する。
3.  運輸省は、「京葉港二期」の埋め立て計画を見直すとともに、残された日本の干潟・浅海域の保全のため、埋め立て・港湾開発事業のあり方を根本的に見直し、港湾区域内の自然環境保全を事業目的の一つとすべきである。
4.  建設省は、「市川二期」「京葉港二期」両埋め立て計画にかかる、流域下水道終末処理場、湾岸道路計画を根本的に見直すべきである。
5.  環境庁は、干潟・浅海域の自然環境保全上の重要性に基づき、計画変更に向けて、また、三番瀬を将来ラムサール条約指定地とするために関係各機関に対して指導・助言することを要請する。

<理由書>

1.日本の干潟の危機的な現状

日本の干潟は、経済成長にともなって急速に減少し、現在では50年前のおよそ6割しか残されていない。最も多い消滅原因は「埋め立て(42%)」である(第4回自然環境保全基礎調査海域生物環境調査報告書,環境庁,1994)。(財)日本自然保護協会の「全国の主な干潟の現状調査(1998)」(詳細はこちら)によると、少なくとも、日本の主な干潟37カ所のうち半数以上の干潟が、埋め立てや港湾施設等の開発計画により危機にさらされている。今、残されている干潟を保全しなければ、日本から干潟は消滅してしまうであろう。

諫早干潟の干拓、藤前干潟埋め立ての問題が全国的に認知されるに伴い、国民の干潟への関心は高まり、各地でその保護を求める声が大きくなっている。このことを重く受け止めるべきである。

干潟・浅海域生態系の重要性は、環境基本計画において「自然と人間の共生の確保」の中で明確に位置づけられているばかりでなく、生物多様性条約、ラムサール条約、渡り鳥保護に関する二国間条約等の国際条約の中でも重要な位置づけをもっており、その保護は国際的な緊急課題である。

2.三番瀬の自然環境の重要性
当協会は、1991年に、埋め立て計画の自然環境保全上の影響について総合的に検討した「三番瀬埋め立ての問題点」を発表し、「三番瀬は東京湾奥部で最大、最後の干潟・浅海域であり、大都市東京・千葉に隣接する重要な自然環境である」と結論づけている。
(1)
多様な生物を育む干潟
・浅海域の生態系
三番瀬は、多様で豊富な生物の生息地、魚類の産卵と成長の場、渡り鳥の中継地という生物の生息環境として、生物多様性保全上重要な地域となっている。

三番瀬で確認された生物の中には、補足調査結果で影響あるとされた、マハゼ、ヒメハゼ、ギンポ、イシガレイなどの魚類のほかに、海産ほ乳類のスナメリなど希少種が含まれ、開発の進んだ東京湾の中でその自然の豊かさを特徴づけている。
また、国境を越え長距離の渡りを行うシギ・チドリ類の鳥たちにとって、採餌・休息の場である干潟は各地に連続して点在することでネットワークとして機能する意義が大きい。三番瀬は、1997年に環境庁が発表した渡来数の多い重要なシギ・チドリ類渡来湿地目録に登録され、日本国内および国際的な干潟のネットワーク拠点として保護が求められている。しかし、補足調査結果によれば、ダイゼン、シロチドリ、メダイチドリ、オオソリハシシギ、チュウシャクシギ、キアシシギ、キョウジョシギ、ミユビシギ、トウネン、ハマシギ、ミヤコドリなどに大きな影響が及ぶとされている(補足調査予測編,1999)。

(2)
東京湾の水環境を維持する
物質循環の場
東京湾では、埋め立てが進んだ結果、現在残されている干潟・浅海域は盤州干潟、富津干潟、三枚州、三番瀬だけとなっており、中でも三番瀬は最も広い面積を持ち、東京湾の水環境を維持する上で重要な位置を占めている。

三番瀬は、人による漁業活動や、干潟・浅海域生態系の多様な生物の活動を含む物質循環をとおして、海水中の有機態窒素を無機化する二次処理のみならず、鳥の採餌や漁獲をとおしての海域からの栄養物の取り上げや空気の成分である窒素ガスとして大気中に戻すという三次処理を行い、浅海域全体ではT-Nにして575t/年、CODにして2,245t/年というきわめて高い水質浄化機能を果たしていることが明らかにされている。これを下水処理場の浄化能力に換算すれば97,100 /日、約13万人分に相当する(補足調査現況編,1998)。三番瀬は、東京湾の水質の富栄養化を抑制するだけでなく、地球環境の健全な維持に貢献しているといえる。

このことから、「東京湾全体が一つの水域環境であり、望ましい水域環境実現のため、現存する干潟・浅海域を保全し、海面の埋め立ては抑止することが基本である(東京湾水域環境懇談会中間報告,環境庁,1990)」と言える。

(3)
江戸の文化を継承し、
自然との共存の知恵を学ぶ場
三番瀬やその周辺海域では、今でも伝統的内湾漁業が営まれている。東京湾と地域社会が作り上げてきた東京湾の内湾漁業と食文化を、首都圏の歴史と文化の遺産として未来に引き継ぐためにも、三番瀬を好漁場として保全する必要がある。

また、潮干狩りや魚とり、水遊び、自然観察など、人が自然と触れ合う場、自然体験をとおして自然への理解を深める環境教育の場として、ますます重要性が高まっている。三番瀬は干潟・浅海域生態系のもつ自然そのものの価値だけでなく、人が自然と共存し豊かに生きる上で文化的、精神的に大きな価値をもっている。

(4)
人工干潟では代替できない
干潟・浅海域生態系
三番瀬の自然は、微妙な干潟・浅海域生態系のバランスの上に成り立っており、その歴史性、浄化機能、人との関わりなどどれをとっても人工的な技術で代替できるものではない。代償措置として検討されている人工干潟については、「実績が乏しくその環境保全上の効果の評価も定まっていない」ばかりか、「仮に環境の質の低いところで実験を行うにしても、人工干潟が定常状態に達するまでに少なくとも5~10年あるいはそれ以上の期間が必要であり、実験の評価にもこの程度の年月を要すると考えられる。」(「藤前干潟における干潟改変に対する見解について(中間とりまとめ)」環境庁,1999)。

また、「人工干潟」実態調査委員会(藤前干潟を守る会・日本湿地ネットワーク・世界自然保護基金日本委員会・日本野鳥の会および日本自然保護協会で構成)が広島県五日市地区人工干潟、葛西海浜公園、大阪南港野鳥公園等、既存の人工干潟を調査した結果、人工干潟は面積、地形、生物の多様性・種数及び現存量、シギ・チドリ類の食物、水質浄化機能、造成と維持費用など全ての面で自然の干潟に及ばないことが明らかとなっている(人工干潟調査報告書,「人工干潟」実態調査委員会,1999)。

よって当協会は、人が自然とうまく関わりを保ちながら、三番瀬を将来にわたって保全すべきであると考える。

3.開かれた議論と合意形成の重要性
千葉県は、補足調査結果を基に「計画策定懇談会」において埋め立て計画の必要性を検討するとしているが、今後は計画の必要性の検証とともに、三番瀬の保全を軸に計画の見直しと地域整備のあり方について議論を進めることが重要である。このとき、市民に対して計画に関わる情報を速やかに提供し、市民が議論に参加する場、市民の意見を広く集める仕組みを設ける必要がある。

また、補足調査は、物質循環と浄化機能、青潮の発生機構、海生生物、鳥類のそれぞれについて科学的手法によってその現況を把握したものとして評価できるが、三番瀬の自然環境の全体像を捉えているものではない。干潟・浅海域生態系を理解する上で重要視しなければならない生態系の評価や、人と自然のかかわりについての現況把握・評価は示されていない。また、例えば鳥類に関するデータについていえば、市民グループである千葉県野鳥の会は、三番瀬で長年定期的に観察記録をとり続けており、限られた期間で行われた補足調査では捉えきれていない確認個体数や干潟間の移動状況などの詳細なデータを蓄積している。

以上のことから、補足調査結果に加え、研究者やNGO、市民の既知の研究成果からデータと知見を集め議論の土台となる三番瀬の自然環境の価値を明らかにし、検討を進める必要があるといえる。そして、自然環境を把握する上で、調査によっては限界があることを認識し、未知の部分についてはあらゆる可能性を視野にいれて環境保全のために慎重に対処する必要があることを申し添える。

おわりに

なお、(財)日本自然保護協会では、近日中に専門家からなる検討会を設置し、最新の知見を加え、特に生態系および人との関わりの視点から三番瀬の自然環境保全の重要性について再度見解をまとめるとともに、三番瀬を保全する上での問題点を分析し、永続的な三番瀬保全のために必要な事柄、三番瀬の保全と利用のあり方等について検討し、提案していきたいと考えている。

以上

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