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吉野川第十堰問題に関するコメント

1997.12.12
要望・声明

1997年12月12日

吉野川第十堰問題に関するコメント

財団法人 日本自然保護協会
普及部長 中井達郎

(財)日本自然保護協会は、1989年以来河川問題調査特別委員会を設置し、自然保護の視点から日本の河川のあり方について検討してきた。特に長良川河口堰問題、北海道・千歳川放水路計画問題については、独自調査結果を含めた科学的な検討にもとづき、関係各方面に意見を述べてきた。

吉野川第十堰についても、1997年4月に徳島県知事、徳島県議会議長ならびに建設省四国地方建設局徳島工事事務所長に「吉野川第十堰問題についての申し入れ」を行うなど、自然保護の観点から重大な関心を寄せている。

本日、徳島県自然保護協会が「第十堰可動化の環境に与える影響について(見解)」をまとめ、発表された。この機会に、吉野川第十堰建設事業審議委員会が、当該事業と吉野川下流域の自然との関係について検討を進めるにあたって留意すべき点をコメントする。

1.徳島県自然保護協会が指摘した数々の疑問・未解決課題を十分に検討すべきである。
「第十堰可動化の環境に与える影響について(見解)」には、数々の疑問や未解決の課題が示されており、吉野川第十堰建設事業審議委員会はまこれらの指摘について、慎重かつ十分に検討を進める必要がある。その際に新たなデータが必要であれば、追加調査も行われなければならない。

2.長良川河口堰などでの科学的知見を十分に活用すべきである。
長良川河口堰では、当協会並びに地元研究者や市民によって、堰運用後のモニタリング調査が続けられ、その成果も逐次発表されている(注1)。吉野川第十堰建設事業審議委員会は、このような既設の河口堰が自然環境に与える影響についての科学的知見を十分に活用すべきである。

3.既設の第十堰周辺の自然の多様性を適正に評価すべきである。
第十堰周辺では、伏流水・湧水、底質と微地形(注2)、植生の組み合わせによって、多様な環境が維持されている。そして多様な動植物が、その多様な環境を繁殖や生長、休息や採餌などの場として利用している。そしてそれ全体として、現在の景観が維持されている。このような自然の多様性および景観は地域の財産であるが、当該事業の実施によってこれらはすべて喪失する事を認識すべきである。

4.「自然回復・創造事業」を免罪符とすべきではない。
3.で述べように既設の第十堰周辺の自然の多様性および景観は、当該事業で確実に喪失する。もともとある自然と現計画の中での「自然回復・創造事業」で担保されるとする自然は、質的に全く異なるものであり、それらが適正に比較考量されたとは考えられない。影響緩和策を検討するのであれば、全く事業を実施しないという策も含めて、比較考量するのが、影響緩和策の基本的考え方である(注3)。

注1:たとえば、(財)日本自然保護協会長良川河口堰問題専門委員会(1996)長良川河口堰事業の問題点-第3次報告-「長良川河口堰運用後の調査結果をめぐって」.(財)日本自然保護協会報告書第80号,135p、

注2:第十堰本体が作り出している多孔空間も含まれる。

注3:自然環境アセスメントと研究会編(1995)自然環境アセスメント技術マニュアル(財)自然環境研究センターのp288を参照のこと。

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