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秋田・駒ヶ岳イヌワシ生息地の保全

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1994.10.01

田沢湖でのリゾート開発、中止へ

 

NACS-Jと日本イヌワシ研究会の合同調査、効を奏す

=月刊『自然保護』No.384(1994年10月号)より転載=


 

NACS-J保護部のスタッフと日本イヌワシ研究会のメンバーが、秋田、岩手両県庁に資料を提供するとともに、記者クラブで同時発表、その後、田沢湖町役場でもその結果を説明した。併せて、岩手県雫石町、JR東日本にも資料を提供した。

 

その結果、JR東日本からはその日のうちに、田沢湖のイヌワシに悪影響を与える地域での開発は中止すること、また全国で計画中の他のリゾート開発も自然環境の面から見直したいと発表された。田沢湖町からは、地域のあり方を考える資料として活用したい、という反応が得られた。一方岩手県でも、知事が雫石町でのスキー場計画に慎重姿勢をとることを表明した。

先月号(1994年4月号)でもご報告したとおり、NACS-Jは2月18日に秋田県田沢湖イヌワシ調査の最終報告を発表した。

 

行動圏の中は、四つの利用タイプに分けられた。 先月号ではふれられなかった調査結果を、追加してご報告したい。

この調査は、野生動物保護基金を活用して、NACS-Jが日本イヌワシ研究会と合同で行なった。1990年12月~1993年8月の約3年間で、調査総日数は104日、調査員人数は延べ1131人に及んだ。調査によって、615のイヌワシの飛行ルートを記録し、そこから割り出した行動圏の面積は2万3700ha、そのうち6800haは岩手県にまで広がっていた。さらに行動圏の中は、イヌワシの土地利用の違いから、次の4地域に分けられることがわかった。

ひとつは、営巣地を中心とした「占有地」(281ha)。この地域では、誇示行動や交尾行動、巣材採取などの繁殖行動が行なわれる。イヌワシの繁殖期間は1年の半分以上にわたり、この期間はつねにこの地域を中心に行動している。

次に、占有地を核とした「高頻度利用域」(756ha)。この地域は、繁殖期の中でもヒナの世話のために親鳥の行動が特に制約される時期の狩場を含んでいる。ここに生息するノウサギなどの餌動物量の安定が、イヌワシの繁殖の成否に直接影響してくる。

さらに、営巣地から半径6km以内の「繁殖期の行動圏」(8900ha)。ここには、繁殖期に利用する狩場が散在している。これらの狩場は、雪どけや樹木の芽吹きによって上空からの視界が遮られる時期、また子育て後半でヒナの食欲が増加してくる時期に利用される。

そして、全体の行動圏と一致する「非繁殖期の行動圏」(2万3700ha)。この地域は、親鳥と巣立ち後の幼鳥の3羽が餌を確保する範囲である。

イヌワシの生息環境を守るため計画の見直しを提案 またイヌワシの繁殖状況は、ヒナが巣立ち前に死亡したり、若鳥が巣立ち後に保護収容されるなど、新規のリゾート開発が行なわれていない現在でも急激に悪化していることがわかった。そこでNACS-Jは、行動圏の環境がどのような状況にあればイヌワシが生息し続けられるのかを検討した。その結果は、占有地は「十分な繁殖環境を保証する地域」、高頻度利用域は「今の自然環境の質と量を向上させながら保全する地域」、繁殖期の行動圏は「現存する植生面積を大規模リゾートなどの新設は規制する地域」、そして非繁殖期の行動圏は「生物の多様性の保全を図りつつ適切な人間活動を行なう地域」というもの。さらに、これをJR東日本のリゾート開発計画と照らし合わせ、次のように具体的な対応を提言した。

  • 開発計画のうち、イヌワシの高頻度利用域内に計画されていた2地区は計画を全面的に見直す。
  • 駒ケ岳山麓の既存スキー場は、イヌワシの繁殖期と営業期間が重なるため、営業期間を調整する、騒音を抑える、営巣地にごく近い所ではスキー客の出入りを控えるなどの配慮をする。
  • 岩手県雫石町のスキー場計画は、この地域でのイヌワシの生息状況を把握するまではいったん停止する、

などである。

田沢湖での成果を全国のイヌワシ保護に 冒頭でもご報告した通り、報告を受けたJR東日本の判断によって、イヌワシの行動圏内での新しい大規模開発は免れることになった。

そこでNACS-Jは、今後はこの地域が何らかの法的制度で保全されるよう、方策案を国会や関係機関にあらためて提示したいと考えている。保護部ではそれに向けて5月をめどに報告書の作成を進めている。

イヌワシは昨年、種の保全法の「国内希少野生動植物種」に指定された。しかし、国による具体的な保護事業は、まだ行なわれていない。日本イヌワシ研究会の調査によると、全国のイヌワシの生息数は約300羽、1年に巣立つヒナの数はわずか9~15羽。

この数はここ10年で急激に減少しており、それは繁殖地周辺の森林伐採やダム・道路建設などが原因であることが明らかになっているという。さらに、青森県岩木山、山形県鳥海山、群馬県三国高原などではスキーリゾート計画によって、福島県博士山ではリゾート開発や林道工事によって、イヌワシの生息地が脅かされている。現在、これらの地域のNACS-J会員でもある地元団体から、イヌワシ保護対策の協力要請がよせられている。

保護部では、田沢湖で得られた成果を全国のイヌワシ生息地の保全に役立てたいと考えている。

(編集部)

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