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岐阜・御嶽山の開発計画問題

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1994.09.16

岐阜県御嶽山・自然林地域における大規模リゾート計画に関する意見書


1994年9月16日

林野庁長官 塚本 隆久 様
名古屋営林支局長 鈴木宏治 様
環境庁長官 宮下 創平 様
岐阜県知事 梶原 拓 様
高根村村長 中井勉 様
朝日村村長 和田 幸雄 様
久々野町町長 東 季彦 様
小坂町町長 住 裕治 様
飛騨森林都市企画(株)代表取締役社長 伊庭 昌広様
JR東海(株)代表取締役社長 須田 寛 様

岐阜県御嶽山・自然林地域における

大規模リゾート計画に関する意見書

財団法人 日本自然保護協会
会  長  沼 田  眞

(財)日本自然保護協会は、日本名地の自然保護問題、とりわけブナ林をはじめとする国有林内の自然林保護問題に多大な関心を寄せてきました。

現在、岐阜・長野県境に位置する御嶽山の北西部に当たる岐阜県御嶽・鈴蘭高原地域では、林野庁のヒューマングリーンプラン(以下、H・G・P)の認定を受けるべく大規模リゾート計画が飛騨森林都市企画(株)(JR東海(株)、高根村 朝日村 久々野町、小坂町、(財)林野弘済会、飛騨大野郡農協の出資による第三セクター)によって立案され、事業策定調査報告が公表されています。

当協会では、日本林業技術協会により作成されたこの「御嶽・鈴蘭高原H・G・P総合計画策定構想」報告書(1991)を入手致しました。また1991年以降に、岐阜県自然環境保全連合(会長・岩田悦行氏)から2回にわたって関係機関に提出された、自然保護に関する要望書及び関係機関への質問書も入手しております。この要望書で述べられている自然保護に関する意見は、上記計画にとって参考にすべきものです。

御嶽山の自然保護上の重要性を踏まえ、当協会事務局では既存資料の収集に加え1994年8月12日に現地視察を行うと共に、前記策定構想における開発予定地とその自然環境との関係を検討致しました。その結果、この計画策定構想中には「何よりも優先して自然環境の保全との調和を図ること」がうたわれているにもかかわらず、その具体的な開発計画では、広範囲かつ高標高部の国有林の自然林伐採を前提とした大規模スキー場計画が中心となっていることが明らかになりました。

この計画は、近日中に事業者による環境影響調査準備書が岐阜県に提出され、説明会、準備書縦覧、県知事意見書の作成が行われる段階にきていると聞いております。またそれとほほ同時に、林野庁名古屋営林支局に対してH・G・Pの認定に向けての申請が進められるとされています。当協会は、現在予定されているこれらの事業化のための手続きが進められる前に、関係者による本計画自体の基本的な再検討が必要であると考えます。

計画の再検討が必要と思われる理由は、別紙理由書に詳述しました。その概要は、このスキー場計画に対して次の3つの問題点が指摘できることにあります。

第一は、この地域がかねてから県自然環境保全地域に指定すべき地域として県自然環境保全審議会が答申した範囲と重なっており、成層火山に発達した自然林をできる限りまとまった形で保全すべきところであること。この地域の重要性については、国指定の自然環境保全地域の価値を持つとの意見もある程です。しかし現況は、これらの保全策がとられないままに開発計画が進められています。

第二は、この地域における国有林の機能類型区分に問題があると思われること。当該計画地全域を「森林空間利用林」に区分していることは、現状の自然特性や達成すべき環境保全目標に合致しているとは思えません。また、開発計画に国有林の類型を合わせるといった恣意的区分に陥っていないか、本来の類型区分の趣旨に照らして検証すべき事例と考えます。

第三は、当該地域におけるスキー場計画の規模が妥当とはいえないこと。計画は標高2,200mという森林限界間近の高標高部までの開発を前提としています。これは現在の国内のスキーリゾート計画の中でも非常に高標高のものです。

山間町村の地域活性化は重要な課題ではありますが、当該事業は自然環境の保全と開発のバランスが現状では十分とれていないと考えられ、国有林管理の根幹にも影響を及ぽす問題を含む事例であると結論せざるをえません。

ついては、林野庁長官及び名古屋営林支局長には、当該リゾート計画地域の機能類型区分の見直しと、それに沿った開発計画変更への指導、また、H・G・Pと開発計画との関係のあり方についての見直しを、環境庁長官には、環境基本法の目標である「自然環境の体系的保全」に基づいた当該地域の自然林の評価と、岐阜県による保護地域化に向けての援助を、岐阜県知事には、県内の自然保護と適切な自然利用の双方に責任を持つ立場から、本計画に対する慎重な評価を行うと共に、地元関係町村の地域活性化に対して代替方策の提示等を含む指導と助言、そして適切な自然保護制度による御嶽山高標高部に対する地域指定にむけての検討作業の早期着手を、高根村、朝日村、久々野町、及び小坂町の各首長には、この自然林地帯の全国的にみた場合の価値の再評価と、現計画の土地利用に関する再検討、及び環境教育の拠点作り等を通した自然環境保全型の地域活性化方策の立案を、そして、事業主体である飛騨森林都市企画?、ならぴに第三セクターヘの大口出資者であるJR東海?には、特に公的な土地での自然環境の保全はさま首まな開発に優先すべだという社会認識が高まる中で、このような多くの問題点を含む計画をこのまま事業として押し進めることが企業にとって良策であるか否かについて、大規模リゾート計画の全国各地での失敗例も検証した上で、慎重な検討をされるよう、ここに強く要謂するものです。

 



「岐阜県御嶽山・自然林地域における

大規模リゾート計画に関する意見書」における理由書

(財)日本自然保護協会

 

1.岐阜県御嶽山高標高域の自然保護の必要性

1.御嶽山は、日本の中部山岳地帯の典型的な植生が高山帯から低山帯まで広がり、その垂直分布が成層火山特有の連続的かつまとまった形でみられる、学術的に重要な地域です。またこの地域は、1964年からの国際生物学事業計画(IBP)の日本における調査フィールドのひとつにもなってきました。このことは、当該地域の針葉樹林が日本を代表する森林のひとつであることを示しています。

御嶽山高標高域の植生は、森林限界の上の主として草本帯及びハイマツ帯と、森林限界の下のコメツガ・トウヒ・シラビソ・オオシラビソなどの針葉樹林帯から成り立っています。そしてこれらの樹林には、岐阜県内ではこの自然林地帯だけに確認されている日本特産のセリバシオガマやオサバグサ等の希少植物種の群落が生育しています。

2.当該地域の自然林は、中郡山岳地域の南方に位置していることから、本州中央部・内陸型の針葉樹林帯の南限に当たります。また独立峰であるため、かつては高山帯から低山帯にかけての連続的な垂直分布帯が典型的に現れている、生態学的にも貴重な自然植生域でした。しかしながら現在は、低山域はこれまでの拡大造林施業により本来の植生とは全く異なる様相を示し、現在はわずかに高山帯から亜高山帯半ばまでの連続性を保っているに過ぎません。

岐阜県側では、標高1,950m以高に特有の自然林が成立していますが、標高2,350m付近に森林限界があるため、自然林は山頂を中心とした幅1.5km程の環状に辛うじて残っているという状況です。環状に残る自然林の幅が約1.5kmという状況は、面的連続性をかろうじて維持しているものといえます。

現計画では、この針葉樹林を伐採してのゲレンデ造成とリフト設置が各所に予定されています。これは自然林の面的連続性を失わせることになり、生態系の存続にとって危機的事態をもたらします。これらのことから、この地域の自然植生は現状維持を最低限の目標として完全保存されるべきと考えます。

3.現在、当該地域の東側に当たる御嶽山の長野県側斜面は、県立自然公園に指定され、山頂付近は特別地域に指定されています。これに対し岐阜県側では、自然保護に関する制度的裏付けは全くなされておりません。

これについては、かつて標高1,600m以上の地域を岐阜県自然環境保全条例に基づく県自然環境保全地域として指定し、山頂周辺の標高1,800~2,000m以高の地域は特別地区にする必要があるとの報告が県によってまとめられています。

1973(昭和48)年には、ほぽこの報告に基づく原案通りの内容で県自然環境保全審議会の答申が県知事に対して出されています。しかし、その後この指定作業は進行せず、未指定のまま今日に至っています。高標高地域の自然環境は、 現在も長野県側・岐阜県側とも良好な状態であるにもかかわらず、岐阜県側のみ自然保護に関する制度的裏付けがなされておらず、制度上ひとつの山としてのまとまりを欠いているのが現状です。

中部山岳地域全域を見渡した場合にも、北には中部山岳国立公園があり、南には裏木曽県立自然公園があります。この中間に位置する御嶽山における地域指定の欠落は、中部山岳地域に対する一貫した環境保全対策の不備でもあり、早急に厳正な保護対策を講じ補完すべきものと考えます。

 

2.国有林の機能類型区分上の問題点

1.当該リゾート計画地域の大部分は国有林です。国有林はその管理単位である林班の個々の林分特性と活用目的別に、全ての林班が国土保全林・自然維持林・森林空間利用林・木材生産林という4種類の機能類型のいずれかに区分されています。しかし、当該地は約2.600haという大面積にわたって全て「森林空間利用林」に区分され、その最外郭はリゾート計画地域と完全に一致しています。

しかし、御嶽山上部の自然林の分布や連続性等の自然特性を本来の類型区分の趣旨に照らせば、常識的にみてもこのような広大な地域が一様に開発区域として区分されることは考えられません。御嶽山の地理的特性をも考慮すれば、基本的には針葉樹林帯自然植生の残る1.950m以上の地域は「自然維持林」及び「国土保全林」に、1,600m以下に「木材生産林」を配置し、その間の適当な地域を「森林空間利用林」とするのがおおむね妥当ではないかと思われます。

国有林の機能類型区分は「森林の有する諸機能が最高度に発揮されるよう」各林班の特性を基に判断されるものですが、万一、開発の要謂に応じて区分がなされるというようなことがあれば、”適切な機能類型区分に基づいて管理する”という国有林の管理方法が問題になることも予想されます。

2.また「森林空間利用林」は、「国有林におけるレクリエーション活勧の場」であるとともに「森林生態系として多様性、安定性の面から健全であることを目的とする」及び「国有林の文化・教育的な活用の場とする」とされています。このような区分指定の趣旨からすると、大規模なスポーツレクリエーションー辺倒の計画は、明らかに適切さを欠くと言わざるを得ません。

 

 

3.当該計画構想の問題点

自然環境保全の重要性は改めて申し述べるまでもなく、環境基本法、絶滅の危機に瀕する動植物種の保存法の新たな制定、あるいは生物多様性条約の批准・発効、さらには全国の大規模リゾート開発の見直しがすすむなど、全国レベルで自然環境の保全に対する意識が高まっています。そういう中で、この自然植生の残る高標高部までをも使う大規模リゾート開発構想は妥当性に欠けるといえます。

1.本リゾート計画における自然保護への対応を見ると、例えば開発地の設定については、森林限界の上は除外しその下の針葉樹林帯は特殊な植物の群落のみを部分的に除外した上で開発上限を設定するという方法がとられています。このこと から、森林限界の上への配慮は当然としても、本地域の針葉樹林帯の重要性の認識は極めて低いことがうかがえます。

2.ところが構想の記述中には、「連続的に植生の推移を観察できる数少ない垂直分布帯がある」とされ、そこへの対応として周辺の林分を「保全区域」として保護すると説明しています。しかし、この保全対象地である1183~1185林班は、国有林の機能類型上は従来の森林施業を行う「木材生産林」に区分されており、すでに施業が行なわれています。一方、1186林班をはじめとする他の「保全する地区」は、すでに「国土保全林」か「自然維持林」に区分されており、本来開発利用ができない地域です。

これらのことから、現在外部に説明されている、”開発計画における「保全区域の設定」”とは計画対象外の地域をさすものであり、計画の一部として当該計画地域内に「保全区域」が設定されているわけではないことになります。このような形で、”開発計画では保全計画も満たしている”とは言えないはずです。

3.さらにこの計画が、このように大規模となった理由のひとつには、事業者側が計画原案をH・G・Pの指定条件に合致させようとしたとも考えられます。しかし、H・G・Pの本来の趣旨である「人と森林とのふれ会い」とは、このように自然度の高い森林を滅少させ、地域の開発事業をむやみに拡大させることではないはずです。この点も関連した問題点と言えます。

※この意見書に添付されていた別紙図表は省略しました。

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