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「太平洋の時代小笠原諸島の明日は… 」

1991.09.01
解説

会報『自然保護』No.352(1991年9月号)より転載


さる5月27日から6月2日にかけてハワイのホノルルで、第17回太平洋学術会議が開催された。母体となる太平洋学術協会は1920年にハワイで設立され、4年ごとに国際会議を開いてきた。昨今は太平洋の時代という言葉がもてはやされているが、70年も前に太平洋地域の政治・経済・文化・自然科学を統合する学際的な研究を目指す組織が作られたことは注目に値する。

今回のメインテーマは「太平洋の世紀に向けて・・・・・・変革への挑戦」となっており、その下に次の6つのサブテーマが設けられた。「地球環境の変化―太平洋地域の現況」「人口、保健と社会的変化」「科学と文化」「生物学的多様性」「発展のための技術-21世紀への展望」「地球と宇宙の動態-太平洋の場合」、これらのもとに約170のシンポジウムが企画され、研究発表や討論が行われた。

これらのうちで自然保護に関係したシンポジウムは、おもにサブテーマ「生物学的多様性」の中に含まれ、「持続的開発に関連しての生物学的多様性」の下位テーマのもとで7つのシンポジウムが開催された。

筆者は「持続的開発の概念と生物学的多様性の保持」というシンポジウムの一部の講演を聞いたにすぎないが、概説的なものが多く、具体的な問題の解決について参考になるような事例報告が少ないのには物足りなさを感じた。また、いくつかの報告の中では、日本の企業による海外での森林伐採やゴルフ場開発への批判的な言及があり苦い思いをした。

太平洋諸島の一員としての小笠原の島々   

一方で、別に開かれた学術的な研究報告のシンポジウムには興味深いものが多かった。特に、3日間にわたって行われたシンポジウム「破壊と回復の実例としてのクラカタウ島」では、1883年の火山噴火により壊滅した生物相がこの100余年の間にいかに回復してきたかについてさまざまな分野の研究が集められており、圧巻であった。

筆者は、長崎大学の伊藤秀光博士とハワイ大学のミュラー・ドンボウ博士がオーガナイザーとなった「太平洋諸島の比較植生生態学」のシンポジウムで小笠原の植生についての報告をおこなった。このシンポジウムでは、トンガ、クック諸島、マーケサス諸島、サモア、ニュージーランドなどからの報告もあった。ハワイのマウイ島には、フトモモ科のオヒアという木の森林があるが、実は小笠原にもムニンフトモモというオヒアと同属の木があり、ハワイとの類縁関係が推定されている。ムニンフトモモはいまや絶滅に瀕しているが、遠い昔、小笠原にも雲霧帯があったときには、この森林と似たようなところがあったのかもしれない。小笠原諸島をこれら太平洋諸島の一員として認識することの重要性を痛感した。

小笠原兄島への新空港建設の見直しを求める決議   

さて、筆者は現在、東京都がすすめている小笠原兄島空港建設計画の見直しを求める運動の世話人をしている。そこで上記シンポジウムの席上でこの問題について簡単な説明を行い、賛同を求めたところ、シンポジウムの決議として取り上げられることになった。さらにこの決議は上部の会議に諮られ、最終的に太平洋学術会議の決議文No.13として採択された。この決議文はミュラー・ドンボウ博士を通じて近く、環境庁長官、東京都知事、小笠原村長に郵送される事になっている。

(清水 善和/駒澤大学助教授)


太平洋学術会議の決議文13の邦訳

小笠原諸島の兄島に予定されている空港建設は大規模な植生の破壊を引き起こし、固有の植物相ならびに動物相を絶滅に追いやる可能性があると、本会議に報告されたので、太平洋学術協会は、関係各機関が環境影響アセスメントの過程で、学術的な価値を適正に考慮され、代替の輸送手段も含めて検討されるよう要望する。

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