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2017.03.29(2019.07.08 更新)

東南アジアでサシバの保護活動が始動!

解説

専門度:専門度4

密猟根絶のための活動の一環で行ったルソン島山間部の小学校でのサシバの渡りの観察会。

テーマ:生息環境保全

フィールド:里やま

日本でのサシバの暮らしが明らかになりつつある一方で、渡った先の東南アジア各国での暮らしぶりは、まだ分からないことばかり。海を越えてサシバ保護に取り組むため、東南アジア各国と連携した調査・保護活動が始まっています!

 

山﨑 亨(アジア猛禽類ネットワーク会長)

フィリピン・ルソン島北端のサシバ飛来地

 

個体数が年々減少しているサシバは、日本では絶滅危惧Ⅱ類に指定されています。環境省の「サシバ保護の進め方」では、「サシバの保護には繁殖地だけでなく、越冬地・中継地の保全が不可欠であり、海外の越冬地・中継地の情報収集にも努め、国際的な協力を図っていく必要がある」とされています。しかし、日本で繁殖するサシバが越冬する地域がどこなのかや、越冬地での生息場所などは、完全には分かっていないのが現状です。

タイでの猛禽類の渡り調査

 

アジア猛禽類ネットワークは、2012年~13年にかけて、東南アジア各国と連携して秋の渡りの現地調査を実施しました。

その結果、サシバの渡りは、中国からインドシナ半島を経由してマレー半島へと移動する西ルートと日本と中国から台湾を経由してフィリピンに向かう東ルートが存在することが明らかになりました(下図)。また、東ルートの各地で継続的に実施されているサシバの渡り観察の結果によると、台湾に飛来する個体の多くはフィリピンに渡り、さらにパラワン島、ボルネオ島、スラワシ島へ渡っていく個体が存在することが分かります。つまり、日本で繁殖するサシバは、琉球列島だけでなく、台湾やフィリピン以南でも越冬する個体がいることが示唆されました。

東南アジアにおける猛禽類の渡り共同調査の結果(2012年~2013年)

 

場所によって異なる食性

サシバは日本では里やま生態系のアンブレラ種として知られ、主に水田や山間部の水系に生息する昆虫類・両生類・爬虫類を捕食していますが、渡り途中や越冬地での食性や捕食する環境は、日本とはかなり異なっているようです。

越冬地でもある奄美大島では、道路の法面や山間部の水系、水田跡だけでなく、引き潮になった干潟に降りて小型の海洋生物を捕食している姿をよく見かけます。これは台湾でも同様です。フィリピンでは越冬期にどのような環境でどのような種類の獲物を捕食しているのかはまだ詳しくは分かっていません。しかし、地元の住民は、フィリピンでは日本のように水田でサシバを見かけることはほとんどないと話していること、春の渡り時期には多量に発生する大型のコガネムシを捕食していることが知られていることから、フィリピンでは、山間部の水系沿いでさまざまな小動物を捕食していることも考えられます。

 

越冬地での脅威

そして、実はこの越冬地にサシバの生存にとって大きな脅威があることを、14年7月にフィリピン・ルソン島北部での調査時に知りました。地元住民の話によると、ルソン島北端部のカガヤン州とイロコス州では、春の渡り時にココヤシ群生地にサシバが多く集結し、そのサシバを地元住民が伝統的に密猟しているというのです。その後の地元大学生の聞き取り調査によると、春の渡り時期(3月中旬~4月中旬)に少なくとも3500~5000羽ものサシバが主に夜間に射殺されている可能性があるとのことでした。
越冬地や渡りルートであるフィリピンの一部で多数のサシバが未だに殺戮されているという事実は、日本で生息環境の悪化によって年々減少しているサシバの存続にとって、極めて憂慮すべき事態です。そこで、密猟根絶のため、私たちは地元の大学や行政機関などと連携し緊急プロジェクトに取り組むことを決定しました。

 

フィリピンでのサシバ保護

アジア猛禽類ネットワークでは13年から、フィリピン野鳥クラブ会員と共同で、地元の大学生や行政関係者などを対象に、猛禽類保護の重要性を伝える講演会や観察会を開催してきました。今年の春の渡りの時期からは、密猟根絶の緊急プロジェクトとして、地元の2大学の学生が渡りの期間中、毎日連続して密猟監視と渡りの調査を実施することにしました。また、小学生などを対象に、サシバの話や渡り観察会を行いました。
「フィリピンから緊急レポート  サシバ密猟の実態にせまる!」で紹介したサシバの密猟はこれらの活動中のことです。

実際に銃撃されたサシバを目の当たりにするのはショッキングなことでしたが、今回開催したサシバ保護セミナーに参加したハンターの一部が改心し、密猟を根絶するためのアクションとして、緊急に地元市長を交えた協議の場を設けられたことは、思いがけない嬉しい出来事でした。

市長は、住民の生活に不可欠なココヤシの食害を引き起こすコガネムシを捕食し、被害を抑制してくれるサシバの保護対策を確約するとともに、ハンターをエコツアーのガイドとして活用するプロジェクトに我々と共に着手することを表明してくれたのです。

ココヤシ林に大量に発生し、サシバの格好のエサとなるコガネムシ。

 

 

私たちは今、サシバの渡りを核としたエコツアーの実現を目指しています。監視強化などによって密猟が一時的に無くなっても、伝統的に続く密猟の慣習を抜本的に根絶しない限り、いつまた再発するか知れません。根絶のためには、地元住民に自然環境保全や昆虫などによる農業被害抑制における猛禽類の重要性を徹底的に普及啓発するとともに、サシバを地域資源として位置付ける必要があります。

過去には日本の宮古島や台湾でもサシバの密猟が行われていました。しかし、現在では密猟はなくなり、逆に地域振興のための貴重な自然資源とみなされています。渡りの時期には多くの人々が観察に訪れ、さまざまなサシバグッズも販売されています。サシバなどが群れをなして上昇気流に乗り、川の流れのように大空を次々に滑空していく光景は誰もが感動を覚えるものです。その感動を多くの人々に伝えるとともに、地域振興に活かす「サシバエコツアー」を実現することが、密猟の根絶に不可欠であると考えています。

 

アジア全体の自然保護に

東南アジアで国境を越えて渡りを行う猛禽類は55種※にも及びます。これらの猛禽類が存続するには、繁殖地・渡りルート・越冬地のすべての環境が保全されている必要がありますが、その実態は分からないことだらけです。このため、真に猛禽類の保護を図るには、東南アジア各国が連携して猛禽類の渡りを明らかにする共同調査をさらに進展させ、その結果に基づいて、地域住民と一体となった持続的に効果ある保全対策を広域に講じることが必要なのです。
かつての日本の農村風景のような、のどかで豊かな自然に恵まれたルソン島北部で、地元住民と共に進められるサシバ密猟根絶プロジェクトは東南アジア各地でのモデルとなり得る画期的な取り組みです。今後、日本自然保護協会とも連携することで一層積極的に活動を続けていく覚悟です。プロジェクトを成功させるため、一人でも多くの方に関心を持っていただき、来春から試行するエコツアーにも参加して欲しいと願っています。

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