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2017.02.02(2017.04.02 更新)

「自然資源を活かした地域づくり全国フォーラム」を開催しました:(後編)

専門度:専門度4

テーマ:自然資源

フィールド:東京都能登市

こんにちは、市民活動推進室の後藤ななです。
こちらでは前編に続き、自然資源を活かした地域づくり全国フォーラムの後編レポートをお届けします。

 

今回のフォーラムでは、「自然資源を活かした地域づくり」を進めていくことの重要性とともに、地域の中ではそうした地域づくりを推進していく担い手の重要性についてもお伝えするために、午後の部では、この「担い手」についての話題を中心に取り上げました。

 

 

午後の部のはじめには、三菱UFJリサーチ&コンサルティングの阿部剛志さんより「いま『地域創生』に求められる人材とは」というタイトルで、政府が進める政策としての“地域創生”の解説に加えて、実際の現場で地域づくりを担っていく人とはどんな人なのかをご発表いただきました。阿部さんは、調査研究・関心分野として一貫して地域振興策に関わってこられ、昨年度より地方創生人材支援制度で新潟県の粟島浦村で実際に地域づくりに取り組んでいらっしゃいます。

発表では、地域づくりにおいては、地域を客観視し現状把握・分析の重要性に加えて、地域の中にいる人で“自分ごととして地域で何かしたい”という想いのタネをもつ人が、そのやりたいことを軸にして支え合えるチームを作っていくことが重要だとありました。従来の“地方創生”として語られていた「地域でやるべきこと」という漠然とした課題・目標から、「○○さんがやりたいこと」まで落とし込めてこそ、主体性とそれを支える仲間ができます。また、一人ではなく、や立場・特技など、異なる軸を持った人々がチームになることが、やりたいことを実現するために非常に大きな力になることがあることについて、事例を交えながら紹介していただきました。

また、発表では、異なる軸をつなぐために「共通の価値」が必要とありました。例えば農林水産業では、異なる軸の人同士でも「おいしい」が共通価値になりえますが、特に自然・生物多様性という視点から地域づくりを考えるときには、取組みをはじめたきっかけや想いといった「ストーリー」の共有が大切なのではないかというメッセージをいただきました。

発表の最後には、NACS-J後藤から「『自然資源を活かした地域づくり実現塾』の紹介と成果」と題して、後藤より発表させていただきました。ここでは、今年度、NACS-Jと環境省で実施した「自然資源を活かした地域づくり実現塾(以下、実現塾)」について紹介しました。また、本発表の後半では、実現塾の受講生である内山義政さん、中谷翔さんにお越しいただき、受講生を代表して実現塾に参加したきっかけや参加した様子などを発表いただきました。

 

 

▲「自然資源を活かした地域づくり実現塾」集合写真

NACS-Jでは、前編冒頭でもお伝えしたように、里山を現代的に活用することで、地域の生物多様性保全につなげ、そこから自然の恵み(生態系サービス)を生み出し、地域づくりにアプローチしていくことが重要だと考えました。しかし、こうした考えのもと取組みを推進していくためには、地域に暮らしながら地域づくりを担っていく方々の協力が不可欠です。また、“自然資源”と一言で言っても、地域の自然・生物多様性や文化、歴史とのつながりを読み解き深く理解するためにはどうしても時間が必要です。

そこで、NACS-Jでは、今回、すでに地域で自然や生物多様性に真摯に向き合い活動を実施し、地域づくりに高い関心を持つ方を対象にして、「自然資源を活かした地域づくり実現塾」という合宿研修を実施しました。実現塾には全国から70名にも及ぶ応募者があり、そのなかから23名の方と一緒に、9月に東京、11月に能登で合宿研修を行いました。

実現塾では、今回の全国フォーラムでご講演いただいた方々にも講師になっていただき、「自然資源を活かした地域づくり」を進めていくために必要となる、生物多様性や木質バイオマスの現代的利用などの基礎知識の提供や地域の事例をご紹介いただきました。また、実現塾の東京・能登の研修を通じて、受講生の皆さんには、実際の地域で実現するための地域づくりのアクションプラン(行動計画書)を作成することを1つの目標としました。実現塾の最後には、5人ほどのチームになっていただき、この作り上げたプランをチームでひとつに絞って完成・発表いただくというプログラムを行いました。

合宿研修では、様々なプランが完成し、さらには終了後にも、受講生同士の交流は続き、お互いのフィールドへの行き来や実際に里山の手入れを手伝うというアクションにもつながった場所もありました。作成したアクションプランを実現するために、終了後も地元での情報収集や仲間との共有、イベントの開催なども各地で進んでいます。

 

 

▲内山さんの発表

受講生である内山さんからは、実現塾を通して、地元・静岡にあるススキ原の広がる高原を保全するために、高原につながるみかん畑とススキの活用をつなげられないかとアクションプランを作成されました。実現塾を通して、同級生とのつながりを活かして意見交換をしたり、農産物流通関係に関わる実現塾の受講生と一緒に現地の視察などを進めています。

 

▲中谷さんの発表

もう一人の受講生である中谷さんからは、地域の農林漁業の副業を通じて地方で暮らしていけるライフスタイルを提案していくアクションプランを作られました。そのプランを、実現塾で出来上がったチームの仲間と一緒になって完成させていくことで、このアクションを通じて地域のどんな自然資源を活用し、何が保全されるのかをしっかりと掘り下げることにつながったことをご紹介いただきました。

全国フォーラムの最後には、パネルディスカッションを行いました。パネルディスカッションでは、本フォーラムの副題にもある「生物多様性から社会課題にアプローチする」人とはどんな人か、実現したいアクションを一緒に支え合えるチームはどうやって築けるのかについて議論をしました。

▲パネルディスカッションの様子

午前の部でご発表いただいた萩のさんと伊藤さんからは、お互い動機が異なっていた人同士が、価値観を押し付け合うではなく考えながら接して一緒に歩むことでここまで活動を築いてこられたということ、そして大義が先行してしまいがちの保全活動ではなく、お互いの強みを活かし関係性を作ってきたことをご紹介いただきました。阿部さんからは、その話に加えて、そうした異なる軸を持った人たちが一緒に活動することでその活動の外で納得感を得る層が大きく広がるのだろう、という発言がありました。さらに、白川さんからは、こうしたチームを作っていくためには「隙がある」ことが重要ではないかとありました。自分に隙があることで、地元の人に多く話してもらえる、話してもらうことで多くの知恵が得られるといった経験を話していただきました。

印象的だったこととして、ディスカッションのなかで「心の豊かさ」が重要ではないかと繰り返し出てきたことです。萩のさんや受講生の中谷さんの発言にも、「自分や家族が豊かに暮らすため」「自分は楽しく進めていきたい」といった言葉があり、白川さんからも「笑顔で語ることが大事」「生きもの・自然が好きな人が重々しい顔をしていてはうまく伝わらないのではないか」という発言もありました。

フォーラムを通して、「地域づくりを進めていく担い手」としての心構えとして、1人で邁進するのではなく、様々なアプローチを持つ仲間でチームを作ることで生物多様性の多様な価値を引出すことが重要ということは繰り返し触れられてきました。パネルディスカッションでは、そのためにも、自分や活動に関わる人たちが、関わることで幸せになっていくことが大切だということが一つの結論となったように思います。また、そうして多様な軸を持つ方々が活動に関われることで、身内だけの豊かさではなく地域の豊かさに広がっていくというプロセスが、自然資源を活かした地域づくりでは重要だということだと感じました。

 


午前10時から16時半までという長丁場に及んだイベントとなりましたが、本当に多くの方々と、真剣に自然を活かしていく地域の未来像について考える時間となりました。ご来場いただいた皆さま、ご登壇いただいた皆さま、ご参加いただき心より感謝申し上げます。

 

NACS-Jでは、今後も自然資源を活かした地域づくりを、ご来場いただいた皆さま、関心をもっていただいた皆さまと、進めていきたいと思います。今後もぜひご注目いただければと思います。

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